#エッセイ 『前後7歳』
最近テレビを観ていて、ふと考えてしまう事があります。街角でインタビューを受けている人の見た目とその人の年齢についてです。つい10数年くらい前の僕がまだ30代だった頃にはテレビで50代の人を見るとやっぱり自分よりかなり年上に見え、なんだったら“50を過ぎるとやっぱちょっと老人に近づきつつあるな”なんて思ったのですが、実際に自分が50歳を超えてくると、全くそんな事は感じなくなっている自分がいるのに気が付いたのです。なんだったら60代の人を見ても何だか若々しく感じたりします。近頃では世間でよく『人生百年』なんていう事も耳にするので、日本人の年の取り方が変わったのか、それとも自分の欲目で年配の人が若く見えるようになったのかとも考えてしまします。
そんな事を時折考えるようになってから、先日とある知り合いの80代の老人と話す機会がありました。世代間の考え方のギャップについて話をしていた時の事です。その老人は、
『他人と話をしていて自分と話の感覚が合うのは、そうだなぁ・・せいぜい自分の年齢の前後7歳くらいだろうな。』
というのです。その理由として、自分の年齢の前後7歳以内ぐらいに入る人は、自分が経験してきた事と同じような事に対して、同じ時代の感覚で経験をしているケースが多いからだと言うのです。逆にその7歳の年齢の域を外れてくる人は、同じ国の人間であっても、その多感な時を過ごしてきた時代の感覚に違いがあるので、年が離れれば離れるほどお互いの人間が備えている感性の違いにより話が噛み合わなくなってくるとも言っていました。それは多くの場合、職場で強く感じるだろうとも言っていました。なるほど、それは言い得て妙だと感心してしまいました。確かに職場には毎年新入社員が入ってきますが、年を追うごとに彼らの感覚が僕には分からなくなっている感じはします。
人が身に付ける感性や社会的常識は家庭内での教育や躾よりも、むしろ学校やマスコミ報道を始めとする社会全体の雰囲気の中から自然と学び取っている事の方が多いと考えられます。人は自分では気が付かないうちに、おそらくは青年時代くらいまでの社会での生活を通して“感性の物差し”とでもいうものを身に付けるのでしょうね。そういった意味ではやはり“人は時代の子”とはよくいったもんです。自分の生きた時代から精神的に飛び出して他の世代の人たちに馴染むというのは難しいでしょうね。そうするとやっぱり同世代の人たちは仲の善し悪しは別としてもやっぱり気の置けない仲間だと感じてしまいます。また、少し誤解を与える表現になりますが、鏡に映る自分の姿を毎日見ていると、図々しいですが、無意識にその老け始めた自分が人間の普通の姿と思っているので、美醜は別としても自分の歳に近と思われる人に何となく親しみを感じ、その人が何歳くらいであるかという事も敏感に分かります。そして、これもまた滅茶苦茶図々しいのですが僕はまだ自分が老けたと思っていないのですね!だからこそ最近テレビで見る50代の人が若く見えてしまうのでしょう。また一方では、頭の片隅で、自分の体のあちこちにガタが来ていて確実に自分が年老いてきているという事もちゃんと理解しており、人生の終わりに着実に向かっているという事も理解しています。そんな時は若い人を見て羨ましくもなります。自分中心の目線で世間を見ると、自分を中心とした同心円から遠く離れた物や人が正確に判別出来なくなるのも何となく納得しますね。街を歩いている学生が中学生か高校生かという区別もつかない事すらよくあるくらいです。
ただ、ここでもう一つ気になることもあるのですが、テレビ等で数十年前の昔の映像を見ていると、同じ40代や50代でも現代の人よりどことなく老けて見えたりするのです。“老けている”という表現は正しくないかもしれません。しっくりした表現を探しながら言うと、数十年前の人たちの方が現代の人より威厳があるように感じるといった言い方が正確な表現かもしれません。例えば40年ほど前にTBSで放送していた『金八先生』の第1・2シリーズでは主演の武田鉄矢さんは当時30歳くらいだったそうですが、彼がドラマの中で醸し出す雰囲気とその面構えはかなりの迫力があります。映画の中の若き日の高倉健さんなんかもそうです。30歳当時の自分の事を考えると“とてもかなわないなぁ”と思うのです。もっと古い事を持ち出せば、歴史の教科書に載る明治維新の頃の若者の写真なんていうのも迫力はありますね。そう考えると現代の日本社会は柔らかくて優しい社会になったために人々の顔つきも温和になったという事なんでしょうか。
こうやって紐解いてみると、人が自分の歳の前後7歳という事には敏感でありつつ、また社会全体が温和になりつつある今の日本で、多くの日本人の歳の重ね方が変わってきたという事も加味すれば、現代の50代、60代が若く見えるというのも分からないではないですね。それとは別に、今の10代、20代にわれわれ世代がどう映るのかは聞いてみたいところです。そこはやっぱり『おじさんじゃーん!』という感じなのでしょうね。人はどうしても自分本位の目線から抜け出すという事は難しいのでしょうね。