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「1月20日」と私の『ノート』――大統領就任日に8年越しの対話
アメリカでは昨日の1月20日が、大統領就任日でした。Martin Luther King Jr. Dayと重なるこの祝日に、大統領が就任したことにちょっと違和感を覚えています。
2025年1月20日――違和感を覚えた大統領就任日
この日は、人種差別に立ち向かい、非暴力による社会変革を訴えたマーティン・ルーサー・キング・ジュニア牧師を称える日です。平等や正義について考える貴重な機会であると同時に、私にとっては複雑な思いが交錯した日となりました。今回就任した大統領は、移民問題やマイノリティに関する発言・政策で物議を醸し、平等や多様性という価値観と相反する印象を与えていたからです。
就任直後の行動と感じた違和感
大統領は就任直後、何百もの条約にサインをする姿を見せました。その中には、世界に大きな影響を与えそうなものも含まれており、「Big ones」と発言しながら次々にサインしていく映像が印象に残っています。その場面からは、自分の影響力を存分に行使し、世の中を急激に変えていこうとする姿と意志があり、それに対して私は漠然とした恐怖を覚えました。
支持者層と広がる社会の分断
彼の支持者には、反移民を掲げる「MAGA(米国を再び偉大に)」派や、億万長者のグローバル化推進派(こちらは日経の記事を参照)がおり、さらに現在のアメリカ社会に不満を抱える若者たちの姿も見られます。確かに、社会には変化が必要だと感じます。しかし、その政策や発言が異なる価値観を持つ人々の間の溝を深め、国内の分断や対立を助長する可能性を考えると、正直なところとても不安です。
8年前の『ノート』を振り返る意義
ちょうど8年前、2017年のトランプ大統領就任時に記した『ノート』が見つかりました。その内容を読み返すことで、当時の自分の感情や考え方、そしてその後の変化を深く振り返る機会となりました。時代の大きな変化に直面した中で、自分が何を考え、どのように行動しようとしていたのか――その記録は、今の自分にとっても重要な問いかけを含んでいます。
2017年1月21日@NY――トランプ就任時の『ノート』
トランプが昨日就任した。
日本は平和だ。
TVではNY、Washington D.C., Boston, Seattleなどの大きな都市でWomen's marchが行われている。
私は平穏に暮らしたい一方で、こういうアメリカの熱い行動を観て、胸が熱くなる。
アメリカ国籍なら問答無用で参加してるだろう。
でも日本国籍だから、根は日本人だから、と思うとなかなか参加しようと100%思えない。
ただ、色んな人種が混ざる国にいるからこそ、暗黒(差別の激しかった)時代に戻そうかという大統領に危機感を抱く。
「暗黒時代に戻そうかという大統領」という表現には語弊があるかもしれませんが、前半はトランプの就任を受けて、アメリカでの大きな動きやその反応に対する自分の心情を描いた部分です。テレビに映る各都市の大規模な抗議デモで、多くの人々が平等や正義を訴えている姿に胸を打たれたことを覚えています。日本国籍の自分はデモに参加する勇気を持てなかったものの、多様な人種が共存するこの国で、差別の激しかった過去へ逆戻りしそうな政治の方向性に危機感を抱いていました。
その一方で、抗議行動の熱気に触れ、アメリカならではの市民の行動力に心を動かされました。「もし自分がアメリカ国籍だったら、この場に立っていたかもしれない」と想像しながら、平穏を望む自分と行動を求める自分の間で葛藤していたことを思い出します。
後半では、過去の経験を踏まえ、今後どのように自分を成長させていくか、また、目の前のことに焦点を当てて生きることを考えていました。
こういうのを見ると昔、9.11のテロが起こった時に一生懸命勉強して、
何で差別は起こるんだろう、なんで、根本はみんな同じなのに嫌い合うんだろう、
なんとか、どこの障壁を取っ払えないか、ハードルを低くできないか、という気持ちが膨らんできて、
私も何かできないかな、今NYで働いているけど、こんなんでいいのかな、
他にもっと大きなことできないかな、なんか活動できないかな、と思ってしまう。
自分の今の強みと言えば大統領交代という歴史的瞬間に立ち会えたこと、
現地の様子がよくわかる、アメリカの文化がよくわかる、ということ。
私は2年後、何がしたい?ずっとこのまま?
