Subterranean Masquerade / Mountain Fever
サブテラニアン・マスカレード(地下舞踏会)はギタリストのトメル・ピンクにより1997年に結成されたイスラエルのプログレッシブ・メタル・バンドです。ジャズ、サイケデリックロック、デスメタルなどの影響も取り入れた音像と評されています。本作は5枚目のスタジオアルバム。こちらのブログ(濃厚!)で次のように取り上げられていました。
こんなにメジャー感に溢れているのに“血が通っている”ことがここまで濃厚に伝わってくるメタルはあまりないし、こんなに凄いバンドが少なくとも日本では完全に無名なわけで(自分は本作で初めて知った)、世界は本当に広いものだと痛感させられる。Orphaned Landなどが好きなら必聴の傑作といえる。
もともとTIDALのレコメンドに出てきたので「そのうち聞こう」とライブラリに入れていたのですが埋もれていました。Orphaned Land好きなので聞いてみます。
活動国:イスラエル
ジャンル: プログレッシブメタル、アヴァンギャルドメタル、エクスペリメンタルロック、オリエンタルメタル
活動年:1997-現在
リリース:2021年5月14日
メンバー:
Davidavi (Vidi) Dolev - vocals
Tomer Pink - guitar
Or Shalev - guitar
Omer Fishbein - guitar
Shai Yallin - keyboard
Golan Farhi - bass
Jonathan Amar - drums
総合評価 ★★★★★
これは凄い! オリエンタルメタルの名盤、同じくイスラエルのOrphaned Landを想起するのはもちろん、トルコのPentagramやチュニジアのMyrathといったオリエンタルメタルのS級バンドに並ぶ。ベテランだけあって演奏の安定感も高く、プロダクションも良い。このプロダクションの良さも特筆すべきポイントかも。最近は機材の発達でアンダーグラウンドな活動をしていても良い音のアルバムは増えているけれど、このアルバムは全体的に音がしっかり分離していて解放感がある音作りで聞きやすい。伝統楽器をかなり多様しているので、途中は伝統楽団、トルコとかオリエンタルジャズ的なシーンも出てくるのだが、そうしたアコースティックな楽器の響きと電子的に増幅されてディストーションが効いたバンドサウンドがしっかり溶け合っているし、なんとも言えない聞きやすさがある。衝撃の1枚。越境メタルの名盤。プログレ、オリエンタルメタル好きなら必聴。あと、基本的に僕はポップなメロディが好き(なんだかんだ80年代メタルが好き)なので、メロディアスでフックのあるコーラスがきちんとあるのもポイントが高い。聴いて良かった。
どの曲も素晴らしいが、あえてベストトラックを選ぶならイントロのインパクトから3かな。このオープニングからその先の展開は予想できない。あと、プログレメタル感もあるけれど、プログレメタルと言っても90年代的というか、Shadow GallaryとかSpock’s Beardとかそのあたりを想起する。音の明るさではMoon Safariも連想。あれぐらい明るいところは明るい。7なんかはQueensrÿche的でもある。
1.Snake Charmer 04:09 ★★★★☆
アコギのカッティングからスタート、アコギだと思うが少しエスニックな感じもする。もしかしたらブズーキとか、伝統楽器かもしれない。その後歯切れのよいバンドサウンドが入ってくる。ささやくようなボーカルが入ってくる。サウンドにエッジは立っているものの意外と風通しが良く開放感がある。プロダクションは良好。ボーカルはメロディアスでクリーントーン。ちょっとメロディにはイスラエル感、アラブ・中近東感がさりげなく盛り込まれている。チュニジアのMyrathあたりにも少し近い。
2.Diaspora, My Love 03:15 ★★★★
静かなスタート、穏やかにボーカルが入ってくる。オーケストレーションで中東的な音階、空気感が出てくる。ポンプロック、ネオプログレ的な音像。途中から壮大な音像に展開し、後半テンポアップ。最後少しデスボが入りアグレッションが強まる。静から動への振れ幅が大きい。
3.Mountain Fever 05:25 ★★★★★
バルカン的なブラスセクション、トルコのジャズを想起する。このオープニングは祝祭感があってテンションが上がる。ボーカルが入ってくるとアダルトロックな雰囲気に。女性コーラスが入り、ホーンセクションが戻ってくる。あまり聞いたことがない組み合わせで面白い曲。あくまで歌メロはしっかりとメロディアス。間奏は強烈にエスニックに。エスニックジャズとプログレとメタルの融合。
