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第2回 グループの編成と配置 (その3)     状況に応じたグループ編成を心がける

 今回は、第2回(その2)「全員が参加できるグループを編成する」への回答です。
  質問をいただいた玉木弘美先生は担当科目「精神看護学」にグループ活動を導入しており、全員参加型の授業づくりを常に意識されていることがよくわかりました。たとえば「グループワークのルール」を学生と共有して支持的風土を醸成しようとされている点は高く評価できます。
 むろん留意されていることだと思いますが、単にルールを与えるだけでなく、ルールの真意を学生と共に吟味し、主体的に守る姿勢を育てることが大切になります。また学生の変化成長にあわせてルールそのものを見直すことがあってもいいのではないでしょうか。学生が育てばルールの見直しを学生に任せ、最終的には自分たちで創ったルールを、教師がいてもいなくても学生たちが主体的に守れるようになってほしいものです。
 さて第2回のテーマは「グループ編成と配置」ですので、これに沿って検討します。

○学生の状態に応じてグループを編成する
 異質なグループ編成は基本ですが絶対ではありません。理論的に考えれば背景の異なる学生同士を交流させることにより、多様な意見が交換され、学びが深まることが期待できます。しかし、現実にはグループ活動に慣れていない学生もいます。グループでの対人関係の取り方や話し合いのスキルが身についていなければ、それらの育成が優先されます。そのさい異質なグループよりは何らかの側面で共通点のある学生同士を一緒にすることが得策ということもあります。これは第2回(その1)で述べたことです。
 提案されている「学生の背景は多様に、興味関心は同質に」というグループ編成も一案です。抽象的なテーマを検討するさい、準備した具体的な小テーマを学生に選択させ、興味関心の類似した学生同士をグループにすることで、学生の動機づけや主体性を高める効果が期待できます。この方法でのポイントは学生の興味関心を高めやすい具体的な小テーマを幾つ準備できるかです。これにより学生の動機づけや主体性は大きく変わると思います。
 提案されている方法もまた、絶対ではありません。クラス全体や学生個々人の状態に応じて、このグループ編成が教育目標の達成にとってどの程度有効であるかを見極める必要があります。学生は常に変化成長しています。その変化成長にあわせてグループ編成の方法も変えるべきです。

○異なるグループやグループ活動をつなぐ
 グループ再編に伴い、新旧のグループをつなぐさいの留意点について質問がありました。ここでは第2回(その1)でも言及した次の2点を再度強調しておきます。
1つは、再編の目的と方法を学生と共有することです。協同学習の基本事項として「課題明示」があります。グループを再編するときも、事前に、その目的と方法を学生に十分理解してもらう必要があります。課題明示により、グループ再編はスムーズに展開します。
 もう1つは、グループ再編前に旧グループのメンバー同士の人間関係を深める時間を確保することです。それまでの活動を振り返り、互いに感謝の気持ちを伝え合い「別れ」を惜しみます。そして、新グループでも頑張ろうと励まし合います。この活動を繰り返すことにより、グループを超えたクラス全体の望ましい人間関係が育ち、いわゆる支持的風土の醸成につながります。
 グループ再編とは若干意味合いが異なりますが「何かを達成するグループ」と「短時間の話し合いのグループ」とのつなぎ方についての質問がありました。文脈から判断して、この質問の背景にはジグソー学習法のイメージがあるようです。前者はジグソー学習法のホームグループ、後者は専門家グループと理解できます。この2つのグループ活動を有機的につなぎ、学習効果を高めるために留意すべき点を問われていると理解しました。
 この理解が正しければ、両者を有機的につなぐためには、学生一人ひとりが担当課題を深く学ぶという責任感と、学んだ内容を仲間と共有するという責任感をつよく意識することが大切になります。この責任感を育てるためにジグソー学習法は実にうまく構成されています。専門家グループで、ホームグループの仲間が一人でも手抜きをすると、ホームグループの他のメンバーは学習課題の全体が理解できずに困り果てます。「仲間の理解があなたの努力にかかっている。あなたはグループにとって無二の貴重な存在である」といった事実を的確に伝え、実際にジグソー学習法を体験することで、学生一人ひとりの自覚が高まります。
 また、指導にあたる教師自身もジグソー学習法を体験的に深く理解し、求められる責任感の重要性を実感できていると適切な指導につながりやすいと考えています。教師の実体験は大切です。

○科目を超えたグループ編成を考える
 第2回(その1)「異質なグループ編成が基本です」で私が述べた内容は1つの担当科目に協同学習を導入することを前提としていました。そこでは玉木先生が指摘するように、他科目でのグループ編成との関係は考えていませんでした。学校全体で協同学習を推進していると、複数の科目で異なるグループが同時に編成されることもあり、相互の関連性を検討する必要性も出てきます。
 とくに入学直後は科目を超えたグループ編成を学校全体で考えるべきです。最初に編成したグループをどれだけの期間維持し、どのタイミングで再編するか。複数の科目でグループ活動を導入するさい科目間で同じグループを使用するか、異なるグループを使うか。異なるグループを使い始めるとしたら、どのタイミングが望ましいか。これらの点を学校全体で話し合うことが必要になるでしょう。
 これまでの経験から判断して、新入生が経験する最初のグループは新しい学習環境における最初の居場所になりえます。この点を意識して、最初のグループにおける活動を注意深く丁寧に仕組みます。そのうえで、特派員やジグソー学習法などの技法を使って他グループのメンバーとの交流も徐々に深めていきます。同時に、たとえば「この人を探して!」文献1)といったクラスの仲間全員との出会いを仕組んだ活動を導入することもグループ再編の下準備として効果的です。これらの活動を仕組むことで学生たちは驚くほど早く変化し、短期間でグループ再編の機会が訪れます。
 なお、今回のコロナ禍においては、「出会い」の面で難しい対応が求められています。今後どうなるかわかりません。対面授業ができない最悪の事態を想定した準備を整えておく必要もあります。少なくともビデオ会議システム(たとえばzoomやgoogle meet)を使って、仲間の顔が見られる環境を整備することが最低限求められます。通信技術の進歩は著しいものがあり、いまでは協同学習の基本的な学習技法はすべてWeb上で実現可能です。私たちの実践経験から、Web上でのグループ活動でも対面と同程度とはいえないものの、一定の評価を得られる成果が確認できています。
 いずれにせよ、入学直後の丁寧な取組によりグループ活動への抵抗が少なくなれば、その後のグループ編成は科目を超えて自由におこなって構わないと思います。そうすることで「誰と組んでも真剣に学び合える」という意識と実践力が養われます。
 ただし注意すべきは、その時々、学生がどの程度の課題に取り組んでいるのかを、科目を超えて把握しておくことです。学生に過重な課題を与えることはかえって学習意欲を損ないます。学校全体として、科目を超えて、学生の活動量をモニターし、調整する必要はあります。
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 次回は対話に参加いただいている先生方の返信をご紹介します。どのような意見・感想・質問が届くか楽しみです。

●参考文献
1)ジェイコブズ,J.・パワー, M.・イン, L. W. (2006). 先生のためのアイディアブック. 関田一彦(監訳), 日本協同教育学会 (ナカニシヤ出版).

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