独立のススメ――デザイン事務所YellowHouseの収支をぶっちゃけます!(中編クラウドソーシングサービス戦記)
正直にいうと、デザイン事務所を立ち上げたといえば聞こえはいいが、当初半年ぐらいは受注ゼロみたいな憂き目も全然ありうるだろう、と思っていた。名刺を作ろうが公式webを作ろうが、傍からみればごっこ遊びに過ぎないのではないか? 冷ややかな目で見られてだれにも相手になんかされるはずがない、と。
独立やフリーランスの生命線は、人脈である。はっきりとスキルは二の次、なにはなくとも仕事をとってこれるかどうかだ。にも関わらず、そもそもぼくは営業経験がない。デザイナーの常として、人付き合いが得意なタイプでもない。現職の会社では、新卒の営業社員が半年電話がけして受注できないなんて光景を、嫌ほどみてきた。さらにいえばいまの会社でデザインした制作物は、権利の関係でポートフォリオとしてweb公開できない。恥を忍んで前職の先輩方に名刺を貼った年賀状を出してみたものの、結果は見事に梨のつぶて。始めていきなり八方が塞がった。そんなぼくの最後の頼みの綱は、クラウドソーシングサービスだった。
総務省の定義によれば、クラウドソーシングサービスとは、下記のようなものになる。
不特定の人(crowd=群衆)に業務委託(sourcing)するという意味の造語で、ICTを活用して必要な時に必要な人材を調達する仕組み
要は、仕事がほしいフリーランサーと仕事を頼みたい企業をweb上で結びつけるサービス、いわば仕事のマッチングアプリである。読者諸兄は、マッチングアプリをやったことがあるだろうか? 心が折れるから、やめたほうがいいよ。条件のいい異性にはイイネが殺到し、あれよあれよと倍率100倍200倍の世界になる。あれ、恋人を作るっていつからわりと大手の小説新人賞並の難関になったんだ? と気が遠くなったのを覚えている。いや、そんな話はどうでもよくて。
クラウドソーシングサービスも、それと同様だ。ちょっと条件のいい案件にはピラニアみたいに血に飢えたフリーランサーが群がってくる。しかもその実力は、軒並みけっして低くない。素人に毛の生えたような人ばかりなのでは、と軽く考えていたがとんでもない話だ。なぜこんな才能のある人がこんな低単価の案件に群がるんだ……と戦慄すること請け合いである。
クラウドソーシングサービスの最大手、クラウドワークスの会員数は、2015年から2017年のわずか2年の間に2倍以上に増加している。日本のクラウドワーカーの総数は150万人といわれ、昨今の新型コロナの煽りを受けて、今後さらなる増加は必至である。仕事を受注する競争率は、熾烈を極める。
なにより、クラウドソーシングサービスもマッチングアプリとおなじく、実績のある一部のフリーランサーにクライアントが集中し、その実績と高評価がさらにその人に仕事を集めることになる。逆も然りで、実績がないフリーランサーは、仕事が来ないからさらに実績を積めないという地獄のスパイラルにはまるのだ。
クラウドソーシングサービス――それは新しい働き方の試論であると同時に、その実態は血で血を洗う弱肉強食のサバンナなのである。
ぼくにとうてい勝ち目はない――かに見えた。
(後編に続く)