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品川暁子書評 ジェフリー・ディーヴァー『ファイナル・ツイスト』(池田真紀子訳、文藝春秋)

評者◆品川暁子
ついに父の死の真相が明らかになる!――コルター・ショウ・シリーズ第一期完結編
ファイナル・ツイスト
ジェフリー・ディーヴァー 著、池田真紀子 訳
文藝春秋
No.3558 ・ 2022年09月10日

■『ファイナル・ツイスト』はジェフリー・ディーヴァーが描く新しいヒーロー、コルター・ショウを主人公とするシリーズの第三作目で、第一期の完結編である。
 コルター・ショウは懸賞金ハンターだ。行方不明者の家族などが出す懸賞金で生計を立てている。第一作目の『ネヴァー・ゲーム』では、ゲームショーが行われているシリコンバレーを舞台に、ゲームを模倣した環境に被害者を監禁する犯人を追う。ディーヴァーが得意とするどんでん返しの連続で、真犯人がわかるまでショウも読者も翻弄させられる。
 第二作目の『魔の山』は舞台をワシントン州に移す。追っていた若者が突然自殺したことから、ショウは若者が関係していたカルト集団に身分を偽って潜入する。武器や通信機器を施設に持ち込むことができず、孤立無援で自死の謎を解く。サバイバリストとしてのショウの手腕が試される。
 作品ごとに物語は完結しているが、父の死と失踪した兄についてはシリーズを通した大きな謎となっている。第三作目となる本書でついにその謎が解き明かされる。
 父親のアシュトンは大学教授で、ショウが四歳のときに家族を連れてシエラネヴァダ山麓に移り住んだ。アシュトンはそこでサバイバル技術を身につけ、三人の子どもたちもこれを父から学ぶ。アシュトンの教えは「べからず(NEVER)」で終わっていることが多いため、子どもたちはその規律のリストを「べからず集」と呼び、父を「べからず王」と名付けた。またアシュトンはサバイバルの成否は計画段階で決まると言い、行動に移すときには必ず確率を計算し、確率の高いものから実行した。その手法はショウにも受け継がれている。
 アシュトンは十五年前に山の断崖から転落死した。兄のラッセルは事故当日にいた場所を偽り、葬儀直後に行方をくらましたため、ショウは兄が父を殺したのではないかと長い間疑っていた。しかし『ネヴァー・ゲーム』の後半で父はブラクストンなる人物の手下によって殺されたことが判明し、ラッセルの失踪は父の死と無関係だったことがわかる。
 ショウはラッセルをずっと捜していたが見つけることができず、生死もわからないままだった。『魔の山』でショウは身内を亡くした信者たちに出会うが、自分もまたラッセルを失ったことを受け入れられないことに気づく。カルト集団のカウンセリングでは、兄と会って話がしたいと思わず本音を話してしまう。
 第二作目のラストで、ショウは父アシュトンが隠した手紙や地図を発見し、ブラックブリッジという会社の存在を知る。ブラックブリッジは超秘密主義の民間諜報会社で、世界有数の企業や政界からの依頼を受けて、違法行為を繰り返している。
 父が残した手紙には、こんなことが書かれていた……。
 ブラックブリッジがターゲットにした地域は大量の薬物が流れ、薬物依存者が急増し、ゴーストタウンと化した。そこでクライアントが土地を買い占めている……。
 そして地図には元従業員のエイモス・ゴールが会社からひそかに持ち出した文書を隠した場所が示されていた。
 手紙を読んだショウは父が始めたことを終わらせようと決意する。
 ショウは父アシュトンや彼の仲間たちが使っていたサンフランシスコの隠れ家に向かう。そこで見つけた情報を元に図書館に向かうが、ブラックブリッジの幹部ブラクストンとその部下ドルーンが待ち構えており、ショウは絶体絶命のピンチに陥る。あわやというところでラッセルが登場し、ショウは命を救われる。兄は生きていたのだ。
 ラッセルはあるグループに所属していると言うが、詳細は語らない。ショウが父の遺志を継ぐことを話すと、ラッセルはショウに手を貸す。父の教えを受け継ぐ二人が十五年ぶりに結束し、ブラックブリッジやそのクライアントと対峙する。
『ファイナル・ツイスト』ではいくつものチャレンジが並走し、場面もめまぐるしく移り変わる。
 まずはエイモス・ゴールが隠した〈エンドゲーム・サンクション〉と呼ばれる百年前の公文書を見つけること。これが手に入ると、世界を思いのままに操れるようになるという。
 また、図書館でラッセルが銃殺した男の遺体から「SPと家族全員を殺害しろ」というメモが見つかったため、示された殺害時刻までにSPなる人物を特定し、一家を救わなければならない。
 さらに、貧困地区に不法滞在する母親から娘を探してほしいという依頼を受け、懸賞金ハンターとしての仕事もこなす。
 ショウはサンフランシスコの街を東奔西走する。
 本シリーズは、作品によって趣が異なるのが魅力だ。『ネヴァー・ゲーム』は真犯人を探す探偵小説、『魔の山』はカルト集団に侵入するサバイバル・アクション、『ファイナル・ツイスト』は世界で暗躍する諜報企業との戦いを描くスパイ・アクションとなっている。これらの物語の軸にあるのは父アシュトンの教えとショウが育った家族だ。ショウ家には三人の子供がいてそれぞれ性格が違う。兄のラッセルは一匹狼で、コルターは一つところにじっとしていられず、妹のドリオンは利発で要領が良い。また母親のメアリー・ダヴは精神科医で現在もシエラネヴァダ山麓に住んでいる。三人のきょうだいは同じようにアシュトンにサバイバル術を教え込まれており、今期ではドリオンの登場シーンはほとんどなかったが、いずれ三人が一堂に会し、活躍する展開があるのではと期待させる。
 第二期の第四作目は早くも今秋に刊行されるようだ。今度はどのようなテイストの作品になるのだろうか。次作が楽しみだ。
(英語講師/オンライン英会話A&A ENGLISH経営)

「図書新聞」No.3558 ・ 2022年09月10日(土)に掲載。
http://www.toshoshimbun.com/books_newspaper/index.php
「図書新聞」編集部の許可を得て、投稿します。

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