見出し画像

検閲は、これをしてはならない。って短すぎるやろ、これって何よ?

表現の自由は21条1項で保障されているとお話しましたが、あえて2項を設けて「検閲は、これをしてはならない。通信の秘密は、これを侵してはならない」と記したからには、絶対やっちゃダメ!と後世に書き残したかったんだと思うんですよね。
しかし、非常に端的な一文で表現されているので「そもそも検閲ってなによ?」という素直な疑問が議論に発展します。これは個別具体的な判決によって、そう、判例によって埋めていくしかないのです。

≪ポッドキャスト版 やわらかいほうのごたく≫
https://listen.style/p/yawarakaihou/xj1b8zbf

検閲とは①行政権が主体となって、②思想内容等の表現物を対象とし、その全部または一部の発表の禁止を目的として、③発表前にその内容を審査した上、不適当と認めるものの④発表を禁止するもの。という定義が示された有名判例が税関検査事件です。

税関検査事件(最大判昭59.12.12)
Xがヌード写真集を輸入申告したところ不許可となった。税関が書籍の輸入について検査を実施し、輸入の可否を判断することは検閲にあたるかが問われた事例。
【結論】
税関検査は憲法21条2項が禁止している「検閲」にあたらない。
→輸入禁止対象となった表現物は国外で「発表済み」のものであり、事前の発表そのものを一切禁止するものではないため。

北方ジャーナル事件(最大判昭61.6.11)
北海道知事選に立候補予定のXを批判する記事を掲載した雑誌を発売しようとした出版社に対し、Xが仮処分の申し立てをしたところ、裁判所は発売前に名誉棄損を理由として同雑誌の出版を差し止めた事例。
【結論】
裁判所の仮処分による事前差止めは検閲にあたらない。
★原則★
事前差止めは、右出版物が公務員又は公職選挙の候補者に対する評価、批判等に関するものである場合には、原則として許されない。
★例外★
その表現内容が真実でないか又は専ら公益を図る目的のものでないことが明白であつて、かつ、被害者が重大にして著しく回復困難な損害を被る虞があるときに限り、例外的に許される。
公共の利害に関する事項についての表現行為の事前差止めを仮処分によつて命ずる場合には、原則として口頭弁論又は債務者の審尋を経ることを要するが、債権者の提出した資料によつて、表現内容が真実でないか又は専ら公益を図る目的のものでないことが明白であり、かつ、債権者が重大にして著しく回復困難な損害を被る虞があると認められるときは、口頭弁論又は債務者の審尋を経なくても憲法21条の趣旨に反するものとはいえない。
→しかも、検閲とは①行政権が主体であるので、司法権(裁判所)による差止め命令はそもそも検閲にあたらないと解することもできます。

その他、第一次家永教科書事件(最判平5.3.16)では教科書検定が21条2項に反するのではないかという訴えや
【結論】一般図書としての発行を制限するものではないので事前抑制に該当しない(=21条2項に違反しない。)

総務省において出版前に書物を献本することを義務づけ、内閲の結果、風俗を害すべき書物については、発行を禁止することは「検閲」にあたる(=21条2項に違反する)とされた事例もあります。

検閲とは
①行政権が主体
②思想内容等の表現物を対象
③発表前に
④発表を禁止するもの
この4つの基準に照らして考えると、上記の判例の結論に納得できるかと思います。この4つの基準・定義は税関検査事件において示されたものなので、憲法の条文には絶対やっちゃダメよ!としか書いてなくて、個別に問題が起きたときに裁判の中で法律のスペシャリストたちが解釈を加え、言葉を作り、定義して、基準が作られていって、それらを問う試験が生まれていった。ということなのです。なんか、実に日本らしいですよね。

検閲の4つの基準はぜひ覚えておきましょう!マイナー事例から出題されたとしても論理的に思考すれば対応できるはず!!

その他、21条表現の自由関連ではわいせつとは何かについても判例において定義されていたりします。チャタレー事件が有名です。

チャタレー事件(最大判昭32.3.13)
イギリスの小説「チャタレイ夫人の恋人」には露骨な性的描写があり、出版社も度を越えていると認識しながら出版した。その後、当該作品は押収・発売禁止となり、翻訳者および出版社社長は刑法第175条違反で起訴された。

わいせつ文書に対する規制(刑法175条)は、日本国憲法第21条で保障する表現の自由に反しないか。
【結論】違反しない。
わいせつとは①徒らに性欲を興奮又は刺戟せしめ、且つ②普通人の正常な性的羞恥心を害し、③善良な性的道義観念に反するものをいう。
芸術作品であっても、それだけでわいせつ性を否定することはできない。
わいせつ物頒布罪で被告人を処罰しても憲法21条に反しない。

ここから先は

574字

¥ 100

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?