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レポート・論文の授業のためのメモ
笠木雅史さん(名古屋大学)がレポート・論文教育の問題についてだいぶ前から色々と書いてくださってて僕も気になっている(けど解決できてない)ことがほとんどなもんで、ツイートをピックアップしがてら考えというほどのもんではない一言を書いておきたい。
(ちなみにこんなのをするのは僕が某tterから距離を取りつつあるので,いろんなツイートを取っておこうというのもある。)
まず、型を重視する風潮に対する疑義
論文、レポートの書き方はもちろん、学問には「型」があるみたいなことを聞くと、何十年遅れてんだよと思ってしまう。Thaiss & Zawacki (2006) Engaged Writers and Dynamic Disciplinesが、すでにそれを強調するのはよくないって、あれだけ言ってるじゃんと思うんだよね。
— Masashi Kasaki (@kasa12345) January 7, 2023
例えば、型論者に聞きたいのは、その型はいつ、なぜ成立したんですか、どのくらいの期間その型は存続してるんですか、その型を逸脱するとどうなるんですか、などだね。んで、そもそも型ってなんですか、ほんとに型なるものはあるんですかと最終的に聴きたい。
— Masashi Kasaki (@kasa12345) January 7, 2023
10年前、20年前の論文と今の論文比べてみてほしい。細かい点、大きな点でも相当違いますよ。分野によっても変動度は違うかもね。「型」って変わった部分は無視するか、過小評価しないと出てこないし、今後の変化の可能性も無視するか、過小評価しちゃうんですよ。
— Masashi Kasaki (@kasa12345) January 7, 2023
文字通り、「型破り」な論文、レポートがあったとして、どう評価するのかな。それは、論文、レポートじゃない、あるいはそれは「xx学」じゃないと評価するのか。そういう論文、レポートあってもいいし、むしろ新しい可能性を開いていると思いませんか。
— Masashi Kasaki (@kasa12345) January 7, 2023
冒頭で紹介されてるEngaged Writers and Dynamic Disciplinesはオープンアクセスになっている(リプライにある)。本文で170ページだからなんとか読めるかな(1人で要所読めない勢)。
もっと言うと「第一言語としての日本語の大学におけるライティング教育の研究」が言わばガラパゴス化していることが関連していそう。
第二言語としての英語ライティング教育は、ジャンル論などの英語圏の研究の影響が日本でも当然大きいのだけど、母国語としての日本語の大学ライティングの研究は海外の研究からほとんど独立しているのは、ものすごく不思議な現象だと常々思う。
— Masashi Kasaki (@kasa12345) May 10, 2021
これは別に答えでもなんでもないのだけど,印象として「日本独自の作文作法」があると思われている気もするし,『理科系の作文技術』と『論文の教室』や『これから論文を書く若者のために』あたりのベストセラーがその辺を強調していたことが影響していそうには思ってる。あと,この手の教育に携わる人の一定数が日本語以外の論文を読む習慣(必要性)のない分野だというのもありそう。他に,初年次教育全般がわりと実践報告ばかりを重視して,研究分野として考えられてない(あくまで副業)というマインドが大きそうな気もしている。ただその割に科研費を取ってたりするし,うーん。
ライティング教育の先行研究として必読文献(というか出版社)も紹介されているので,押さえておかないと。
ライティングやライティング教育研究は、アメリカでは専門分野としてそれなりの歴史を持っていて、専門書、論文もたくさん出ている。WAC Clearinghouseという出版社が大量にオープンアクセスで研究書を出版しているので、関心がある人は一度見てみればよいと思う。https://t.co/ZYTb0clDwW
— Masashi Kasaki (@kasa12345) April 14, 2024
初年次教育全般がわりとそうだと思ってるけど,2年次以降の専門教育に結びつきにくいという問題を抱えている。僕は勝手に「2年次プロブレム」と呼んでいたのだけど,単に「汎化」と言ってしまえばいいじゃないかという。
で、これもやっぱり研究ある。
アメリカだと初年次の一般的ライティング教育は専門教育との接続がうまくいかないし、学生の専門ライティング理解を阻害することさえあるという調査や研究は山ほどある。
— Masashi Kasaki (@kasa12345) July 17, 2020
レポート評価基準の調査や効果検証は行われていて,方法論としても参照しておくべきだろうなあ。
Greasley, P. and Cassidy, A., (2010) "When it comes round to marking assignments" 教員の学生のレポートの評価基準についての調査。こういうのをもっと読みたい。同著者は、ライティング教育の効果検証調査もやっている。https://t.co/R5OLpYtARz
— Masashi Kasaki (@kasa12345) February 9, 2021
そして汎化批判もされている。
僕は現在の一般的アカデミックライティング教育やクリティカルシンキング、論理的思考についての教育の(その授業外の)有効性にかなり懐疑的なんですよね。そういうデータもかなりあります。それが先日の学会の発表内容でした。スライド(PDF)を公開しておきます。https://t.co/HilkNCGQwl
— Masashi Kasaki (@kasa12345) February 15, 2019
初年次教育と専門教育の結びつかなさについては、ハーバード大学にある専攻分野別のライティングガイドを紹介していて
ハーバード大学が専攻別のレポート書き方ガイドを公表していて、これは非常に良い。https://t.co/IG9f3AQ4VZ
— Masashi Kasaki (@kasa12345) June 7, 2020
これに触発されて日本の本をまとめたことがある。
言語学は「言語学における修士論文•博士論文執筆の手引き Ver 4」(松本曜 /2021年,researchgateは埋め込めないから画像にリンクした)
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あと『大学生のための日本語表現トレーニング ドリル編』(安部朋世,福嶋健伸,橋本修/2010年)は一般の大学向けっぽく見せてかなり日本語学・言語学寄り。
心理学はこの手の本が多くて,ひとまず読みやすさで『ステップアップ心理学シリーズ 心理学レポート・論文の書き方 演習課題から卒論まで』(板口典弘,山本健太郎/2017年)を選択した。
北星は法学もあるんでちょっと手に取った。法学者と日本語教育学者のコラボは珍しい。『法を学ぶ人のための文章作法 第2版』(井田良,佐渡島紗織,山野目章夫/2019年)
この辺,看護は手厚い印象がある。『この1冊でできる! はじめての看護研究』(前田樹海/2015年)とかこんなポップな感じのものは人文社会系では見ない。
経済学はマーケット(学生数)が多いのだからもっとありそうなもんだけど,そもそも卒論を書かないところが(たぶん)多いんだよなあ。『経済論文の書き方 』( 経済セミナー編集部 編/2022年)はその意味で珍しいのだけど,オムニバスになってるから一貫性に注意が必要かもしれない。
歴史学がこの辺はちゃんとしていそうで『歴史学で卒業論文を書くために』(村上紀夫/2019年)が出ている。
社会学は質的研究,量的研究さらに…と細分化していてそれぞれの分野で(おそらく)出ているんだと思う。ちょっと目を通せてない。
ひとまずこんなところで。