2021年振り返り&2022年抱負-”全音楽史”を考えてみる + 音楽は共通言語なのか
あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。
2021年の振り返り
まずは2021年、1年間の振り返りから。ヘッダー画像に入れましたが41.2万インプレッション(noteは「一覧表示」に出ても「1ビュー」になる仕様のようなので、PVではなくインプレッション数)、3,875のスキをいただきました。多くの方に読んでいただいて嬉しく思います。
そもそもこのブログ(note)を書いているのは自分自身のためです。昔から思考の記録的なものをwebに残す習慣があって、それは「webの方が後から見直しやすい」からなんですよね。検索すればたどり着けるから、紙の日記より利便性がいい。なので昔からこうしたweb上で(非営利の)文章を書く時の一番の読者は自分自身なんですが、このブログは「音楽」というテーマを設定しているので、その点ではより「他者が見ること」を意識している。趣味のブログなので、僕自身だけでなく同好の士には読んで楽しんでいただけるところもあるのかな、と思っています。せっかく読んでいただいているので、振り返りとして昨年の記事から2つの視点でベスト3を選んでみましょう。
PV、スキの両方が多かったベスト3
実はPVの順番とスキの順番が逆なんですよね。PV1位=スキ3位、PV2位=スキ2位、PV3位=スキ1位、という。なので、この3つは特に優劣なく、どれも「よく読まれた記事」ということになります。たぶんPV1位、2位になった記事はTwitterなどnote外からの流入があったような気がします。「スキ」はnoteユーザーの文化ですから、note外に届くと「スキ」を押すユーザー比率が減るのでしょう。
PV1位、スキ3位
これはバズるかなぁ、と思っていたらバスって嬉しかった1作。「あるといいのに今ないから、求められているんじゃないかなぁ」と思って書いてみたら仮説が当たった記事。上記したように、基本的に「自分のため」に書いているんですが、多くの人に読まれたりすると嬉しいですね。とはいえ、完全に趣味でやっているので「人からの反応」にあまり過剰になるのもよくないですが。当たったときはいいんですけれど外れたときにモチベーションが下がりますからね。マーケティングやりたいならそういうブログを立ち上げればいいので、このブログはあくまで「音楽」について自分が書きたいことを書いていこうと思います。
PV2位、スキ2位
これは予想以上にバズった記事。「きちんとロック史の中でサザンを位置づける記事ってあまりないよなぁ」とは思っていたものの、サザンに関する言説は日本語空間にたくさんあるのでそこまで目立つと思っていなかったのですがけっこう多くの方に読まれて嬉しく思いました。フラットな状態で音だけを聞いてみて「同時代のロック的な音」かどうかだけで選んだので、ここで選んだプレイリストは他にはない「サザンの実験精神を感じられる」リストになったかなと思います。
PV3位、スキ1位
これは一番最初にスキ100超えした記事ですね。ロック名盤特集とかいろいろありますが、こういう視点で「ロック史をざっと追ってみよう」という企画はあまりなかったんじゃないかな。記事内にも書きましたが、僕が自分になじみがない音楽ジャンルを聴くとき「代表的なアーティスト3組の代表作(とされるアルバム)を聴く」ということを心がけているんですね。それを入り口に掘り下げていく。だから、そういう視点で「ロック」を紐解いてみようと思ったのが書いたきっかけ。この視点は有益だと感じていただいた方が一定数いたようです。
PVが少ないけれどスキが多いベスト3
さて、次が「PVが少ないけれどスキが多い記事」です。PVに対するスキ率が高い記事=「あまり読まれていないけれど読んだ人からは気に入ってもらえる確率が高かった」という、いわば裏ベスト的なもの。実はPVが多い記事はたいてい「音楽 記事まとめ」に取り上げられているんですよね。これらの記事はそこに取り上げられていない記事です。取り上げてくれるとたぶんバズると思うんだけどなぁ(笑)。
スキ率1位
「僕はどうやって音楽と出会っているか」という記事です。実用性があると思ってもらえたのかスキ率が一番高い結果に。
スキ率2位
これは自分で言うのもアレですがなかなかの力作で、ここで調べた視点は今年も引き続き記事にしていきたいと思っています。「日本らしい音楽」ってなんだろう。この記事では「伝統音楽」というか「日本音楽史」から考えています。
スキ率3位
「音楽がその国の文化・歴史にどのような影響を与えているか(音楽の社会的影響)」ということを考えるのが好きなんですが、「音楽が歴史を変えた瞬間」を「スキな3曲を熱く語る」という企画に合わせて整理してみた記事。企画にも入賞させていただきました。
