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読書メモ #2『白いしるし』西加奈子

西加奈子さんの作品を読むのはこれが初めて。
元々はなんとなく『さくら』を買おうとしたのだけど、恋愛ものが読みたかったのでこっちを選んだ。

若い頃恋愛にのめりこんで痛い目をみた夏目が、間島という男に出会って沼にハマる。

困ったことに、間島に彼女がいると分かりながらハマる。
彼女がいるとわかっているから余計ハマるのか。

口下手で、何を考えているかよく分からない。でも思ったことはまっすぐ、恥ずかしくなるくらいまっすぐ伝える。
距離感の保ち方が絶妙で、こっちを好きなのか、そうじゃないのかよく分からない感じ。
こういうタイプはほんとにタチが悪い。
でも、ほとんどの人間はこういうタイプに一度はハマると思う。

夏目もその1人で、過去に散々痛い目をみたから恋には消極的だった。
私もほとんど似たような経験があるからか、読んでいて目を背けたくなった。

ハマったらやばいと分かりながらも間島に全身浸かってしまった夏目に、少し嫌悪感というか、共感性羞恥みたいなものすら感じた。

間島が自分に彼女がいることを夏目に伝えるシーンがあるのだけど、それまでは夏目の立場になって読んでいたのがこの瞬間に彼女に思いを馳せてしまった。
彼女にバレて~みたいな描写がない分、余計。

間島にとっての彼女の存在の中途半端さにも苛立ったし、そんな男と付き合っている彼女も。
でもきっと彼女も夏目と同じように間島沼なのかもしれない。この沼から抜け出すのはかなり時間がかかる。

こういう人間がある種 モテて いるのは、
人間の恋愛欲を掻き立てるからだと思う。
追いかける恋愛が容易に出来る。
最初こそ、ちょうどよく餌を与えてくれるのでどんどん追いかけるスピードが上がる。
でも段々と餌をもらえなくなる。その頃にはもうその足を止めることが出来なくて、見事沼が完成する。

間島はそういうことを無自覚にやってしまうタイプだろう。
お辞儀の仕方や、言葉選びの慎重さからも、根の誠実さが垣間見える(だから余計危険だ)。

間島は、ひと夏のアバンチュールをするのにはうってつけの人間だけど、ロングスパンの恋愛には不向きな人選だ。読んでしばらく経てば冷静になる。

瀬田が猫ばかり構うのに嫉妬して殴られた笹山さん、帰ってこない彼女を待ち続けている瀬田、瀬田が自分だけの物にならなくてもいいと泣く笹山さん、出ていった彼女が残した猫にすがる瀬田。

お世辞にもまっすぐとは言えないが、夏目もこの2人も、人を好きな気持ちだけで生きている。
間島だけがこの蚊帳の外にいる気がした。

この本を読んで、好きな人が自分を好きになってくれることはかなりの奇跡なんだと、高校生のような事を思った。

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