Faraz Anwar / ishq ki subah
パキスタンのプログ・メタル・マスターと呼ばれるFaraz Anwarの2020年作。先日のパキスタンの記事でも取り上げました。
Faraz Anwarはパキスタンのメタルシーンを代表するギタリストの一人で、さまざまなバンドで活動しています。1996年にパキスタン初のメタルバンドとされるDusk※4に参加(2004年に脱退)、そちらでも活動しながら1997年にMizraab※5というバンドを結成、デビューし、デビューアルバムPanchiはメタルのジャンルでは今までで最大の成功を収めました。その後、ソロでインストアルバムをリリースし、パキスタンのプログ・メタルのマスターと言われています。2020年にソロアルバムとしては19年ぶりのセカンドアルバム「ISHQ KI SUBAH(愛の国)」をリリース。
非常に多彩な音楽性を詰め込んだ80分を超える大作。多少冗長に感じる場面もありますが、卓越した才能を感じることができるアルバムで、独特の透明感があります。良盤。英語ですが、詳しいアルバム解説はこちら。
スマホで聴きながら読みたい方はこちら(noteに戻ってくればYouTubeでバックグラウンド再生されます)。
2020リリース
★ つまらない
★★ 可もなく不可もなく
★★★ 悪くない
★★★★ 好き
★★★★★ 年間ベスト候補
1.Piya 05:46
空間的なピンクフロイド的なギターからスタート
ボーカルが入ってくる、音世界が変わる
瞑想的な、ラーガのメロディ、中央アジア歌唱
音は静謐
ギターが入ってくる、ギターはエッジが立っていてプログレメタル的
変拍子のドラムが入る、プログメタルにアラブ歌謡というか瞑想的なメロディを穏やかで伸びやかな声が歌い上げる
良い声、この辺りの中央アジアと西洋音楽の要素の組み合わせが凄いな
歌メロも良い、インプロ的ではなくきちんと構築されていてポップなエッジがありつつメロディに媚びたところがない
自然さ、真摯さがある、色で言えば白、白い壁と日差し、乾いた空気
ギターソロは空気を換える、少しテクニカルなギターと連打されるドラム
ドラムはリズムが小刻みに刻まれる、やはりタブラ的な影響、マスロック的な影響も多少あるかも
ところどころの連打が強い
★★★★★
2.Ujaloun Mein 04:32
音が心地よい、明るめのアルペジオにメロウなギターソロ
ただ、音は乾いていて明るい、日差しを感じる
これは昼下がり、少しけだるげな雰囲気もある、ボーカルが入ってくる
リゾートミュージック的なさわやかさというか、メロハー的というか
言葉の響きのせいかいわゆるメロハーとは少し違って感じるが、メロディや明るさはメロハー的
ワールドミュージック、非英語圏ポップスとしても傑作な出来
ギターソロ、なかなか面白いフレーズを弾く
イングウェイの影響はあまり感じないなぁ、もう一つ影響を受けたアーティストとして「アラン・ホールワーズ」の名前があったがそちらの方がしっくりくる
クラシカルというよりは和音感は乱さない程度にジャジーなフレーズ
爽やかに終曲
★★★★☆
3.Haal E DIL 07:04
アルペジオからボーカル、少し落ち着いたバラード
歌い上げるメロディ、節回しはあまり強くなく西洋的なメロディだがところどころ語尾が揺れてこぶしが回る
ゆったりとしたバラード
なんだろうなぁ、こういうバラードは昔きいたラテンのアルバムにも近い
ジャケットを覚えているんだがアーティスト名は何だったかな、、、
とはいえ細かい節回しやメロディの落としどころはやはり違う、中央アジア的
なんとなく連想しただけで今聴くと違うのだろう、アーティスト名を思い出せないが、何が共通項に感じているのかなぁ、ちょっと乾いた感じのアルバムだったのだけれど、、、
この曲はメタルやプログ色は薄め、いわゆるロックバラード
ただ、ソロではそれなりにテクニカルなツインリードを弾いている
コーラスで少しシンコペーションが入ったり、やはりプログっぽさがだんだんと出てくる
★★★★
4.Closer to Life 05:46
さわやかAOR的な、リゾートで流れたら心地よさそうなギターインスト
ジョーサトリアーニ、、、とはまた違うな、あそこまでテクニカルだったりキレキレではない
なめらかにフレーズは流れていく、歌うようなメロディ
ああ、ちょっとクラシカルかも、イングウェイの影響と言われたらそう感じなくもないフレーズが出てくる
ただ、ネオクラシカルな超絶速弾きみたいなことはあまり得意ではなさそう
それよりフュージョン的なフレーズだとか、歌心あるメロディの方が得意な感じ
テクニックに圧倒される感じはないが聞いていて心地よい
メロディセンスの方向性は違うがフラワーキングのロイネ・ストルトのようなタイプというか
このアルバムお1時間23分だからなぁ、長編大作
途中からバッキングの雰囲気が変わりポップさが増す
面白い、そこからのツーバス、凝ってるなぁ
