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私たちいま本当に自由がない


看護師の友達から送られきた突然のメッセージ。




彼女と出会ったのは高校生の時、大学受験に向けて通う塾だった。

僕は途中から入塾して、既に出来上がっている空気に馴染めず、浮いた存在だったと思う。

加えて落ちこぼれだったから尚更。


彼女と仲良くなったきっかけは忘れたけど、授業がいくつか被って、休憩室で会うと話すようになって、とかだった気がする。

塾が終わってから、スタバで1時間くらい話したりしていた。

その時お互いに語った夢があった。

僕は英語を使って好きなことを仕事にしたい。

彼女は看護師になりたい。


大学に入ってそれぞれの生活が忙しくなっても、年に数回会って、お互いの夢を確認し合った。

大学生活を終え、僕はほんの少し英語を使う、好きなことができる会社に入った。

彼女は試験に受かり、宣言通り看護師になった。


社会人になってからも定期的に会っては、高校時代の思い出を話したり、あの時の夢を叶えたね、なんて言い合った。

彼女はよく言っていた。

「看護師にしかできない救い方がある。
だから看護師になった。」

かっこよかった。

命の隣で懸命に働く友人は輝いていた。


またある日は、2人で少しお洒落なレストランに行った。

外国人の店員さんと英語で話す僕を見て彼女は目をまんまるにして言った。

「○○が英語話してて感動した。
私は英語が苦手な○○しか知らないから。」

僕は思わず泣きそうになった。

全然英語ができないくせに、好きだからという理由で英語を使った仕事がしたいと言っていた僕の話を、笑わずに聞いてくれた高校生の彼女と重なったからだ。




そんな素直で純粋な彼女が疲れている。

心も身体も。


緊急事態宣言が解除され、世間的に外に出てもOKとなった頃、彼女から朝食を食べないか、と誘いを受けた。

僕はリモートワークで、朝から自宅缶詰だったため断った。

それからしばらく、彼女から連絡はなかった。

「また連絡して」

僕からのメッセージで止まったままのLINE。

ニュースでは医療従事者の人手が足りないとか、どんなに頑張っても先が見えないとか言っていた。

その度に、時間を作って会うべきだったのかもしれないと思った。

連絡するか迷って、LINEの画面を開いては閉じて、また開いては閉じて。

繰り返していた。


ピコン。

「元気?連絡遅くなっちゃった」

彼女からのLINEだった。

開くと文章は続いていて、

「私たちいま本当に自由がない」

という文章で締め括られていた。


胸が締め付けられた。

辛いことも嬉しいことも全部含めて、キラキラした目で仕事の話をしていた彼女が、文字面を見ただけで分かるくらいボロボロになっていた。

「無理しないでほしい」と言う以外、僕ができることはなかった。

今はただ、医療従事者の方々がこれ以上大変にならないように、しっかり感染予防をして毎日を生きるしかない。

そして落ち着いた時には、またゆっくり彼女と会う時間を作り、お互いの近況を報告し合いたい。

そんな日を楽しみにしながら、僕は今日もリモートワークに励む。






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