昨年も元日に振り返りと抱負記事を書いたので改めて読み直してみると、
1.アルバムレビューを始めてみた、続けてみよう
2.2021年は「音楽論」的なものを書こう
3.テーマに沿って音楽を紹介していこう
という3点を抱負として挙げていました。振り返ってみるとこの3つは達成できたかなと思っています。
1.アルバムレビューを始めてみた、続けてみよう
アルバムレビューは2021年も1年間継続。「2021年ベストワールドミュージックアルバム」の「まとめ」のところにも書きましたが、約1年半続けてきて「アルバム単位で曲を聴く」ということが身に付きました。逆に言うと、アルバムでしか音楽をほぼ聴かなくなった。単曲で聴くことがあまりないんですよね。アルバムレビューを書くとき、集中して音楽を聴くときだけ音楽を聴く生活スタイルです。最近は移動が減ったのであまり移動中に音楽を聴くことも少ないですし、日ごろ”何かをしながら音楽を聴く”というタイミングがほとんどありません。音楽体験として「意識して、自分で聴くことを選んだ音楽」に触れることが8割9割ぐらいでしょうか。そんなライフスタイルがすっかり定着しました。逆に、もっと気楽にいろんな音楽に触れることもやりたいんですけどね。自分以外の人が選んだプレイリストを流しながら作業する、とか。そういう「偶然の出会い」は今年もうちょっと取り入れたい音楽の聴き方。
2.2021年は「音楽論」的なものを書こう
これはけっこう書きましたね。上記した「”日本らしい音楽”とは何か」もそうですし、下記2つは英語の論文を自分なりに訳して、解釈した記事。
3.テーマに沿って音楽を紹介していこう
これは上の「サザン史」や「革命の音楽」もそうですね。ひとつのアーティストをテーマに沿って再確認したり、あるいはテーマに沿ったバンドを紹介したりしました。メタリカも掘り下げたりしましたね。
あとは一番大きかったのは「オルタナティブロック史」を振り返ってみたこと。連載として書き終え、初の有料マガジンにしてみました。購入してくださる方もいらっしゃってありがたい限り。これについては自分自身の整理も含めて、「人に読んでもらうこと」を意識して書きましたね。つまるところ「人が読みやすいもの」が後から自分にとっても読みやすくなるので。こちらは2020年以降も追記中。
そんなことで、年頭に書こうと思っていたことはだいたい書けたし、予想以上の読者も得ることができてnoteを楽しめた1年だったと思います。
2022年の抱負
さて、今年は何を書こうか。一つ大きなテーマとして「全音楽史(のようなもの)」を考えてみたいなぁ、と思っています。
オオタジュンヤさんが連載されている「メタ・音楽史」。連載を楽しみに読んでいますが、こちらで「全・音楽史」マップが先日公開されました。超力作。ご覧になっていない方はまずご覧ください。
可視化する試みは素晴らしいなと思いつつ、これはご本人もTwitter等で記載されていた通り「全西洋音楽史」なんですよね。「全世界音楽史」ではない(というか、おそらくそんなものは現存しない)。
ということで、今年はここに記載されなかった「非西洋の音楽」について考えてみたいと思います(もともとそこには興味があって、「この記事」でもそういうことには触れているんですが)。
もし「全世界音楽史」というものを描くとすれば、イメージとしては「世界史年表」のようなものになるでしょう。
地域別にそれぞれの音楽史が可視化される。理想的なのは紙では情報量が詰め込めないので、webを用いた拡大、縮小によって情報を折りたたむようなもの。こうした音楽ジャンルを可視化したサイトは「Music Map」がありますね。
Music Mapにも右上に「WORLD」があります。
ただ、Music Mapでも今一つ他とのつながりや時系列はわかりづらい。「とりあえず置いてある」感があります。
たとえばトルコ音楽だけで年表を作れるんですよ。上述したオオタジュンヤさんの全・音楽史マップの1枚目でも「メフテル」といった言葉が出てきますが、イスラム文化、アラブ音楽は西洋音楽と同様の歴史と発展を遂げている。
北アフリカ、モロッコにもジャジューカという音楽文化があり、長い歴史があります。
もちろん、日本音楽にも長い歴史があります。
こうしたものをまとめて全世界音楽史みたいなものができないかなぁ、と思っています。図表にまとめるという形が良いのかは分からないのですが、こうした「各地の伝統音楽」の歴史を追っていきたいなと思っています。
なお、なぜ図表にまとめるのが良いのか分からない、というのは、そもそも時系列に並べて整理するとか、年表という理解形式自体が西欧文化的だからです。そういう作業をする過程でそぎ落とされるというか編集されるものがあって、それは乱暴なんじゃないかなぁ、とも少し思います。年表って見やすいけれど乱暴なんですよね。そもそも音楽の起源とかジャンルって曖昧で、そんなにはっきり「歴史上の点や線」として現れるものでもないので、年表という記述形式が適切なのかは不明。
