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「他者の苦しみを描く権利は誰にあるのか?」今年話題の1冊YellowFace

今年5月に出版されると同時に35万冊が売れた、まさに今年話題の1冊を読みました。
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中国系アメリカ人Athenaは特大ヒットを記録し続けるベストセラー作家で、白人のJuneは辛うじて処女作の出版はできたものの全く売れないままスランプに陥った作家。

同じ大学で出会い、付かず離れずの距離で付き合いを続けていた2人でしたが、Athenaはある不幸な事故で死亡。たまたま事故現場に居合わせたJuneは、Athena が何年も書き続けていた未出版の原稿を持ち帰り、”いかにも”中国系アメリカ人らしい「Juniper Song」というペンネームで出版します。

Juneのモノとして売られた小説「The Last Front」は、
第一次世界大戦時にイギリス政府が中国人を「非戦闘員」として戦地に送り込んでいた歴史上の事実「Chinese Labor Crops 」をテーマにしており、過酷な労働の結果、祖国の地を再び踏むことなく亡くなり、その存在すら忘れ去られようとしている何十万人もの中国人の苦しみを描こうとしたのがAthenaのオリジナルストーリーでしたが、Juneと編集者によって中国人非戦闘員と白人のロマンス場面が加筆修正されます。

そうして出来上がった「The Last Front」は”いかにも”白人ウケが良さそうな物語を作ろうという出版社の狙いが見事に当たり、Juneは念願のベストセラー作家の仲間入りを果たすのですが、Juneの成功が大きくなるにつれて「The Last Front」は亡くなったAthenaの盗作なのではないか?という疑惑がネットで広まり始めます。

更に、Juneは白人なのに”いかにも”中国系らしい「Song」という名を語り、肌がより褐色がかったアー写を撮り直したり、とワザとアジア系であるフリをしているのではないか?という疑惑がTwitter で拡散され始め、白人のJuneが中国人の苦しみを利用して物語を書くことは「Cultural Appropriation」「文化の盗用」だという批判が始まり炎上。

この炎上を静観しようとした出版社の狙いは裏目に出、過激さを増した攻撃が連日snsで繰り広げられ、ついにJuneは大炎上。事態は収拾不能になっていくのですが…。
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本書を読んでいる間中、頭にあったのは2020年に大炎上した作家Jeanine Cumminsのこと。
彼女が2018年に出版した「American Dirt」は、メキシコの移民問題には麻薬カルテルが深く関わっている、という社会問題をテーマにしたフィクションで、アメリカ文学界に大変な影響力を持つオプラ・ウィンフリーのブッククラブに選書されたことをきっかけに大炎上。

アメリカ人のJeanineがメキシコの移民を題材にするのは「文化の盗用だ」というのが大炎上の理由だったのですが、特に2019年から2020年にかけて、作家、歌手、俳優が「文化の盗用」で次々に炎上。更には一般人が企業を相手に「文化の盗用」を理由に攻撃するのを見るたび、私は言葉にするのが難しい気持ちになることが多々ありました。

結局のところ「文化の盗用だ」と攻撃できる理由があるか否かは「自分はその文化の人種か否か」ということだけが主な問題で、自分が実際にその文化を体験したり、経験したり、学んだりすることは二の次である、という場面に出会したことも多々あり、「人種」=「その文化のゲートキーパー」という分断構造が生み出されていくように感じてしまうことも…。

「文化の盗用問題」に答えが出せないまま数年が経ち、未だにJeanine Cummins は新作を出版できないでいる中で読んだ本書「Yellow Face」は凄かった!!

Who has the right to write about suffering ?
他者の苦しみを書く権利はだれにあるのか?


という一節が本書にあるのですが、自分のことだけを考えていられれば勿論そのほうが楽なことも沢山あると思うのですが、SNSなどを通して世界が繋がっている今、自分のことは突き詰めていくと、自分の周りの大切な人のこと、それを更に突き詰めていくと他者のこと、つまり世の中全体の幸せや苦しみになるのではないかなぁ、と本書を通じて感じました。

世の中に多様性が必要だ、と叫ばれて久しいですが、自身が中国系アメリカ人ベストセラー作家である著者R.F.Kuangは、出版業界の多様性がいかに表面的であるかを本書を通じて描いています。
著者は現在もイエール大学院で学んでいる大変勤勉な女性なのですが、その視座から見た現代のsnsで繰り広げられる大炎上劇が書かれた本書は、まさに「今」の時代だからこそ書けた文章なのではないかなぁ、と思いました。

本書を読めば読むほど著者Kuangは「American Dirt」を書いて大炎上した著者Jeanine Cumminsの苦しみを利用して本書を書いた、ともいえる皮肉な内容になっていて「この著者本当に素晴らしいなぁ」と思いページをめくる手が止まりませんでした。

気軽に他者をsnsで攻撃し、攻撃された本人以外は1ミリも何も失わない世の中の残酷さや、人種差別問題を”多様性”という一言で片付けられようとしている人種マイノリティの葛藤や虚しさ…。

「世の中で苦しんでいる人がいる」ということを描くには、結果的に他者の苦しみを利用せざるを得ないというのは皮肉ではあるけれど、他者の苦しみを100%理解することはできなくても、皆が他者を理解しようと少しでもトライすること、そしてそう願う気持ちにこそきっと希望がある、と思えた素晴らしい1冊でした!!




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