「生きるためのお寺」を伝える誕生仏
愛知県岡崎市の胎蔵寺に誕生仏の石像がつくられました。お釈迦さまが生まれた時、右手で天を指さし、左手で地をさして「天上天下唯我独尊」と唱えたという姿をかたどった像です。新しい石仏をなぜ制作したのでしょうか。野村宗臣住職(38)に想いや狙いを聞きました。
お寺のシンボルがほしい
――どうして誕生仏をつくろうとしたのですか。
「胎蔵寺のシンボルがずっとほしいと思っていました。こういうことをやりたいお寺なんだ、というのを、パッと見せて、視覚的に伝えられるといいなっていうのがあって、矢田石材店さんにも相談していたんです」
――胎蔵寺には「准胝(じゅんてい)さん」(准胝仏母観世音菩薩)がありますね。
「准胝さんは秘仏で、ほとんど公開されることはないので、皆さんに見ていただく機会があまりないんですよ。准胝さんはすべての菩薩の母といわれ、観音さまのなかで唯一『母』の字が入っており、子授け観音として信仰を受けています。准胝さんをはじめ、胎蔵寺は子宝や安産など子どもにまつわる信仰が古くからあったので、誕生仏というのがしっくりくると思いつきました」
あえて本堂の正面に
――誕生仏は身長約80㎝。高さ約1mの台座の上に立っているデザインで、本堂の正面に建てたんですね。お参りのじゃまになりませんか。
「あえて本堂の正面にしました。本堂のお参りをするときに少しじゃまになりますが、年間を通してあの場所を使うことはそんなにないんです。基本的に本堂って、防犯の面からも鍵がかけられて閉まっていて、自由には入れません。
日常的に手を合わせられる場所として、誕生仏が本堂の前にあるのは構図的にいいんです。浄土信仰なので二尊(釈迦仏と阿弥陀仏)を大事にしています。本堂の正面に立った時に、お釈迦さま(誕生仏)がまずいらっしゃって、その奥にご本尊の阿弥陀さまがいらっしゃるというのは、構図的にきれいだなと思います。
でも、ほかのお寺ではあまりないですね。当初は身長2mを超えるような日本一大きな誕生仏を考えていましたが、それを本堂の前に置くのはさすがにやめよう、となりました」
――けっこう自由にできるんですね。
「はい。教義にさえ則っていれば、ある程度自由にできます。そこは日本の仏教の多様性というか、寛容なところなのかなと思います。何でもでも取り入れるし、その時代ごとにアップデートされています。そうだから仏教が何千年も続いていると思っています」
――ルックスがとてもかわいい仏像ですね。
「誕生仏の姿って成人男性のサイズ感のものが多くて、子どもっぽくないんですよね。かわいらしいものがないかなあとネットで探っていたら、タイかカンボジアのすごくかわいい誕生仏を見つけて、こんな感じにしようと決めました」
春と秋に誕生仏のイベントを
――この春に完成して、開眼法要はいかがでしたか。
「お釈迦さまの誕生日を祝う花まつりとしてやったんですけど、40人か50人くらいが来てくれました。子どもバザーとか、体操で体を動かそうとか、タマセンを食べたりだとか、楽しんでもらえたと思います。誕生仏と同じポーズで写真を撮ったりもしていました。
できれば、毎年、春と秋に2回、こうしたイベントが開けないかと考えています。春は子ども向けでしたが、秋は、小さなお子さんのいるお父さんやお母さんも楽しめる感じにしたいです。
この春は花の種を祈願してくれた子にプレゼントしました。お花が育ったら思い出にもなるなとか思って。そういうふうにして、子どもとつながっていくことを作っていきたいなと思っています」
――2500人が境内に集まったキャンドルナイトを開いたり、ラーメン店などを経営したり、という経験が生きていますね。
「仏教で子どものお祭りをすることはあまりありませんでした。でも、例えば、晋山式とか落慶法要でお稚児さんって何百人も集まるんですよね。みんな子どもの健康を祈願することってすごくやりたくて、それで少し自分が前向きになれたり、家族が前向きになれるっていうのが、あると思うんですよ。ならば、そこを専門とするお寺があってもいいよね、って思って。
七五三とか安産とかのお参りをしていただきたいですね。誕生仏と一緒に写真を撮るとか、人生のイベントの一つとして胎蔵寺が織り込まれてくれたらいいなとは思っています」
「子どものお寺」のイメージ発信
――お寺というとお葬式やお墓のイメージが強いですよね。
「お葬式をするときだけ世話になるのがお寺、みたいになってるじゃないですか。子どもが生まれることに関するポジティブなお祝いに関しては、主に神社がやっていて、結婚式とか七五三とかお宮参りとか安産の祈願っていうのをお寺でやるってことはほぼないんですよ。できないわけでもないし、そういうことが望ましいと仏教が言ってるわけでもないのに、です。そういうのをうまく変えていけると、また新たなお寺のあり方も見えるのではないかっていうのは、ちょっと想像しています」
――「子どものお寺」というイメージが伝わるといいですね。
「お墓とか仏壇って、未来永劫その家が繁栄していくこと、何百年も続くことを願って、しっかりしたものをつくって、半永久的に守っていくというのが、本来の意味じゃないですか。それが今は、墓じまいとかそれを片付けることを一所懸命やっていて、亡くなった後のことばかり考えていているのが、不思議だなって思うんですよ。
そうじゃなくて、子どもや出産の方にフォーカスしてくことって大事なのではないかって。そこで胎蔵寺が、子どもにまつわる信仰というのが昔からあったんで、そうしたポジティブな面をうまくでも体現できるようなお寺になっていきたいと思ったのが、誕生仏をつくるきっかけです。
お葬式の時だけ世話になるのがお寺じゃなくて、生きるためのお寺という感じで。今、出生率がどんどん下がっているじゃないですか。そこをうまく盛り上げられないかなとかも考えたりしています」
永代供養のついた安心のお墓「はなえみ墓園」。
厳かな本堂でのお葬式を提案する「お寺でおみおくり」。
不安が少なく、心のこもった、供養の形を、矢田石材店とともに考える、お寺のご住職のインタビューをお届けします。
随時、月曜日に更新する予定です。