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諦めかけた制作活動をつなぎ止めた作品

第59回日本伝統工芸展に出品した
蒔絵玳瑁螺鈿宝石箱「光の道」という作品は
僕にとって出世作になりました。

嬉しい事に日本工芸会新人賞をいただきました。
また、自分の作風の発見にもつながった作品です。

一点の光源から放たれた光が
広がってゆき
それが生命につながってゆく
そんなイメージで作品を制作しました。
ですので、光のイメージの中に花の意匠や鳥を意匠化した物を
登場させて
光は生命の根源であるという事を表現してあります。

一転して、光は自然からの恩恵という意味だけではなく現代において
文明の象徴でもあると思います
青色LEDの発明で街全体の色もずいぶんと変わりました。
都会的な光も魅力的です。

「光の道」では都会的なイメージも意識しました。
それを表したのは造形です
多角の箱の形には都市の持つスピード感や
連立するビルの造形美を意識しています。

自然の光と都市の光という
対照的なイメージを1つの作品に納めるのに
強烈な蒔絵の金と漆黒が印象的に作品に力を与えてくれたような気がします。

また、金と黒を分割する線に玳瑁(鼈甲の事)を象眼していますが
これが褐色の中間色となって柔らかさをくれた気がします。

単純な印象の中に複雑な技法が組み込まれていて
今だったら、ちょっと躊躇してしまうような作品を20代最後の自分が作りました。


その頃の自分は
親に迷惑をかけすぎているから
漆一本で身を立てようと思うのをあきらめていた頃でした。
この作品を最後にして、仕事を持ちながら制作を続けようと思っており
WEBの職業訓練校の申し込みを終わらせた直後の受賞でした。

そういう複雑な気持ちのときの制作だった事思い出します。

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