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第3回 仲間づくり (その1)              出合いが肝心です

 授業に協同学習を導入する際、出合いが肝心です。ここでの出合いには2つの側面があります。1つは新しい仲間との出合いです。異質なグループ編成によって、自分とは異なる多様な背景をもった新しい仲間と出合える機会が広がります。たとえよく知った友だちと一緒になったとしても、友だちの新しい一面と出合うこともできます。
 もう1つは協同学習との出合いです。理論と実践に裏打ちされた効果的なグループ学習である協同学習を体験することで、それまでのグループ学習のイメージを払拭し、仲間と真剣に学び合う協同学習の素晴らしさを体感してもらいたいと思います。
 今回は、この2つの出合いを演出する方法として「メンバー間の距離」と「自己紹介」について説明します。

〇メンバー間の距離
 グループの心理的なつながりを促すためにメンバー同士をできるだけ近づけて座らせてください。具体的には本対話「第2回 グループの編成と配置」にある図2-1と図2-2を参照してください。また、本対話の表題にあるイラストも参考になります。
 グループ活動に慣れていない学生を指導するときは、とくに注意してください。固定式教室では不必要に席を空けて座る学生がいます。指定された席に座るように指示してください。可動式教室では車座の輪から少し外れている学生がいます。輪に入るように指導してください。
 最初が肝心です。座る位置もしっかりと指導することで、これまでのグループ活動との違いが際立ちます。もちろん、指導の意図と効果について説明し、学生の同意をえることが大切です。
 グループ活動中の物理的距離はメンバー間の心理的距離を表すことがあります。日常生活でも、好きな人には近づき、嫌いな人からは離れます。グループ活動も同じです。基本的信頼感が醸成され、互いに心許せる間柄になったグループは、自然とメンバー間の物理的な距離が近くなります。上手くいっていないグループは近くに座っていても微妙な距離感を感じます。
 ただし、物理的距離を縮める指導は、現下のコロナ禍、感染防止の観点から問題があります。そこで注目されているのがWebを使った「ビデオ会議システム」です。このシステムより、Web上でもメンバー間の心理的距離をかなり縮めることができます。
 今後、Webを活用した協同学習について検討を深める必要があります。そのためにも、まずは対面を前提に構築された協同学習の基礎基本を理解することが大切です。協同学習の理解が進んだのちにWeb授業について検討するのが生産的です。

〇自己紹介
 一般的に、グループとして最初におこなう活動が自己紹介です。この自己紹介は冒頭にも述べたように、新しい仲間との出合いの場であり、協同学習との出合いの場となります。
 とくに協同学習との出合いとして「いままでとは違う」「ちょっと面白そう」と思わせるのが大切です。「初めてなのにメンバーと仲よくなれた」「こんなグループだったら、やってみたい」そんな印象をもってもらうことが、授業に協同学習を導入するさい極めて大切になります。
 そのような意図で創り上げたのが図3-1にしめす私が好んで使う自己紹介です。詳細な手順は他に譲るとして1)、その概要を紹介します。この自己紹介は「課題明示」「個人思考」「集団思考」の3段階に分かれています。

授業対話31図3-1

(1)課題明示
 自己紹介を始める前に、図3-1を示しながら自己紹介の目的と方法を説明します。これを「課題明示」といいます。本対話「第1回 授業を始める」で説明した「見通し」にあたります。短時間の活動でもクラス全員で見通しを共有することが極めて大切です。
 自己紹介の目的は「仲間のフルネームを言えて書ける」です。
 方法は個別思考と集団思考に分かれています。
①個人思考の説明 ここでは図3-1の枠で囲んだ3つの内容を、ほぼ1分で紹介できるように準備させます。名前はフルネームで漢字も伝え、わかれば由来も含めます。準備の時間は1分です。
②集団思考の説明 自己紹介の時間は1人1分です。個人思考で準備した内容を紹介します。自己紹介が終わったら、メンバーの誰か1人を指名します。指名された人は指名した人の自己紹介をできるだけ忠実に復唱します。復唱ができたら指名した人はOKをだしてください。復唱内容が違っていたら正しい情報を伝え、再度復唱してもらってください。
 次に復唱したメンバーが自己紹介をします。あとは同じです。指名する相手は既に自己紹介を終わった人でも構いません。
 全員の自己紹介が終わったら、それぞれ姓と名を言えて書けるかを確認します。それでも時間が余ったら、自己紹介の内容を手がかりに交流します。

(2)個人思考の実践
 上記(1)の課題明示により学生が見通しをもてると、活動の展開と切り替えがスムーズになります。「それでは自己紹介の内容を考えてください。時間は1分間です」という指示で、学生たちは真剣に考え出します。

(3)集団思考の実践
 集団思考も同じです。学生たちが見通しを共有できていると「では○○さんから始めてください」という教師の指示で、すべてのグループで自己紹介が一斉に始まります。
 自己紹介を始めるまえに、次の留意点を伝えてください。
  ① 名札を外す。
  ② 活動中は仲間の顔をしっかり見て、笑顔で、うなずきながら聴く。
  ③ 下を向かない。他のグループを見ない。
  ④ 全員が自己紹介できるように時間配分を意識する。
 自己紹介の時間は適宜決めてください。ここでは4人グループを前提にしています。

(4)活動時間の追加
 基本的には活動時間の追加はしません。ただし、自己紹介は初めてのグループ活動なので、メンバー全員が自己紹介することが重要です。そこで、全員の自己紹介が終わっていないグループがあれば、1・2分程度の追加を認めます。そのさい既に自己紹介を終わっているグループには仲間との情報交換を続けるように指示します。なお、自己紹介が終わった後、今後は活動時間の延長はしないことを説明します。与えられた時間内に、与えられた課題を、仲間と協力して達成することの大切さを強調し、参加者全員で確認することが必要になります。

 上記の自己紹介、先生方はどんな印象をもたれたでしょうか。10分程度の自己紹介をやるのに、ここまで丁寧な指示が必要なのかと思われたかもしれません。この自己紹介は協同学習の基礎基本に基づいています。詳細については今後の議論のなかで明らかになります。

1)安永 悟(2019)授業を活性化するLTD. 医学書院

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