”部活”という連帯責任制度
転校からしばらくして私は、吹奏楽部を見学しに行きました。
音楽が好きでもっぱら運動神経のない家計の父から
猛烈に勧められていたからです。
当時の私の認識には日本の学校には部活があり、
授業以外に好きなことができる、という認識。
小学校では、完全なる自由参加で金管バンドでトランペットを
1年ほどやっていた私。
学校からは特に正式な部活案内はありませんでした。
どんな部活があるのかも知らず、一人小学校時代の親友が
吹奏楽部だと知った私は、違うクラスだったその子に「久しぶり!」
と言おうくらいの気持ちで見に行ったと思います。
しかしその後わけも分からず”入部”してしまった私は大いに後悔します。
スポーツ以外だと合唱部と美術部しかなく、もともと選択肢自体は
少なかったんですけどね。
でも、吹奏楽というのはもともと多くの人数を必要とするもの。
また合唱部などよりも担当する楽器ごとに人数が必要なのもあり、
元々勧誘がすごいものなのです。
そして何より私の入った吹奏楽部は簡単に県大会を突破し、
地方大会で優秀な成績を収めるような強豪で、
音楽教師の担当が正直授業よりも心血を注いでいるようなところ
でした。
部員の中には音楽で食べていくことを夢見ているような子もいて
中学生で先生に忖度し、幹部のようなリーダーたちが存在し、
その下の者たちは有無を言わさず、はい、と言わざるを得ないような
雰囲気でした。
親友だった子を呼び出し、会えたのですが、
3年前の無邪気だった彼女とは違い、目が真剣で
すぐに付いてくるように、と私を顧問のもとに連れていきました。
たった一人の転入生、後に分かったことですが一人でも多く
人が欲しかったその部活にとって願ったりかなったりの訪問者でした。
顧問は、それで、なんの楽器をしたいの?と。
私は経験のあるトランペットがしたいと申し出ました。
すると、急に曇る目。
先生は、人が足りていないユーホニウムという楽器にしたかったのです。
私の唇をじっと見つめて「君のように分厚い唇の子はトランペットには向いていない。マウスピースが小さくて合わない。
マウスピースが大きいユーホニウムをやりなさい」と。
正確には覚えていませんが、聞いたことない楽器だし、そもそもずっと
トランペットをやりたかったからと断ったと思います。
それよりも唇を凝視しないで!!!!という気持ちで動揺していました。
後に分かることですが、その部活は、やりたいことをやるところではなくて
全体を意識し、絶対的な権力を誇る先生の言うことを忠実に守る場所だったのです。
「では、1週間トランペットをやってみなさい。テストをします」と先生。そして、なぜか入部したことになっていたのです。
その後部活という私取っては異様な空間で、
自分を犠牲にして連帯感を持ち、
誰かが失敗すれば連帯責任を負わされ、
退部して非国民扱いされるまでの1年半もがくのです。