見出し画像

「ティール組織に書かれていないこと」にみる、階層型組織の限界と学び直しの重要性

最近話題のティール組織(※)だが、本の中でも紹介されているオズビジョンの社長さんのブログにこんなエントリーがあった。

http://oz-vision.blogspot.jp/2018/02/blog-post.html

社員の1/3が辞めるなど個性的な組織づくりに伴う綺麗ごとではないリアルな物語が垣間見えて非常に興味深いのだが、

それと同時に「(本に書かれていた施策自体は)もう既にやっていない」ということ自体が重要な示唆のように思う。

それはすなわち、新陳代謝をし続けている組織であるということだ。

実際、ホラクラシーなど新たなタイプの自律型組織を模索、実践している組織の経営者や関係者に話を聞いていても、「今のところ、このやり方が多分一番機能している。でも今後はどうなるかわからない」という言葉を聞くことが多い。

学び続ける組織、とはまさにこのことだ。

おそらく、次に会う時にはまた新たなやり方を見出しているのだろう。

※2014年にフレデリック・ラルー氏により自費出版され、瞬く間に世界中に広がった”Reinventing Organizations”。日本でも先日邦訳版(邦題:ティール組織―マネジメントの常識を覆す次世代型組織の出現)”が出版され注目を集めている。ティール組織の解説についてはこちらの記事がわかりやすいので参照されたい https://nol-blog.com/what_is_teal_organization/

◯何が階層型組織の重大な限界なのか?

では、こうした新陳代謝、すなわち変化し続ける、学び続けるということは従来型の組織ではできないのか、というとそんなことはない。

ただ、階層型の組織はその構造上、スピーディに変化に対応していくことは得意ではない。

階層構造の組織というのはある特定のことに対してトップダウンで資本を集約し、ひたすら効率を高めていくという点においては非常に優れており、産業革命以降の工業型社会においては非常に重要な発明であった。

だが、それはトップがある程度先を予測した意思決定をできることが前提だ。不確性が高く、優れた経営者ですら予測できないような変化への対応は得意ではない。

そればかりか、上手くいった成功体験やプロセスを繰り返すことで強化し、効率を高めていくといった階層型組織が得意としていたことが、実は、組織を硬直化させ、変化の対応という観点から未来の足かせになる可能性が高いということになる(経営学では「共進化ロックイン」とも呼ばれるものだ)。

インターネットが社会に広がり、従来の因果関係のみでは捉えきれない予測不可能な変化があちらこちらで起こり得るネットワーク型社会においては、多くの業界においてその構造的欠点が顕著に表出し始めた、というのが昨今の潮流だろう。

例えば、こうした時代の流れをいち早く見抜いていた経営者の一人、米シスコシステムズの前CEOジョン・チェンバース氏は

「不透明で不確実性が高い時代にはいかに経営者が優れていたも、すべてをトップダウンで決めていては急速かつ複雑で多様な変化に対応できない」

として、2011年に経営方針を「上から指揮命令する経営から、社員相互のコラボレーションとチームワークによる経営へ」という180度転換させた。結果として、2017年12月に退任するまでに年間収益を1995年就任時の12億米ドルから480億米ドル規模に急成長(20年で約40倍)させるという偉業を成し遂げている。

2011年の経営方針転換後に、具体的にシスコで起こっていった変革についてはこちらを参照されたい。

https://bizzine.jp/article/detail/2020

ちなみに、2011年というと、おそらくちょうどティール型組織の著者フレデリック・ラルー氏がReinventing Organizationsの元になるリサーチを開始した頃だ。

話を階層型組織の限界に戻そう。

ヒエラルキーの構造が直面した重大な困難のもう一つは、個人の可能性の解放だ。

ティール組織でも指摘されているが、ヒエラルキーはその構造上、階層が下がるほど個人のエネルギーを抑制してしまう。インターネットが社会の隅々にまで行き渡りはじめ、個人の力が飛躍的に高まり、自律駆動型で個人の可能性を解き放つことが非常にインパクトを持ち始めたこれからの時代には、根本的にハレーションが起きてしまうというわけだ。学びという観点では、社会からのフィードバックサイクルを高めることが難しくなりやすい。

◯ティール組織の知恵を従来型組織はどう活用していけば良いのか?

ティール組織は、人間の意識の高度化に伴う組織の発達段階の一つとして提示された概念であり、従来型の組織が安易に移行できるわけではない。(冒頭のオズビジョン社で社員が1/3辞めたという話が如実に物語っている)

そして、そもそもそれが最適なスタイルかどうかは、外部環境だけでなく経営者の思想や指向性も深く関わる。(なおグリーンやティールといった色の表現は、ケン・ウィルバーのインテグラル理論がベースにされているが、ティールの先にターコイズやインディゴなどもあり、ラルー氏も別にティール組織が最終形だと言っているわけではない)

だから、「どうすればティール組織になれるか」を目指すというよりも、まずは「ティール組織の実践や知恵から自分たちが何を学び直すことができるるだろうか」を考えてみてはどうだろうか。

例えば、ティール組織における3つの突破口のうちの一つに「存在目的」というのがある。

目的とあるが、これは誰かがビジョンや目標を示し、そこに向かって進んでいく類のマネジメントとは根本的に発想が異なる。組織を生き物として捉え、組織それ自体が方向感覚や創造的なひらめき、表現を持っているとする立場から、今この瞬間に組織はどこに向かおうとしているのかに常に耳を傾け続けるということだ。だから、ティール組織は明確な意図と目的を持っているが、戦略は持っていないという。

なるほど「戦略を持たない」という組織運営を今すぐに取り込むのは難しくとも、この「今この瞬間にこの組織はどこに向かおうとしているのか」という問いかけは、ティール組織であるかどうかに関わらず、従来型の組織においても十分に意義を持つ問いであるはずだ。実際、私が出会ってきた多くの企業内イノベーター(イントラプレナー)は、組織を動かし、新たな未来を創り出すためにこうした問いと向き合うことを実践の知恵として持っていたりする。(もちろん従来型の組織でこの問いを機能させるには工夫が必要だ)

過去の成功体験や未来の計画に囚われず、今この瞬間に耳を澄ます。これこそまさに学び続ける組織の要諦なのではないか。

ティール組織の画期的な側面は他にも多くあるので、学び続ける組織≠ティール組織ではもちろんないが、ティール組織の実践から学べる非常に重要なエッセンスの一つだ。硬直化せずに柔軟に変化し続けるための知恵とも言えるだろう。

私も数年前に”Reinventing Organizations”と出会い、衝撃を受けたうちの1人だ。人類の意識の高度化に伴うこの新たな組織モデルで語られていることは、人類の可能性を広げていく知恵であると直観した。

だからこそ、自分たちはオレンジかぐりかといった分析・分類のフレームとしてのみ消費されてしまうのではなく。その背後にある人と組織に関する豊かな知恵が健全に広がっていくことを願いたい(ちなみに”Reinventing Organizations”のサブタイトルは”A guide to Creating Organizations inspired by the next stage of Human Consciousness”である)。

いいなと思ったら応援しよう!