プロサッカークラブに学ぶ人的資本経営
人的資本経営の重要性が、近年注目されています。企業の経営資源は「ヒト、モノ、カネ、(情報)」ですが、モノやカネは財務諸表に開示されステークホルダーが評価できますが、もっとも重要なヒトの価値については開示されてきませんでした。人手不足や高度な情報化社会に対応し企業が生き残るためには優れた人材を育成・確保する必要があります。そのための組織・人事戦略を可視化することが人的資本経営の目的です。
経済産業省のホームページでは、人的資本経営を以下のように定義しています。
人材を「資本」としてバランスシートに計上している企業があります。それは、ヨーロッパのプロサッカーチームの「マンチェスター・ユナイテッド」です。
日経新聞(11月21日付)の記事に「マンUに学ぶ人的資本会計」という見出しで記事が掲載されました。
欧州名門サッカークラブが示す人的資本の資産化
イングランド・プレミアリーグの名門クラブ、マンチェスター・ユナイテッド(マンU)は財務諸表上で選手の「登録権」を無形資産として計上しており、その価値は2024年6月末時点で約800億円にも上ります。この「登録権」には、選手獲得の際の移籍金が含まれ、契約期間中に償却される仕組みです。
このアプローチは、人的資本を企業価値と結びつけて可視化する一例と言えます。特に、選手のパフォーマンスが直接的にチーム収益に貢献するスポーツ業界では、このモデルが適用しやすいとされています。サッカー界は選手の移籍の際に多額の契約金が支払われるとその選手が所属したユースチームに遡り分配金が支払われます。いかに人材育成の価値を重視しているのかを表していると言えるでしょう。
企業における人的資本計上の課題
一方で、一般企業において人的資本をバランスシートに計上するのは現行の会計基準では不可能です。人的資本は「企業が所有するもの」ではありませんから資産として認定することはできません。
しかし、記事では、「教育・訓練費やヘッドハンティング費用を支出ベースで資産計上することは現実的」(一橋大学・中野教授)と指摘しています。また、公認会計士の浜嶋氏は、M&A時の「のれん」に含まれる人的資産や、高度なAI技術者の付加価値を定量化して開示する可能性を示唆しています。
人的資本経営の未来
人的資本の評価と開示を進めることは、投資家にとって企業の価値をより正確に把握する助けとなります。さらに、人的資本を「資産」として認識する企業の取り組みは、労働市場での競争力向上にも寄与するでしょう。
日本企業の多くはもともと人を大事にする経営スタイルでした。それは武田信玄の「人は城」と言った頃から始まっているともいえます。一方で、社員は家族の一員のようでありプライスレスであったともいえます。これからは人を資本として評価し、その価値を高めるための発想が必要となっています。