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第1回 授業を始める (その3)  「見通し」を伝えると学生が変わる

 今回は、第1回(その2)で寄せられた中村誠先生の原稿に対するお返事という形式で記述し、理解を深めていただこうと思います。先生の原稿を拝見して心に浮かんだことを述べます。

〇学生の学びを動機づける「見通し」
 第1回(その1)「授業を始める」では、「見通し」の重要性を述べました。学習活動の目標とそれにいたる道筋を事前に共有することで、学習活動が主体的かつ積極的になり、学習に取り組む学生の姿が変わるとお伝えました。
 それに対して「着地点がイメージできれば、学生の学び方も、教員の授業方法も変わっていくのではないか?と感じました」とのコメントをいただきました。最後に「?」マークがありますので、疑問を感じているのかもわかりません。
 「着地点」すなわち目標だけでなく、目標に至るまでの筋道を、活動の前に学生と共有しておくと、学生の学び方はまったく異なります。簡単なことです。一度試してください。その時「?」がまだ残るようでしたら、再度質問をお願いします。
授業の初めに学生と「見通し」を共有すれば、もちろん、教師の授業方法も変わります。真剣に学んでいる学生たちを相手にするときと、しばしば居眠りをする学生を相手にするとき、当然ながら教え方は違います。中村先生も「寝ている学生」を相手にしているときは、いろいろと考えてしまいますね。授業内容をどう教えるかではなく、学生のやる気をどう高めるか。この点に、授業中の注意が移ります。私たち教師は学生の反応によって、教え方は大きく影響されます。

〇学生が寝る授業
 「見通し」とは少しズレますが、寝ている学生のいる授業についての言及がありましたので、この点について少し意見を述べておきます。
 学生が寝る原因は多様です。一概に教師の教え方だけの問題とはいえません。どんなに教育力がある教師の授業でも寝る学生はいます。ただし、寝る学生に出会ったときに、どのように反応するかで教育力の差が現れます。大切なのは、学びの面白さで目を覚まさせる工夫です。
 工夫の1つとして協同学習の技法を導入することをお勧めします。つまり、共に学ぶ仲間の力を借りることです。仲間と学び会う機会を設けることにより、仲間との学び合いが楽しいと思えば、寝ることは少なくなります。無くなるといっても過言ではありません。「学ぶこと」と「寝ること」を比べたら、「寝ること」に軍配が上がるような授業をしてはいけません。いかに「学ぶこと」の楽しさを知ってもらうか。そのための創意工夫が大切です。
 
〇授業改善の取り組み方
 中村先生の次の記述が印象的でした。「授業中に全学生が体を前のめりにし、目をキラキラさせて授業に参加してくれる瞬間があります。その瞬間、本当に涙が出るほど嬉しいです。寝てしまう学生がいる授業と、積極的に参加してくれる授業では何がどう違うのか、その構造的な部分を私の中で見出していきたいと考えています」。
 私の授業づくりの原点も同じです。学生が活き活きと学ぶ姿に感動し、もう一度同じ感動を味わいたいと思ったのが、授業改善のきっかけとなりました。私の場合、25年も前の出来事です。当時、協同学習も知らず、授業づくりについて語り合える仲間もいない状態で「LTD話し合い学習法」を導入した授業づくりを始めました。レイボーら*の薄いテキストを手がかりに、それこそ試行錯誤の連続でした。
 私と同じ試行錯誤を中村先生にしていただく必要はありません。協同学習の考え方と技法について、参考にしていただけるテキストや実践例がすでに沢山あります。まずは、それを「まねて」ください。たとえば、小グループを使った話し合いをさせたいのであれば、ラウンドロビンやシンク=ペア=シェアの手続きを学び、そのまま実践してください。間違いなく、これまでとは違った手応えを得るはずです。そこから、ラウンドロビンやシンク=ペア=シェアに共通する基本構造の有効性を学び取ってください。
 よくいわれるように「学び」は「まね」から始まります。決して自分で新しいものを創ることが先ではありません。基礎基本ができたら、初めて、自分らしさを少しずつ出していき、自分の授業スタイルを形づくればいいのです。自分のスタイルができるまでは多くの時間がかかります。仮に、自分のスタイルらしきものが出来たと思っても、さらなる創意工夫を求めて努力が始まります。この状態にいたれば「本物」です。
 
〇知識の関連づけ
 最後に質問がありました。協同学習は「抽象的な概念を学ぶような科目では少し活用が難しいような気がします。どのような点に注意して取り入れていったら良いでしょうか?」という内容でした。
 結論から先に言えば、協同学習の技法を用いて「抽象的な概念」を学ぶことは可能です。この点を理解してもらうためには、学習を促進する「関連づけ」について理解してもらう必要があります。これは協同学習の効果を高めるためにも大切なポイントとなりますので、項を改めて説明します。
 ちょっと斜に構えた言い方をすれば、「協同学習」以外で「抽象的な概念」を学ぶ、もしくは教える効果的な方法をご存じですか。もしあれば教えてください。自分たちがこれまでやってきた効果的な方法があれば、改めて、協同学習を学ぶ必要はないと思います。
 「抽象的な概念」を学ぶうえで、協同学習よりも有効な方法を私は知りません。安心して、協同学習を基盤とした授業づくりを、看護技術などの具体的なスキルの獲得のみならず、抽象的な概念の獲得にも大いに活用してください。

*  レイボー, J. ・チャーネス, M. A.・キッパーマン, J.・ベイシル, S. R. (1996).  討論で学習を深めるには. 丸野俊一・安永悟 (共訳). ナカニシヤ出版.

             — 第1回(その3)終わり —

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