4.Inwards 06:46 ★★★★★
エスニック、中東的なメロディが前面に出ている。これは個性が強いが、それを前面に出しながら全体的な音像としてはモダンなメタルでありラウドロック。音作りそのものはプログレバンドに近い。あまりメタル的なアグレッションは強調されておらず、ギターの音色よりキーボードであったり民族楽器であったりが強く、プログレッシブロックの範疇。ところどころボーカルがアグレッションが強いグロウルスタイルに変わり、バンド全体もメタルの攻撃性を持つ。この曲はコロシアムなど、ジャズロック的な変拍子を持っている。かなり複雑なことをしているが聞き心地はあまり圧迫感なくむしろ聞きやすい。この聞きやすさは凄い。かなり激烈なパートもあるものの、最後まで聞きやすさが続く。激走するジャズロック。
5.Somewhere I Sadly Belong 05:43 ★★★★☆
エスニックなフレーズからスタート。イスラエル面白いな。かなり前奏が長くインストかと思ったら激烈なボーカルが入ってきた。システムオブアザウン的なハイテンションさ。からの雄大な女性コーラス。目まぐるしくシーンが変わるが全体的な音像は明るいまま。後半、女性コーラスが重なっていきソウルフルに、ピンクフロイドの狂気の一シーンも思い出す。よくこれだけの要素を混ぜ合わせてきちんと構築できるものだ。
6.The Stillnox Oratory 05:30 ★★★★☆
雄大さ、荘厳さとアグレッションが同居する。全体としてほかにない音像。このバンドの特性がきちんとある。Moon Safariみたいな聞きやすいネオ・プログレ感もありつつメロディがエスニックでMyrathやOrphand Landのようなオリエンタルメタル感もあり、ブラインドガーディアン的なパワーメタル、エピックメタル的なアグレッションも伴う音のドラマ。とにかく壮大ながら不思議と音に圧迫感がない。
7.Ascend 05:58 ★★★★☆
変拍子が多いプログメタル的なスタート、低めでつぶやくようなボーカルが入ってくる。モダンプログメタル的な音像。メロディアスなコーラスに展開する。この曲はエスニック感は少ない。歌い方が途中からオペラティック。クィーンズライク(ジェフテイト感)というべきか。ああ、この曲はクィーンズライクっぽいな。ところどころエスニックなフレーズが出てくる。途中の間奏など、中近東的なパーカッションの使い方もうまい。最後、合唱的なコーラスが続く。どの曲も一筋縄ではいかないドラマ展開がある。
8.Ya Shema Evyonecha 04:36 ★★★★☆
エキゾチックなパーカッションと伝統楽器のフレーズ。つぶやくようなボーカルが乗る。儀式的な音像でスタート。バンドが入ってきて激烈感が増す。途中から奇妙な展開、次々と場面が移り変わっていく展開になる。今までの曲ともまた雰囲気が違う。かなりエキゾチックな楽団、オリエンタルジャズの間奏部分を経てアグレッションの強いボーカルと開放感のあるバンドサウンド、ジャジーな楽団の音が絡み合う。タイトルはヘブライ語のようだ。
9.For The Leader, With Strings Music 08:26 ★★★★☆
いきなり激烈で疾走するパートからスタート。8分越えの大作だからじっくり行くのかと思ったら予想外の展開。スタスタと走るドラム。途中からかなりプログレな展開に。キーボードと弦楽器が適度に絡み合い、そこにオペラティックからグロウルまで変幻自在なボーカルが舞い踊る。これ面白いタイトルだな「リーダーのために、弦楽曲と共に」。途中、一度曲が収束し、そのまま別のパートが始まる。組曲らしい。とにかく要素が多く豊饒な音世界。途中、Devin Townsendっぽい壮大なシーンも出てくる。大曲でどんどん目まぐるしく展開していくが、ほかの曲とそれほど変わらない。他の曲もどんどん展開していくから特に大曲だからと変わっているわけでもない。ただ、長尺さを感じさせない構築力は見事。
10.Mångata 04:26 ★★★★☆
アコースティックの調べから穏やかにボーカルが入ってくる。伝統楽器の音が前面に出てきて、バラード調で曲が進む。途中からプログメタル的な、アタックと歯切れが良い音像に。だんだんとグロールボイスも入ってきて激情感が増してくる。MVが作られているのでリードトラック的な扱いなのだろう。一つのメロディがしっかりと展開していく。