幸いにもやる気や自信がなくなった時、私の周りには元気を出させてくれる○○のような友達や、
SNSでは自分の夢を実現させようと私より何十倍もの努力をしている人たちがいる。
そういう人たちと出会えて、今でも繋がりを持っていることができて、本当に幸せだなぁと思う。
私も元気をもらえるし、自分のペースで、焦らず、頑張ろうと思える。
会社では与えられたことをひとつひとつ、まずは目の前のことからこなしていくこと。
正直でいること。誠実でいること。おごり高ぶらないこと。謙虚でいること。
笑顔でいること。優しくいること。穏やかでいること。
大きなことをしたい、と思っても背伸びはよくない。
ひとつひとつ、目の前の興味のあるところからやってみよう。
きっと大丈夫。
当時のノートには、社会の変化を前に「自分には何ができるのか」と模索する姿が記されています。9.11のテロ以降、差別や不平等の根本的な原因に対して何か行動を起こしたいと思い続けていた自分。しかし同時に、目の前の仕事や課題に追われ、何が最善なのか悩む日々が続きます。
それでも、自分を励まし、支えてくれる友人や家族、そしてSNSで努力を重ねる人々とのつながりに救われながら、目の前の一つひとつの課題を丁寧にこなしていこうという決意を新たにしていました。
「正直でいること」「誠実でいること」「謙虚でいること」――当時の自分が掲げていたこれらの価値観は、8年経った今も変わらず、私の中で重要な指針となっています。
振り返ると、2017年のトランプ政権始動はアメリカ社会に大きな衝撃を与え、多くの人々が社会の未来について考えるきっかけとなりました。そして私自身も、この時期に改めて「自分は何をすべきか」を問い続けていたことを思い出します。今なお続く社会の課題に向き合う中で、当時の葛藤や希望を原動力に、自分のペースでできることを積み重ねていこうと思います。
2017年と2025年の自分の変化
2017年当時、私は20代・独身・NY駐在という立場でした。一方、2025年の現在は、30代・子持ち・田舎街で夫の留学帯同という生活を送っています。この8年間で、私の環境だけでなく心境も大きく変化したように感じます。
2017年当時の不安と視点
当時、私は今後のアメリカに対する漠然とした不安を大きく感じていました。特に、アジア人に対する差別が広まるのではないかというネガティブな感情や妄想が強かったのを覚えています。その後は直接NYに住んでいたわけではありませんが、アメリカ全体における移民やアジア人への偏見が増している印象がありました。実際、後のコロナ禍ではそうした傾向が一時的に加速したように見えました。日記にも書いたように、多様な民族が共存する環境が失われることへの危機感から、「何かできないか」と模索していたのを思い出します。
2025年の心境と視点の変化
現在の私は、アメリカの将来に対する不安はあるものの、「なるようになる」と受け入れる気持ちが強くなりました。変えられないことは変えられない、と割り切り、状況がどうなろうともその時点でできることをするしかないと考えるようになりました。少なくとも、あと1年半の滞在期間において、今の環境でベストを尽くすつもりです。ただし、変な世の中にならないためにできることはし続けたいと決意を新たにしています。
また、心境の変化に伴い、次世代に対する考え方も変わってきました。例えば、アメリカ国籍を持たないことで感じる不便さや、帯同者としての立場ゆえの就職の難しさなど、個人的な課題も少なくありません。特に「アメリカ人ファースト」という政策がさらに進み、現在アメリカで生まれた子どもが自動的に国籍を取得できる制度が将来変更される可能性についても懸念しています。そのような状況が起こると、いわゆる「アメリカンドリーム」という概念が本当に消えてしまうのではないか、と子どもを持つ親として次世代に対する不安を抱くこともあります。
【おまけ①】2017年1月20日@NYーー前日の『ノート』
最後に…前日にも印象的な日記を書いていましたのでご紹介します。前半は仕事に関する内容だったため割愛し、後半のみ掲載しています。
明日は大統領の就任式なんだけど、日本といえば『タラレバ娘』とか、すごい平和な話題で盛り上がっているので、なんかギャップを感じる。NYは生き残ろうと毎日必死に生きている人たちばっかり。痴漢なんてしてる場合じゃないよ…。日本の男よ!NYは生き残れる人たちしかいない。
それ以外は外に追いやられる。または道端。
20代独身の視点と当時の社会状況
20代後半、独身だった私が書いていた日記の内容は、少々気恥ずかしくもあります。当時はコロナ前で、日本の犯罪率はおそらく今より低かったでしょう。一方、激動のアメリカ、特にNYでの生活は日本の平和さを強く意識させるものでした。
幼少期からアメリカに住んでいた経験もあって、教育や賃金格差が日本より深刻だと感じていました。また、街中でホームレスを見かけるのは日常茶飯事。少し気を抜けば仕事を失い、路上生活に転落する可能性が常に隣り合わせの環境を見て育ちました。
触れたテーマと思い出
痴漢について触れたのは、当時何かニュースを見た影響だったのでしょうか。正確な記憶はありませんが、対照的に日本の平和さを感じていたようです。そして、「タラレバ娘」についても、独身という立場から気晴らしに読んでみようかと思ったような記憶があります。ただ、結局漫画を読む時間はなく、そのまま手に取ることもありませんでした(笑)。
【おまけ②】トップ画像について
トップ画像は2017年2月13日に撮影したものです。トランプ大統領が就任後、初の月曜日を迎えた日でした。五番街では度々デモが起きていましたが、この日はNY市立図書館に珍しくアメリカ国旗がプロジェクションされ、多くの警察官の姿が印象的だったため、撮影した記憶があります。
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