森絵都『ショート・トリップ』(書評ラジオ「竹村りゑの木曜日のブックマーカー」11月18日放送分)
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<収録を終えて>
どうして、あんなに楽しかったのでしょうか。
『ショート・トリップ』のレビューを考えながら頭に浮かんだのは(番組の中でもお話したように)幼い頃に姉たちと行った「昨夜見た夢のお披露目会」の思い出でした。
舞台は家だと思ったら突如学校になったり、はたまたテレビで見たような気がする断崖絶壁だったり。
登場人物も、家族が出てきたとおもったら、漫画や映画のキャラクターになったり、なぜこの人が今さら?と思うような古い友人だったり。
むしろ、自分の視点すらころころ変わり、いつの間にか自分自身が別の人物になっていることすらあります。
朝食を食べながら3人姉妹で競い合って披露する夢の物語は、奇想天外で、でも手に汗握るほどスリリングで、次の展開が全く読めないからこそ胸が高鳴って、そして不思議と映像がはっきりと目に浮かぶものばかりでした。
「昨日、面白い夢見たんだよ!」と誰かが言えば、他の2人が何々? と期待の眼差しで見つめる、あの時間の途方も無い豊かさは、やはり子どもならではのものだったのかもしれません。
そして、あれこそが、シュールレアリスムの純粋な美しさだったのではないかと、振り返った今思うのです。
『ショート・トリップ』に収められた短編は、まさにそんな物語ばかりです。たった数ページの物語は、かろうじてストーリーを成立させられるだけの細い必然性の糸で綴られ、今にもパタパタとページを羽ばたかせどこかに飛んで行ってしまいそうなほど自由気ままです。
元々は、森絵都さんが毎日中学生新聞に連載していた、子ども向けの物語だったそうですが、不条理なものに無責任に身を委ねてみたい私のような、大人の皆さんにもお薦めです。
ちなみに、番組でもお伝えしました、金沢ビーンズ明文堂書店の「鈍器本」(凶器に使えそうに思うほど重量感がある分厚い本)VS「カミソリ本」(金沢ビーンズで命名した、持ち運びに便利かつ短時間でも読める短編などの書籍を指す……凶器にはならないが指は切るかも)の企画はこちら。
※お店の許可のもと撮影・掲載しています
鈍器本には、
・姑獲鳥の夏(京極夏彦)
・細雪(谷崎潤一郎)
・コインロッカー・ベイビーズ(村上龍)
・有限と微小のパン(森博嗣)
・ANIMAL LOGIC(山田詠美)
カミソリ本には、
・未来いそっぷ(星新一)
・毒笑小説(東野圭吾)
・ナポレオン狂(阿刀田高)
・賢者の贈り物(O.ヘンリー)
・ZOO(乙一)
などが並んでいます。
このラインナップは、金沢ビーンズのプランナーであり、当番組「木曜日のブックマーカー」のブレーンでもある、表さんが選んだものだそう。
そうか……ならば言わせてもらいますが、表さん。
カミソリ本のラインナップに、平山夢明の『独白するユニバーサル横メルカトル』をしれっと並べるのは如何なものでしょうか! 指どころか心も切り刻まれますよ! 良い子にはまだ早いから大人になってから読もうね、お姉さんとのお約束だぞ!!
皆さんおすすめの鈍器本・カミソリ本は何でしょうか?
よければ番組までメッセージお待ちしています。
mail:book@mro.co.jp
それでは、今回はこのあたりで。
またお会いしましょう。
<了>