「好きなことで、生きていく」のではなく「嫌いなことで死なない」 #年収90万円で東京ハッピーライフ
大原扁理さんの『年収90万円で東京ハッピーライフ』を読んだ。
この本、自分がここ数年読んだ中で一番おもしろかったかもしれない。
森永卓郎さんの『年収300万円時代を生き抜く経済学』(2005年)が話題になってから早くも16年が経つ。
そして、2012年には、イケハヤが『年収150万円で僕らは自由に生きていく』を出版。
そして2016年に、本書、「年収90万」とどんどん年収が下がってきている。
全てに共通するのは、
年収低くても全然楽しく生きれる、
みたいなメッセージなのだが、今回の90万の本書は1つだけ根本的にこれまでと異なる。
それは、
本当に(ほとんど)誰にとっても今すぐに実行可能な隠居生活(年収90万の生活)が、超具体的に示されているということだ。
イケハヤでは、オンライン上で一定金額稼げることをベースに地方に移住する、みたいな主張であった。
そして、そのウェブで稼げるという状態になるまではかなりの経験や時間が必要になるから一般人には難しい。
しかし、大原さんが実践していることは誰でも即実行可能。
しかも東京で、だ。
彼がやっていることは簡単に言うとこうだ。
東京郊外の家賃28,000円の5畳ワンルームで、週に2日だけ介護の仕事をして月に7万くらい稼いで、生活費は6万くらいに抑えて、残りの週5日は自由気ままに図書館行ったり日向ぼっこして過ごす、という生活。
ここで注目すべきは、週2回しか働かないという発想だ。
凡人なら、週5日適当な仕事をして月に◯万稼いでその範囲で生活する、みたいな発想をしてしまう。
しかし、彼の場合、生活費が6万でいいから、だったら7万の稼ぎで十分となり、それは介護の仕事で週2回働けば足りるので、週休5日という現実に落ち着いていることだ。
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著書の大原さんは、「好きなことで、生きていく」のではなく「嫌いなことで死なない」という考えに基づき、選択を何万回と繰り返してきた結果、ここにたどり着いたようだ。
(そのような考えに至った理由は、両親やいじめ、セクシャリティなどがあるようだが、詳しくは本書で是非読んでほしい)
彼は何もこの生き方を推奨しているわけではない。
彼が本書で一番伝えたいと思われることは、自分の価値観で人生を評価しましょう。そしてその価値観というのはいろいろな選択をする中で形成されていくものだ、ということ。私としては、これに完全に同意見なので特になんとも思わなかったが、本書の中では重要な箇所だ。
本書が読み応えがあるのは、嘘偽りやポジショントーク、ブランディングのような態度が一切なく、ただ本音を、自分がこれまでどう考えてどう行動したかを赤裸々に綴っていることだ。
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本書で一番印象深かったストーリーは、以下の部分。
最近、「今日も天気がいいし、日課の散歩に出かけよう!」とか思って外に出たものの、歩いても歩いても、なんか心がザワザワして落ち着かないことがありました。古本屋を覗いても違う、カフェに入っても違う。何がしたかったんだっけ。公園のベンチに座ってボーっとしながら、せっかく天気がいいのにもったいない……。ここで、ハッとしました。自分、損得勘定で動いとるやん!即帰って昼寝してみたら、最高の気分でした。自分とカチッとハマるというのかな。あー今日は外に出たくなかったんだー、何にもしなくて良かったんだー、とわかってスッキリ爆睡。週5で休んでいてさえ、このザマです。すぐズレてしまうんですよね、本当の自分から。隠居してても、気持ちが外に向きすぎていたり、せっかくだから何かしなくちゃ!みたいなモードになっていると、こういうことがあります。あと、何もしてないことに世間の人はだいぶ厳しいですよね。何もしてないと、人でなしみたいな扱いです。
私はこれを読んで思った。
週5で休んでいても、「何かしないと無駄な時間を過ごしてしまっているのでは」みたいな心理から、解放されないのか!?(笑)
これだけ社会と離れのんびりしていても、散歩したりしないとダメに思われるみたいな社会的価値観が内部に残っているのだ。
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彼のような生き方は、私はとてもいいと思うが、根本的な問題がある。
それは、大きなゲームの価値基準がどうしても拭いきれないこと。
立花隆さんは、この世界を次のように捉えた。世の中には多くのゲームがあり、各ゲームはルールや価値基準が異なる。足の速さを競うゲーム、昆虫に詳しいというゲームなど、小さいものを含めば無数にある。
ゲーム同士の中ではそのランクがあり、そのうちで、グローバル資本主義社会においては権力ゲーム、財力ゲームという二大ゲームが他を圧倒している。
大原さんのように、こうしたゲームからは距離を置いて、自由を謳歌するゲームを満喫するのもいいが、やはりどうしてもこの貨幣経済社会からは出られないので二大ゲームにおける自分の評価が気になってしまうだろう。
いずれにしても、彼のように自分の内面と向き合い、それを社会の中で調和させるように生きることが、人にとってよい生き方であり、そういう意味でよいお手本なんだと思う。