プロダクションやちょっと簡素なところもある、なんだろう
ただ、その手作り感というか、それが味になっていて心を惹かれる
★★★★☆
5.Ankhon KAY Phool 05:18
またいいギターの音、どこか力の抜けたギターソロ、音選びが上手い
力の抜けたボーカル、タイのcarabaoも思い出す
エートカラバオに比べるとあそこまですっとぼけた、力が抜けた高音(純粋に上手いのもある)ではないけれど
爽やかなポップス的な音像、メロディもいい、アラブ歌謡、アラビアンポップスの影響も感じるが西洋的な洗練もある
ギターフレーズがやはり魅力的
なんだろう、どこか郷愁を感じさせるが全体としては新鮮な音像
ちょっと素朴なつくりなところもある
だんだんとメロディの音程と煽情度が上がっていく
泣きのギターソロ、サンタナ的でもある
そういえばサンタナも一時期インドに傾倒していたっけな、ジョンマクラフリンと一緒にやったのって同じインドの導師に師事していなかったっけ(←調べた、インドのグル、シュリ・チンモイか)
インドはジャズも盛んだし、何かつながるものがあるのかもしれない
★★★★
6.Bahon KI Duniya 05:30
演歌的なギターフレーズ、泣きのギター、泣きといっても歌謡曲的な泣き
ボーカルが入ってくると透き通った感じになる、節回しはあるもののこぶしはあまり聴かせず直線的に声を伸ばす
ところどころ音がウェストコーストっぽさもあるなぁ、ジャクソンブラウンのLate For The Sky的な
リバーブが効いていて少しトーンを絞っている感じ、ささやくような
これはロイネストルトにも感じる
このアルバムはポップアルバムなのかなぁ、とこどろこどプログメタル的なエッジだったり変拍子は入るので不思議な感じ
ただ、曲のメロディとか大きな構造はアラビアンポップスの範疇と言えなくもない
いわゆるハードロック、メタルの分類でいえばメロハーなのだろうけれど
ところどころフュージョン的なフレーズも入るし
音はそこそこ整理されている、一気に手数が増えて盛り上がる超絶技巧系のプログメタルの音像ではない
とはいえ単なるポップに比べるとギターの音色やプレイ、リズムに引っ掛かりが多い
少しテクニカルなギターソロから転調してコーラスへ
どの曲もアイデアが盛り込まれていて単なるありがちなポップになっていない
★★★★
7.Ishiq KI Subah 05:06
アルペジオから
不思議な音が入る、ヘアメタル、LAメタル的なリフ
シンガロングなウォウォウォ~のコーラスが入ってきてAメロへ
アルバムのタイトルトラック、アリーナロック的なのかな
歌メロは中央アジア、アラビアンポップ的、ボリウッドとはちょっと違う気がするな
あまりダンサブルではない、爽やかではある
メロディセンスがあるなぁ
ミカエルアーランドソンの昔のソロアルバムとか、ああいう透き通った爽やかさもある
でもメロハーと呼ぶには、、、うーん、ところどころ伝統楽器の音色も入る(特に目立たないがずっとバックに入っていたりする)し
リズムも変拍子やソロもけっこう目立つし
特長を言語化するとプログレッシブ・フォーク・メロディアス・ハードロックかな
ギターのエッジは効いている
★★★★
8.AIK DIN (feat. sharmistha chatterjee) 06:54
静かな歌いだし、そこからザクザクしたギターがはいってくる
女声ボーカルが入る、ゲスト
途中からグロウルも入り凝った曲、リードトラック
とはいえ、荒々しさより穏やかさが勝る、アルバムの中で浮き上がることはない
全体として瞑想的な、穏やかな音像
★★★★☆
9.Roshni 05:12
穏やかな音像が続く、バラード
途中、クラシックギターでのソロが入り耳を惹く
全体として穏やかな世界でだんだんと集中力が尽きてくるが、心地よく流れていく
悠久な時の流れというか、贅沢な時間が流れていく感じ
緊張感が持続するというより心地よさの中にところどころエッジが効いている
アルバムが長尺なのもそうした効果を増している
どの曲も単曲で見ると良い曲だがやや似た曲調が続くといえば続く
★★★★
10.TU Qareeb HAI 05:32
こちらもアコギによる静かな始まり
と思ったらドラムが入ってきた、やや明るめの音像
とはいえミドルテンポか、ドラムのタム回しが激しい
心地よく耳を惹くメロディ
★★★★☆
11.Naami 06:10
朴訥とした素朴なギターメロディだが少し音程が揺れる感じが中央アジア的
カッティングが変わり弾むようなリズムになる
ハキハキとしたリズムに
うーん、不思議なアルバム
昔似たようなアルバムがあったなぁ、アンビエントというかSacredなんたらというテーマだったがきちんとメロディがあり
コーラスやハーモニーがあった
このアルバムもいい曲、ポップなメロディ、親しみやすい(けれどけっこう弾きまくっている)ギターソロや変拍子があるけれど、全体としてかなり穏やか、日常的なBGMにもなるし
