ヴァージニア・ウルフ『自分ひとりの部屋』(書評ラジオ「竹村りゑの木曜日のブックマーカー」1月13日放送分)
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<収録を終えて>
作者のヴァージニア・ウルフは20世紀前半に活躍した女性の作家です。
生前から著名な人ではあるのですが、文筆活動を通して女性の尊厳や生き方を模索した点が、最近また再評価されています。
これは、フェミニズム文学がここ数年で盛り上がりを見せていることが関係しているようです。
最近だと、2021年の6月にヴァージニア・ウルフの『波』という作品が、45年ぶりに新訳で発刊されたそう。
今の時代の女性作家たちの作品も魅力的ですが、それよりももっと以前、今よりも女性の権利が守られていなかった頃に、女性が表現や創作活動を行うことがいかにハードであったかを知ることも大切なのだと思います。
「女性が小説を書こうと思うなら、お金と自分ひとりの部屋を持たねばならない」という主張で知られている本書は、女子大学生へヴァージニア・ウルフが行ったスピーチを元に書かれています。
そのため、これから社会に出る、知的好奇心のある若い女の子たちへの、励ましの思いが込められているようです。
話す内容だけでなく、語り手としての立ち位置そのものに、シスターフッド(女性同士が連帯すること)の意味合いがあるのです。
ところで。
妊娠や出産という生理的特徴を持つ点で、女性の生活スタイルは男性よりもライフステージに従って変化しやすいという特徴があります。
また、社会的には、育児や介護も「女の仕事」とされる場合がまだまだ多いようで、これも女性の生活スタイルが変化しやすい原因になっています。(これは改善できる点でもあるので、より各家庭や個人に合わせた方法が当たり前のものとして選べるようになったら良いなと思いますが……)
生活スタイルが変わりやすいということは、毎日の生活の中で出会う顔ぶれ、つまり所属する集団が変わりやすいということでもあります。
例えば、大学の友達→職場の同僚→ママ友→PTAの役員……というように。
それに合わせて、必要に応じてどんな組織にでも入っていける柔軟性を、女性は求められてきたわけです。
これってすごく今の時代の働き方っぽいな、と思います。
終身雇用制度では、大学卒業の23歳くらいから定年の55歳? まで、30年くらい1つの組織に所属して(新入社員が入ってきたりするけれど)固定の人間関係を築きながら働くことになります。
明日も明後日も明々後日も、ずーっと同じ人と顔を合わせるのが、働き方のスタンダードだったわけです。
でも、今は転職が当たり前の時代になってきました。
中途採用で会社に入社し「新しい組織に混ぜてもらう」経験が増えています。
もしくは、プロジェクトに合わせてチームが作られ、プロジェクトに合わせてチームが解散するという「一時的に集団に所属する」働き方も生まれています。
昨日はAさんと、今日はBさんと、明日はCさんと、というように、一緒に働くメンバーが固定でなくなる時代が来ると、「はじめまして〜」と気持ちよく集団に馴染んでいける人や、初対面の人と素早く連携を取れる人といった、コミュニケーションスキルが今まで以上に大切になってくるはずです。
これが、今まで女性に対して求められてきたスキルと、とても近いのではないかなと思うのです。
今まで「女性的スキル」と思われてきたものを、性別に関係なく誰もが身に付けなければいけない時代になっているのかもしれません。
そういった意味で、フェミニズム文学は、ただ女性の地位向上のためだけにあるのではなく、新しい時代への対応を求められる、全ての人のためにあるのかもしれないなと思います。
それでは、今日はこのあたりで。
またお会いしましょう。
<了>
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