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20240916_虎のたましい人魚の涙/くどうれいん

・テクマクマヤコン。

・コンパクトが出てくると、「お」と思う。これは単純なコンパクトの呪いだ。

・たとえば古文とかで、この花が出てきたらそれは登場人物の悲しみを暗に表しているんですよ、みたいな約束があったりするけど、その系譜はあらゆる芸術の中で、もちろん現代にも受け継がれていると思う。

・いわゆる形骸化されたエモというようなものも同じかな。その中のひとつが「コンパクト」で、ひとつといいつつ、かなり強力だ。

・女児の憧れ、キラキラした魔法のアイテム、それでいて働く女性の武器であり、社会が求める常識の一部でもある。つまり、コンパクトが表すものは多く、それがそのまま、多面的な女性ひとりそのものに見える気もする。

・これが文章にでてきて「お」と思うのは、特にエッセイだと、ここで使っていいのね?!強力な一撃をいまここで?!という意識かもしれない。エッセイストはたぶん同じような話を何度も書くことはできず、つまり「コンパクト」というパワーワードを使うタイミングは限られていると思うからだ。

・ただ今回くどうさんが使った「コンパクト」にそこまでの気合いは感じられず、むしろその「コンパクト」をさらっと使う姿勢すら感じられたが(そう見せる作家の技があるのかもしれないが)、それでも私が思うくどうさん本人のキャラクターと「コンパクト」は、あまりにも相性がよすぎた。

・私自身はコンパクトそのものに憧れた記憶や経験はなく、いま実物を見ても、化粧品、、と思う。他のかわいらしいリップとかアイシャドウパレットとかとの違いはない。それはそれで「エモ」の余地を感じるが、とにかく「コンパクト」はくどうさんに持っていてほしいものである。

・この「コンパクト」の呪いというのは、「私には似合わないぜ」とか「女性にとって特別なものだぜ」ということでは決してなく、作者が意図しなくても私になんの思い入れもなくても、勝手に「お」と読むのをとめてしまうワード、という意味で読者としての私への呪いだ。

・別に「『コンパクト』使いやがった!!」とかまでは思わない。「お」と思って、「テクマクマヤコン」(これ別に世代ではないのに)と思って、終わりなんだけど、今回は「お」が気になってちょっと整理してみました。

・そもそも「コンパクト」って「けいたい」と同じで言葉そのものの意味としては本当は違うのに、でもやっぱりあれは「コンパクト」なんだよな。だって「けいたい」は完全に「けいたい」だし。

・くどうれいんさんは、自分と似ているなあと思うところと、似ていないなあと思うところがはっきりとあり、私みたいな人間嫌いそうだなあ、でもそう言ったら「すきですよ」と言ってすきになってくれそうだよなあ、でもそう言ったら、、と考えてしまう。

・私が読むエッセイストの中ではめずらしく、はっきり顔を認識しているので、文章とともに彼女自身が頭に浮かぶ。大体かわいい花柄のワンピースかグレーのスーツを着ている。じたばたしている。愛おしいなと思う。

・彼女の文章を読むと、周りにいる親友たちに思うのと同じように、「絶対幸せでいてくれよ」と思う。読者を友だちにしてしまう人だから。

・うたうおばけに引き続きかわいい表紙。バッグにいれているだけでお守りになる。実用的でありメンタルにも効く、これこそ「コンパクト」みたいな存在かもしれない。

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