メタル的なエッジや攻撃性はあまり感じない、それなりに要素としてはあるのだけれど
やはり声が穏やかなのはあるな
ハイトーンで伸びやかに歌い上げるにせよ、どこか瞑想的、ラーガ的
後、前のソロ作は一部のベース以外ほぼ一人で演奏したらしいがこのアルバムはどうなのだろう
ドラムは打ち込みなのかなぁ、打ち込みには聞こえないが
なんとなく独特なのは一人で演奏しているからだろうか
★★★★
12.Leave It All Behind 04:18
ヴァンヘイレン的なフレーズで、リズムもそんな感じ
ボーカルが入ると違う雰囲気に、メロハー的な音像ではあるが
これはまさにメロハー、いい曲だがプロダクションがなんというかちょっとデモっぽい
音が悪いわけではないのだけれど、Zenoの蔵出し音源集Zenologyに近いというと伝わるだろうか
たぶん、一人で演奏しているんだろうなぁ
★★★★☆
13.Judai KA Zehar 04:38
爽やかな曲、バラード調
良い曲だが、他の曲とあまり差異がない
★★★☆
14.Fearless Train 05:10
ちょっと毛色が変わり軽快なリフに
この人器用だなぁ、いろいろなものを弾きこなせる
これはインストか、そこそこテクニカルなリフにギターが乗る
ジョーサトリアーニ的、90年代のノリノリだったころのジョーサト的
凄い才能がある人、メロディセンスがある人なのは分かる
ただ、いろいろ見ていたら100ドルでソロを録音しますと広告を出してプチ炎上したりしてるなぁ
パキスタンのメタルシーンは狭いから商業的に成り立つのは厳しいのだろう
勿体ない、パーソナルなバンドを組めば凄い才能なのに
(だいたいプチ炎上のコメントも「勿体ない」「先生ほどの人がそんなことを」みたいなのが多かった)
とはいえ、このアルバムはそうしたフラストレーションも込められていて、その分全力をぶつけているのだろう
このアルバムのリリース後にその広告を出したようなので、そこまで収入にはつながらなかったのかもしれない
ものすごい力作だとは思う、ほぼ一人でこれだけの曲を作り、アイデアを出し、録音したと思われる
ジンジャー(Wildhearts)も一時期曲をひたすら量産する時期があったが、似たような才能の極端なひらめきを感じる
★★★★
15.ONE of Them 06:46
いよいよラストソング、打ち鳴らされるリズム、これはヘヴィな音像か
…と思ったらコードが展開してやや優美さが出てくる
でもグロールも入るし、一番ヘヴィだな
ちょっとドラムが手数が多いけれど平坦というか軽めなんだよなぁ
もしかしたら打ち込みなのかな、いや、本人が叩いているのか
リズムは多少ピッチを合わせていそう
録音メンバーの情報がないんだよなぁ、metallumにも載っていないし
この曲だけ雰囲気がだいぶ違う、やや激しめのプログメタルといったところ
ただ、ドラムがちょっとのっぺりしている、悪い曲ではないけれど
途中から弾きまくるギターソロ
★★★☆
全体評価
★★★★☆
評価が難しいアルバム、個人的には凄く好きな要素が多い、中央アジア音楽(アラビアンポップス)+プログレメタル
あと、聴いていて心地よい、どの曲もメロディがいいしギターもいい
ただ、ドラムやベースは弱い、たぶん宅録というか、一人で全部の楽器を演奏しているのだろうな(調べてみたらそうだった、ドラムはたぶん打ち込み、なので曲によってはドラムが平坦、初期のSymphony Xを思い出した)
バンド感はない、凄い才能なのはわかるが一人で作り上げた感が強い
特にギターソロの音とかが宅録っぽい
それ自体は悪くないのだけれど、アルバムが83分あって長い、これだけ長いとさすがに聞き飽き感もある
宅録が味になる場合もあるが、落ち着いた曲調が続くのもマイナス、中だるみする
ロック音楽、プログメタル的な要素もあるのでそうなるとやはりだんだん盛り上がってくる熱量みたいなものが欲しいがそれがない
エッジの効いた音やパートはあるのだけれど全体としてはどこか穏やかというかリラックスしている
バリエーションがないわけではなく、リフ主体とか、ハードロック的とか、バラードとか曲そのもののバリエーションはあるのだけれど、やはり熱量が足りない、どれも同じ温度に聞こえる
半分ぐらいの長さだったらそうした部分が目立たず名盤感があったかも
ただ、そうなると今度は音の薄さとかが気になってしまうのだろうか
ちょっと惜しい作品、アイデアや楽曲、ギタープレイの質は高いが、リズムや全体の熱量が弱い
熱量がもっと上がっていけば凄い作品なのに、最後の15曲目は激しめの曲だがむしろ浮いてしまっている
とはいえ、個人的には大好物な要素が詰まった良盤
何度もリピートしてしまう、リピートしているうちにだんだん好きになる
万人におススメするほどの突破力は感じないが、個人的にはファンになった
ヒアリング環境
昼・家・ヘッドホン