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かなしみ かわいた かなし

空の燐寸箱に入れられた
子供の寶物たからもののようだ と思う
小さな部屋で暮らす私は

窓の外の會話かいわを聞いて
手紙のような 文字の切れ端
家事は靜寂を齎す薄暗さだ

生きていれば 物は增えて
關係も入り組み 形は變わり續け
樹海に暮らしてゐるやうな樣相

冬物の布團を出さねばと
思ううちに冬は窓のすぐ
外にまで押し寄せてきて

悲しみ 乾いた 悲しみ

皮膚を引き裂くことよりも
何かを書くことでしか埋められなくなつた
深い溝を夜の闇の底で埋めてゆく

雌鷄だけを函に貯續しまひつづける
あのひとの 指先の手荒れは
遠い異國から來た手紙に似てゐる

半導體と云ふのは何かの螺子
もしくは我々の體に埋め込まれた
遺傳子のような形をしてゐるのでは?

わたくしはわたくしが氣狂いなのか
それとも藝術家なのかわからない
鏡を覗いても砂嵐で見へなひ顏を撫でて
奇妙ないのちを靜かになぞるだけです

收縮擴大を繰り返すひかりの輪郭
しろく飮み込まれてゆく昨夜の夢の殘像
萎れかけた百合が 項垂れてゐる

何億年も昔の 地層のすきまで
睡れるたれその思いの かけらよ
ねんごろな言い草には慣れてくれるな

月夜の晚に月光溜まりだけを
踏んで步く つまさきの歌聲
街は睡つてゐる
悲しみの 輕やかな足取りも
知らぬのに

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