瀧羽麻子『左京区七夕通東入ル』(書評ラジオ「竹村りゑの木曜日のブックマーカー」2月10日放送分)
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<収録を終えて>
バレンタインを前に、何かきゅんきゅんする恋物語が読みたい……!
そんな思いからチョイスした『左京区七夕通東入ル』は、理系男子×文系女子が京都を舞台に恋心を紡いでいくという物語です。明るい陽キャな主人公が、控え目で少し影のある陰キャの男の子に惹かれていく様子は微笑ましくて思わず応援したくなります。主人公の花ちゃんも相手の龍彦くんも、とても真っ直ぐでひたむきで、可愛らしい2人なんです。
ラジオでもお話したとおり、この物語は大学生のラブストーリーであると同時に、モラトリアム(大人になるのを猶予されている期間)の中で自らを発見していく過程が描かれています。
ここで注目したいのが、花ちゃんと龍彦くんは全く別のタイプの人間というか、龍彦くんが人生に求めるもの(数学の研究)の熱量は、周りどころか自分自身を焼き尽くすほどのパワーがあるということです。だから、龍彦くんは研究に集中しすぎて、お部屋に遊びに来た花ちゃんを何時間も待たせちゃったりするし、でもそれが龍彦くんだから仕方がなかったりします。
圧倒的に「違う」龍彦くんという他人を、いかに受け入れていくかの試行錯誤を繰り返す中で、ある意味龍彦くんを鏡にして、花ちゃんは自分自身を見つめ直すのですが、本来これってとても面倒くさい行為なはずです。。
「自分は自分、他人は他人」で割り切ってしまえば本当は楽なんですが、それでも近づきたいと願ってしまう、好きという気持ちのパワーはすごいです。理屈とか効率を超えてしまうのですね。
個人的には「好きだから頑張って理解したい」を超えた何かが読みたかったようにも思います。お互いに精神的に交換できるものを見つけた、とか。2人で存在することで損なわれずにいられる何かがあった、とか。「好き」とか「一緒にいたい」という気持ちをもっと因数分解したものが知りたかったです。ですが、そこは読者が想像して、それぞれの結論を出すところかもしれないですね。
この物語は「左京区シリーズ」として、姉妹編が2作出ています。ご興味の有る方は是非、手にとってみてください。
それでは、 今日はこのあたりで。
またお会いしましょう。
<了>