音楽は共通言語、と言いますが、そもそも音楽は共通言語ではない。文化が違と発想も扱われ方も違うんですよね。たとえば欧州の純音楽、つまり「単純に音楽だけを鑑賞する」文化ってけっこう特殊で、日本だと宮廷音楽である雅楽はそうでしたが、たいていはなんらかの「伴奏」だった。それはお囃子であったり、長唄であったり、歌舞伎や能の劇伴歌・効果音になるわけで、「音楽だけ」を切り離して形式を論じることはそれほど意味がないのかもしれません。どういう文脈の中で音楽が用いられていたのか。
楽譜を見てみると音楽の多様性は良く分かります。たとえばギタリストなら今でもコード譜とかタブ譜というものを見たことがあると思いますが、楽器が違えば楽譜も違うし、さらに言えば音階も違う。たとえば下記は早歌(そうか:武家を中心に流行した宴席の謡いもので、多くは七五調でつづられている。 歌詞、曲節ともに謡曲の先駆をなしたもの)の楽譜です。
さっぱり分からない、というか「楽譜」だと思わないんじゃないでしょうか。謡曲なので歌詞が主体で、あとは節回しが指定されているんですね。ただ、ここでは「音程」という概念や「リズム」とう概念はほとんどありません。単に「節回しと歌詞」だけが指定されている。つまり、それだけで成り立つわけです。
こちらは一弦の琴の楽譜です。一弦の楽器というのは原始的ゆえに世界中に存在し、だんだん弦が増えていき、チューニングなどができてくるわけですが、1弦だともっとプリミティブ。「ある程度の音の高さ」はあったのでしょうが、厳密なチューニングや音程は意識されていなかった。そもそもアンサンブルを取るものではないので、その場の雰囲気次第で変わるものだったのですね。で、こちらは音程と拍が書いてあります。なので、一応メロディとリズムがある、ただ、BPMの指定はないのでその時々で速度は変わるのでしょうし、そもそも「一定のリズムに保たなければ」みたいな発想もなかったと思われます。
また、こうした伝統音楽というのは楽譜が残っていないことも多い。上記は「秘伝譜」と書かれていますが、秘伝なのに譜面が残っているのは珍しい例で、口伝とか一子相伝みたいなものも多くあります。筝曲は流派があり、流派ごとに楽譜は秘伝であった。そして曲ごとにチューニングも変えていたわけなので、いわゆる西洋音楽的な「楽譜」の発想、形式とは大きく異なる概念です。いわゆる大衆の流行歌、謡曲は歌詞が大事なので歌詞は瓦版で刷られて販売されていた。そこで「ヒット曲」が出たりもするわけですが、基本的には音楽はあまり活字にされるものでもなく、聞いて覚える、その人なりの解釈が入るものだったわけです。
今は日本の例を出しましたが、これはほかの国でもある程度共通していてそれほど明確な「楽譜」が残っている文化の方が珍しい。また、日本は「独奏」が多いですが、逆にバリには「独奏」が基本的にない合奏が前提となる楽器(たしか太鼓だったかな、高音と低音部分に分かれていて、一人では叩けない)、というものもあります。合奏前提の場合は「コミュニケーションツール」なわけですね。音楽というより(ボール遊びとかと同じような)「音遊び」に近いかもしれない。
こうした多様な音楽の在り方があり、その中で自然に形式が定まっていったものが「伝統音楽」なので、それは生活の在り方、文化の在り方、音楽の用いられ方(文脈)によって変化します。12音階で、リズムとメロディとハーモニーがあって、、、という現代の音楽は確かに世界共通語になりましたが、これが「共通のもの」となったのは凄く最近、第二次大戦以降ですね。今でも伝統音楽には12音階以外の音階もたくさんあるし、リズム・メロディ・ハーモニーという概念で捉えられない音楽もたくさんあります。そうしたものを一つの「音楽」という括りでまとめるより、多分別のもの、それぞれ違うものとして掘り下げていく方が適当なのかもしれません。
こういう考え方は「音楽民族学」とか「音楽人類学」と言われるものです。今年はこういった分野についてもっと書いてみたいなと思っています。結果として「全音楽史」的なものを少しづつ編んで行くかもしれませんが、多分、そうしたものが現存しないのは「作れない」か「作っても意味がない」からな気もします。まぁ、趣味のブログなので学際的に意味があるかはともかく「作る作業が面白そう」ならやってみるかもしれません。いずれにせよ、そうした「国別、文化別、文脈別」の音楽を比較してみる=音楽の背景にある文化や文脈を考える、という聴き方をして、考えを文章にまとめていきたいなと思っています。
それでは、今年も良いミュージックライフを。
音楽民族学(”民族音楽”学ではなく、音楽を通じた”民族学”なので、「音楽民族学」と僕は表記しています)のテキスト