僕が僕を諦めそうな時
前にも書いたけど、僕は人との間に線引きをして、乗り越えられる人を信用できる人と考えてるところがある。
正直面倒な性格だけど、こんな自分と、これまでなんとか付き合ってきた。
その線を乗り越えるためにテストを課してる訳でもないし、最初は誰だって越えてきた。
”スピーディーテリトリーイン” と呼ぼう。
でも、気付いた。人の心は移ろいやすい。
軽々と越えてきた人は、軽々と出て行く。
”スピーディーテリトリーアウト” だ。
そうした経験から僕は、濃いめの線引きをするようになった。
でも稀に、とてもナチュラルに僕のテリトリーに入ってくる人がいる。
軽々と越えてくるのとは違う。嫌な感じじゃなくて、いわゆる、フィーリングが合うってやつ。
”ナチュラルテリトラー” と呼ぼう。
社会人になって出会った同期はまさにそれだった。
たまたま同じ年代に生まれて、たまたま同じ業界に興味を持ち、たまたま同じ会社に入社した。
たったそれだけなのに、それがぴったりハマった。
会話の中で例えるものにすら、僕と同じセンスを感じる。
居心地が良かった。
仕事に息が詰まった時には「行くか」という一言で、飲みに行った。
いつからか行きつけと呼べる沖縄料理の店や餃子の店ができた。
去年、家族のことで辛く受け入れ難いことがあった。
誰にも相談できなくて仕事も手につかないくらいだったけど、そんな僕の心とは裏腹に、仕事はどんどん降ってきた。
でも仕事をしている間は、悲しいことを考えなくて済んだ。
気付くと僕は、今までなら調整できてたはずの仕事量のキャパを超える仕事を受け入れて、朝から晩まで働くようになった。
そうして1年が終わった。
今年に入って1ヶ月が過ぎた頃。
「お前性格変わってるぞ」
目の前に座る同期に言われた。
言葉の意味が分からず笑いながら同期を見ると、同期は「それ」と言った。
ずっと笑ってるし、ずっと喋ってるよ、と。
僕は気付かないうちに、今までよりも笑うようになって、今までよりも独り言が増えていたらしい。
その日、僕は同期を誘っていつもの餃子の店に行った。
全て話した。
泣きそうになるのをギリギリで堪えて話し終えた時、同期が涙目になっていた。
秦基博のひまわりの約束が頭で流れた。
実際は2人とも泣きはしなかったけど、おしぼりを片手で握り締めながら、いつ涙が流れてもおかしくなかった。
彼は、その事情が理由で僕の仕事ぶりが変わったことを理解してくれた。
僕が話を進めて、彼が「だからか」と言ってくれる度に、僕は僕を取り戻していくような感覚だった。
好きで入った会社で、何かを忘れるために働くのは、僕じゃなかった。
そんな僕を仕方ないと、僕自身が諦めていた。
でも僕が僕を諦めそうな時、捕まえてくれたのは同期だった。
逃げなのかプライドなのか分からないが、家族から離れようとしてる自分がいることを正直に話すと、彼は間髪入れずに言った。
「離れちゃダメだよ。そんなプライドなんかいいよ。周りなんか気にしないで一緒にいてあげな。」
驚いた、と同時に救われた。
もしかしたらずっと誰かにそう言ってほしかったのかもしれない。
僕は今も家族のそばにいる。
この道が正しいかはまだ分からない。
でもあの時僕が見てた道はたぶん間違っていた。
彼が僕の背中を引っ張って思いとどまらせてくれた。
実はまだちゃんと面と向かって "ありがとう" と言えていない。
僕らの間にそんな言葉はいらない、なんてかっこいいこと言うつもりはないんだけど、でも少し恥ずかしい。
いつか必ず伝えるつもり。僕を諦めないでくれてありがとう、と。
ただ今は、バカみたいに話して、バカみたいに笑っていたい。
久しぶりに同期とリモート飲みをして、今年初めにあったこの出来事、この気持ちを、思い出しました。
思い出と一緒に、ナチュラルテリトラーの彼への感謝を、ここに記録します。
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