ていねいに日常を紡いでいくこと
【古本】常盤新平 2012年12月9日発行 『明日の友を数えれば』 幻戯書房:読了(2024.9.20付)
常盤新平の随筆は初めて読んだけれども、余韻ある文章を書く人だと思った。それぞれの随筆から、気づかい屋さんだった著者の人柄があふれている。文章に心が宿っているし、日々の暮らしの中で見過ごしそうになるひとこまを、ちゃんと捉えてくれている。自分の日常にていねいに目を向ける。バズることのない、淡々とした時間の流れをみつめて、紐解くように言葉を文字に落としていく。
しかし、現代の人々にとっては、そんなことに目を向けていられるほど暇ではないし、日常の儚さに無自覚である。価値を見出すことはない。
しかし、僕らは、実はその何気ない一瞬に、涙を流し、喜びながら、日々を生きている。これからもずっとそうだ。
この本については、一日に数編の随筆を読むに留めた。読書の時間でいえば、15分から25分だろうか。常盤新平の文章に流れる余韻を味わうには、それぐらいがちょうどいい。こういう文章を一時に読み進めると、少し退屈になるので、僕はそうした。
僕にとって大事な本であることには間違いないが、こういう地味な本ばかりに感動する自分に多少の心配がないわけではない。本当はもっと元気溌溂たる内容だったり、社会を批判する本だったり、そういう鬱屈としたエネルギーを発散するような本に反応すべきではないかと少し思った。出版人として物足らない、そう思うと不安になる。
しかし、いま思い返せば、無理を承知で頭の理解だけで反応していくのも、自分に嘘をつくようで、嫌である。僕はSNSの延長にあるような、企画を重視した本はどうも苦手で、やはり、足元を見つめて地道に書いた本が性に合っているし、出版人といてそういう本づくりに携わっていくのだろう。
〈目次〉
Ⅰ
おばあさんの桜
恋は交通事故
午後の銀座
遠い昔の夏ですね
独身と佃煮
そば屋の老人
雪深い故郷
浅草のひと
おばあさんの鮨屋
小さな幸せのとき
近くに友あり
不思議な友人
四十年来の友人と…
国立の恩師
二十代の終わりごろ
銀座の町子さん
「友ちゃん」とのつきあい
Ⅱ
昨日今日
※項あり
Ⅲ
日記もどき
街の喫茶店
朝食の楽しみ
シチリアの玉子かけご飯
三匹のノラ猫
文机
わが年末年始
魚市場の老人
半日の旅
冬の食べもの
Ⅳ
好きな作家のこと
各帯兵児帯の作家
人それぞれの古典
綴の女性
Ⅴ
年に一つ
去年今年
鍼と臆病と怠惰
懐かしい町
母の笑顔
米寿の兄
友人の便り
春を待つ気持ち
網走に行ったころ
時の流れに棹さして
余寒に春を待つ
退屈も楽しい日々
名翻訳家を知ったころ
図々しい身上
遠く偲んで
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