詩日記 11
二○二二年五月八日
失ったものを数えれば、ふしあわせになる。与えられているものに感謝すれば、しあわせになる。幸不幸は、ただそれだけのこと。
『自分も喜び、他にも喜んでいただく。そのためにはどうすればいいかな』
声なき声の質問に、ぼくは少し立ち止まる。
首が動いて、窓辺を見た。木の梢にとまった小鳥が、ちちちと木の実をついばんでいる。
光の交差した隙間に、幻影が映った。
森のそばの原始なる泉の畔り、ぼくは美しい女の前にひざまずき、頭をその胸に抱かれている。
女は裸体で、母のようでもあり、妻のようでもある。
彼女が柔らかな黒髪を、その胸とぼくの間に垂らしながらうつむき、ぼくを見た。ぼくは笑いかけた。彼女はぼくの笑顔を見て、ゆっくりと笑った。
細い腕に抱かれ、睡気のような愛のまどろみに包まれながら、ぼくは知ったのだ。
ただ、大切に思えばいいのだ。
ただ、笑いかければいいのだ。
ただ、感謝すればいいのだ。
失ったものを数えれば、ふしあわせになる。与えられているものに感謝すれば、しあわせになる。幸不幸は、ただそれだけのこと。
窓辺の梢から、小鳥が飛び立った。
ぼくはただ、愛されていた。