Project Mishram / Meso
Project MishraMは2015年結成、2017年に初楽曲をリリース。南インドの伝統音楽であるカーナティック音楽をベースに、世界各地の音楽、メタルやレゲエ、ボサノヴァなどを取り入れて「プログレッシブ・カーナティック・フュージョン・バンド」です。ロックからのアプローチではなく、あくまでカーナティック音楽側から世界中のさまざまな音楽を取り入れているのが特徴。素晴らしいバンドです。詳しくはこちらのインタビュー記事をどうぞ。
インド南部に位置するカルナータカ州の州都であるベンガルール(旧称バンガロール)を拠点とする彼らは、南インドの古典音楽であるカーナティック音楽(カルナータカ音楽)を主軸に、さまざまな音楽を融合させた自称プログレッシヴ・カーナティック・フュージョン・バンドである。
1.Sakura 08:17 ★★★★★
ラーガの始まりのような音響から、ポストロック的な音像へ。ミュートが効いたギター、抑えめのドラムとボーカル。滑らかでクールな印象。ややDjent的な弾み、刻むようなギターリズム。静謐さと透明感のある、白色を想起させるキーボード。コーラスも分厚い。プロダクションはやや弱めで少し迫力に欠けるきらいはあるが音はクリアで聞きやすい。間奏部でややインド的な音階、インプロビゼーションが出てくるがそこまで前面には出てこない。とはいえ他の地域では得られない独特さはある。弦楽器。だんだん伝統音楽、カーナティック音楽の要素が強くなってきた。西洋音楽的な要素をうまく結びついている。同じくインド南部(コチ)で活躍するThaikkudam Bridgeにも近い雰囲気がある。こちらの方がより瞑想的か。ザクザクしたギターは入ってくるが攻撃性よりはエッジが丸目でリズムを強調している感じ。これは良い曲。後半になるにつれて曲が複雑化し伝統音楽の色が強くなってくるが音楽的構造がしっかりしているので聞きやすいし、ロック、プログメタル的なエッジがあるので迫力や娯楽性もある。口ドラムをバンドでユニゾンしながら突進していくという極めて独自性が高い音像。
2.spring 01:11 ★★★☆
空間に浮かぶような、音響的な響き。前の曲の盛り上がりを少し覚ますような、澄み通った響き。瞑想音楽。
3.Nivaasa (ft. Arun Luthra, Nadje Noordhuis, Dion Tucker) 09:51 ★★★★☆
間髪入れず次の曲へ、いきなり口ドラムとキーボード、Zappaのようなごった煮の世界観。鳴り物が入ってくる。手拍子も入ってきて祝祭感が増す。そこから南アメリカ、サンバのリズムっぽくなり、コーラスが入ってくる。カルナヴァル。多国籍感がすごいな。しかしカルナティック音楽のラーガ(旋律)は数百種類あるからこういう南洋的なものももともと内包しているのかも。世界中の音楽を聴ける時代だから、どこがルーツかは分からないが、きちんと自分の血肉にして表現している。スキャットと管楽器がユニゾンするのはボサノヴァ的。楽器とボーカルがユニゾンするのはインド音楽にもあるから馴染みやすいのかな。歌い方がボッサ的な穏やかな発音ながら節回しにところどころインド的なこぶしが回る。面白いなこれ。まさにフュージョン。これを力まず軽やかにこなしている。後半になるにつれて瞑想的というかカーナティック音楽要素が強まっていく。サイケデリック。そもそも瞑想状態を化学的に再現しようとしたのがサイケデリックか。本家本元たるインドの酩酊っぷりはさすが。だんだん目が覚めて再びボッサ的な軽快なパートへ。
4.Loco Coko 09:06 ★★★★★
カセットを切り替えるような音、A面からB面への切り替えか。そういえばインドって今何で音楽が流通しているんだろう。CDよりカセットなのかもな。一気にYouTubeとかネットに移った気もするが、フィジカルで言えばむしろCDよりテープの方がメジャーだったのかも。レゲエ的なリズムと歌い方、さまざまな音楽とカーナティック音楽のフュージョンがテーマなのか。唐突に激しいジェント的な音、轟音リフが切り込んでくる。テンションがあがるが激情の赴くままというよりはテンションがコントロールされている、口ドラムがだんだんと高揚していきリフというかマシンガン的にギターの刻みが続く。そこから伝統的なフルート、笛の響きへ。どんどん響きが変わっていく、ハードテクノ的な音像、近未来的な音像に。Igorrrほど極端なトランジションではないが、かなり極端な音像世界が展開していく。ただ、全体としては穏やかで思慮深い世界。迷いや逡巡は感じるが破滅、攻撃性はそこまで感じない。ヒップホップなパートへ。すごいなこの音楽的挑戦は。そこからLady Gagaのような打ち込み音、そしてギターリフが絡み合うヘヴィなパートへ。MashUp、魔改造感。音MADかとすら思う展開だが曲としてはしっかり成り立っている、編曲能力と演奏能力が高いし、つなぎ目は滑らか。多少力技の部分もあるが完成度が高い。
5.Kanakana (ft. Kmac2021) 05:45 ★★★★☆
ヘヴィなリフが入ってくる、そこからお経のような、カーナティック音楽の旋律。これは古くからあるラーガのメロディだったかな。伝統楽曲の大胆なアレンジ、一番攻撃性が高い曲。どんどんとリフが出てくる、Meshugaah的とさえ言えるリフの嵐。グロールボーカルまで出てきた。この曲は極端な音像だな。もともとインド音楽は多重化する複雑なリズム、タブラという非常に細かいリズム楽器がベースを作り、その上にさらにほかの打楽器も載っていく、音数、音程移動も全体的に多い。シタールやボーカルも装飾音が多いからこうした曲構造とは親和性が高い。ひととおり激烈な音世界が続いた後で落ち着きを取り戻したように静謐な世界、瞑想的な、ヒンドゥー寺院で流れているような祈りの音楽的な音像になり終曲。
6.Mangalam 02:41 ★★★
つぶやくような声が続き、完全に古典音楽の音像でスタート、打楽器、ムリダンガムかな。そこに伝統的な歌唱。完全な伝統音楽でアルバム終了。なるほど。
総合評価 ★★★★★
凄いものを聞いた、という感想。これぞプログレッシブロックというか、彼らはそもそもルーツがロックではなくカーナティック音楽なので、プログレッシブカーナティックバンドというべきなのだろう。あくまでカーナティック音楽がベースにあり、そこに対してさまざまな音楽、ブルースをルーツにもつロック音楽を含め、それらを取り入れて新しい音楽を作り上げたのだから。文句なしに今年のベスト候補。