第3回 仲間づくり (その3) 協同を楽しむ
今回は(その2)に対する私のコメントです。(その2)の内容は「仲間づくりの継続性について」「体験学習での学びを深める」「協同学習の評価のあり方」という3点について述べられていました。第3回のテーマ「仲間づくり」から判断して、今回は最初と2番目の内容を中心に検討します。最後の内容は「評価」にも触れていますが、2番目で取り上げた話題の延長線上にあり、同根の問いと理解できます。なお、評価は大きな問題です。回を改めて吟味したいと思います。
1.仲間づくりの継続性について
協同学習にとって「仲間づくり」は始まりです。報告にあった「仲間づくり」の実践例はゲーム的要素を取り入れた活動でした。新しい環境に緊張している新入生にとっては仲間とつながるよい機会になったと思います。実際、期待した成果はえらたようです。
ところが、その活動を通して芽ばえたクラス全体の雰囲気や人間関係が、その後の授業に活かされず、その場かぎりで終わってしまった、という実感が先生にあるようです。これは決して珍しいことではありません。類似した事例を簡単に思い出せます。それだけに現場では起こりやす出来事だといえます。
継続性の問題を考えるさい、学生がその必要性をどれほど意識していたか、という視点が大切になります。学生にその気がなければ継続性は期待できません。最初の仲間づくりにおいて「新しい仲間を知る」というメッセージは新入生に届いていたと思います。しかし、新しい仲間を知ることと授業との関係には気づけなかった。仲間づくりは仲間づくり、新入生からみれば単なる「レクレーション」としか思えなかったのではないでしょうか。
学生からみれば仲間づくりと授業は別物です。先生が期待する授業について学生は何も知りません。授業が始まれば、特別な指示がないかぎり、高校時代までに身についた授業に対する態度や姿勢を、そのまま示すしかありません。こう考えると、学生が示した非連続性は理解できます。ここに学生と教師との間に認識のズレがあったことがわかります。このズレを修正する。すなわち、教師の思いや期待を正しく学生に伝える努力が継続性を高めるヒントになります。
これは協同学習でいう「見通し」の問題といえます。最初に、なぜゲーム的な仲間づくりを導入するのか。その活動を通して何を期待しているのか。そこでえられたものを授業のなかでいかに活用しようとしているのか。仲間づくりに込めた教師の意図を、最初に学生と共有することが大切です。
最初に見通しを共有したとしても、ゲーム的な活動による仲間づくりと通常の授業との間には大きな落差があります。この落差を埋めるために、仲間づくりで培った人間関係を、授業場面でどう活かせばよいのか、授業を始めるさいにもう一度、ていねいに説明すべきでしょう。つまり、ゲーム的活動で創り上げた仲間との良好な関係を活かし、お互いが協力しながら学び合える活動性の高い授業にしたいという教師の意図を学生に伝えるべきです。また、その実現に必要な具体的な方法、すなわち傾聴やミラーリング、シンクペアシェアやラウンドロビンといった協同学習の基盤となる定番スキルを指導する必要があります。
良好な人間関係を基盤とした活動性の高い授業づくりには不断の努力が必要です。最初に仲間づくりをやれば事足りるわけではありません。授業ごとに、機会あるごとに、良好な人間関係を高める工夫が必要です。たとえば、私が提唱している対話中心授業1)では、授業開始時に仲間同士があいさつし、授業終了時に仲間同士が感謝の気持ちを伝え合う機会を設けています。両方とも3分程度の時間ですが、仲間関係を深めるよい機会になっています。また、授業中のグループ活動を協同学習の理論と技法で仕組んでいます。互いが協力しないと達成できない活動を通して、学生同士の人間関係の向上をつねに意識しています。協力関係に基づく学びの素晴らしさを知れば、授業場面や学習場面にかぎらず生活場面全体においても、仲間を思いやり共に成長しようという思いが強くなります。それに応じて支持的風土が醸成され、学校全体が1つのチームとしてまとまっていきます。
2.体験学習での学びを深める
ここでは体験学習で生じた問題が報告されていました。つまり、ある授業で事前課題があり、学生はその課題を一人で予習しました。授業中、学生は予習を手がかりに仲間と話し合って理解をさらに深めることが求められました。実際、学生はしっかりと予習ができており、理解も一定水準に達していました。しかし、グループ活動により、期待したほど理解が深まらないこともありました。なかには、個人の予習水準にすら達しないグループもあったとのことでした。このような場面で、教師が取るべき指導法についての疑問が述べられていました。
この出来事を一言で表せば、協同学習で期待される切磋琢磨がみられなかったということになります。私は協同学習を「協同の精神に基づく切磋琢磨」と捉えています。協同の精神とは「仲間と共有した目標達成にむけ、仲間と心と力をあわせて、いま為すべきことを見つけ真剣に取り組む心構え」です1)。この協同の精神がなければ仲間同士の「認め合い、教え合い、学び合い、高め合い」すなわち切磋琢磨は期待できません。
先の問題を解決するには、協同の精神の育成こそが鍵になると考えます。前項で紹介のあったゲーム的な活動を取り入れた仲間づくりは、まさにその第一歩といえます。仲間づくりで芽ばえた協同の精神を手がかりに、仲間と連携協力することの意味や効果を伝えます。そのうえで協同の精神に基づく活動を取り入れた授業を展開します。このような授業を通して学習内容の理解が深まり、仲間同士の基本的信頼感も醸成されます。最終的には、お互いを掛け替えのない仲間として認め合い、共に変化成長できる幸せを共感できるようになります。それに伴い切磋琢磨も、その姿を現してきます。
この状態にいたるまで決して短い道のりではありません。しかし、日々、協同の精神に基づく切磋琢磨を標榜しながら授業づくりに励んでいくと、必ず学生は変化します。その変化する過程を学生本人が実感し、自分にもできるという効力感を高め、幸せを感じることができます。これが協同学習の求めている授業づくりです。
●引用文献
1)安永悟 (2019). 授業を活性化するLTD 医学書院
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