Sufjan Stevens / The Ascension
スフィアン・スティーヴンスは1975年生まれ、1999年デビューのアメリカのシンガーソングライダーです。こちらは2020年にリリースされた8作目のアルバム。宅録系のUSインディーズ・フォークロックのアーティストですが、アルバムは娯楽性が高くメロディパターンも壮大で豊富、音楽のアイデアが豊富で、トッドラングレン辺りを彷彿とさせる面もあります。トッドに比べると音楽的にはもっとカントリーとかルーツミュージックの影響が強いですが、今回のアルバムのジャケットはトッドラングレンのユートピアのアルバムにも似ていますね。ちょっと意識しているのかも。今回は電子楽器を取り入れてみた作品です。まだ使い方にこなれない部分はあるものの豊富なアイデアが練りこまれた楽しめる大作(80分!)でした。
2020年リリース
★ つまらない
★★ 可もなく不可もなく
★★★ 悪くない
★★★★ 好き
★★★★★ 年間ベスト候補
1.Make Me An Offer I Cannot Refuse
電子音あふれるリズム、たゆたうリズム
透明感がある、氷河が崩れるような音、色は青白く冷たい印象を受ける
青白い炎かもしれないが熱は感じない
ビョークのようなバッキング、ボーカルメロディはかなり上下降を繰り返す
四つ打ちも出てくるが間断的、躓きながら進む
間奏部ではいろいろなものが個別に動いていく
波が高まっていきどこかに吸い込まれていく、空間が歪み、去っていく
★★★☆
2.Run Away With Me
差し込む光、アセンションとは高次の次元に遷移すること
最初の曲で遷移して、漂っているのだろうか
浮遊感がある、雲の上にいるような
同時に自分の中に沈み込むような質感もある
浮かんでいるけれど、浮かんでいる場所は実は深い地下の海かもしれない
洞窟の中の湖
優しく歌いかけるようなメロディ
ウィスキーグラスにぶつかる氷のような音が響く
コーラスが多重に重なりポリフォニーが冷たい世界をつくる、シガーロスあたりにも近い質感か
エコーがぐるぐる回ってどこかに吸い込まれていく
★★★☆
3.Video Game
ノスタルジックなキーボード音、そこから打ち込みドラム
8-bit的なドラムループに、ブルーノマーズ的なポップな歌メロが入ってくる
そこまでポップに展開しきらず、余白を持ってキーボードの反復フレーズ
思い出をたどっているようだ、記憶は踊る
ブルーオイスターカルト的なボーカルループ、コーラスとメインボーカルが追いかけ合う
佇んでいる、どこだろう、街角か部屋か、イングリッシュマンインニューヨークのように街角だろうか
★★★★☆
4.Lamentations
こもったような電子音、リズムループ、少し遠くに音がある
色々なものをたたいてサンプリングしたようなリズム、不思議な声のループ「あっかんべー」と聞こえる
ドリーミーなボーカルが入りメロディアスなヴァースを奏でる
電子音のループ、P-MODELや攻殻機動隊のサントラのような、日本テクノポップの流れも少し感じる
アンドロイド、メトロポリス、空を飛ぶバイク
ハイパーバラッドのPV
そんなものを思い出した
電子音が去り、重層的な女声クワイアが残る
★★★★
5.Tell Me You Love Me
打ち鳴らされるリバーブの効いたドラム、遠くで大きなものを叩いているようだ
声が滑り落ちてくる、氷山を上る、降りる
映像が浮かぶ音作り、音のキャラクターがある
漂うようなメロディだがフックは聴いている
シガーロスのような音響だがメインボーカルがしっかりある歌モノ
氷のクリスタルのような、氷結するコーラスが立ち上がる
吹雪のような音で展開、コードが移り変わる
★★★
6.Die Happy
声で始まりゆらめくようなキーボード
マルコスヴァーリ当たりのクールなジャズオルガン音
"I Wanna Die Happpy"のフレーズが響く
洗面所のようだ、何か言葉が浮かんでいる
ふと鏡を見て、そこでつぶやいている男が見える
コードが少し不協和音が入り、緊迫感を出す
少しづつリズムが立ち上がる、起動音、遠くで響いている
途中からリズムがノリの良いクラブサウンドに
とはいっても明るさよりは哀愁を感じる、リズムがはっきりして踊れるリズムが出てくる
ボーカルは同じフレーズの繰り返し、サンプリングなのか
音で遊ぶ、肉体を失ったアンダーワールド
★★★☆
7.Ativan
前の曲から間髪入れずにスタート、音は繋がってはいない
ハードコアテクノ的、ややつぶれたミニマルなリズム
硬質のリズム、歌メロはポップでややサイケ
MGMTあたりをもっと硬質にした感じ
コード進行はところどころホラー、幽霊が出そうな音も入ってくる
心地よいメロディが続き、オーケストラが残る
幽玄な響き、コードが揺らめく
★★★☆
7.Ursa Major
ちょっと「あっかんべー」に聞こえるイントロから
これもアニメやジャパンテクノ的な響きがある
映画「パプリカ」の主題歌を思い出す
歌メロは全然違い、ジェイムスブレイクやジャミロクワイあたりか
人の息遣いや肉体的な音が多いが、サンプリングされているのかテンポがしっかりあるので機械的に聞こえる
ピーターガブリエルのGrowing Upにも近い雰囲気
重層的に重なる音、ボーカル
★★★★
8.Landslide
電子音、ひっそりとこちらをうかがう
抒情的なコード進行、目が覚めるようなノイズ音
少し棘も潜んでいるがスィートで抒情的、魔女または狼がいるお菓子の森
このアルバムのジャケットを見て連想したのはトッドラングレンのユートピア
たしかこんなジャケットがあったが、トッドっぽいといえば、ぽい
この曲は少し宅録感がある、シンセの音色とか、ギターの音色とか
アルバムを聞いているうちにどんどん心地よくなってくるのがこの人の特徴
メロディセンスや音のセンスが良いのだろう
凄く奇を衒ったり、展開が早いわけではないが、着実に進行していきながらフックもあり、聞いていて心地よい
★★★★
9.Gilgamesh
まさかのギルガメッシュ、メソポタミア王が出てくるような話なのか
ささやくようなボーカルがひいては返す
ノイズ多めの電子音リズムがループし始める、ドリーミーなボーカル
英雄王の孤独を歌っているのか、古代への追憶か、人類の進化への諦念か
どこか突き放したような情感
フレイミングリップス的な、ノイズ多めのサイケな音作り
★★★
10.Death Star
そこからのスターウォーズ、何を歌っているのだろう
90年代ディスコ的な音作り、ノイズがまじっているのは今っぽい
ドリーミーな反復フレーズを繰り返すボーカル
リズムは90年代のヒップホップか
どこかチープさ、ハッタリを感じる
ハッタリが効いている、音の使い方が上手い
★★★
11.Goodbye To All That
ドリーミーでインダストリアルな曲、前の曲と雰囲気が近い
やや緊張感が増してきているか
ここ数曲は音は似た感じで心地よく流していくが歌メロには緊張感がある
しかし歌が電子音に埋もれているのは実験的
気を抜くと置いて行かれる、逆に言えば強制的に耳を惹く瞬間は薄い
何度も聞ける玉手箱、おもちゃ箱感はあるか
★★★☆
12.Sugar
少し遠くで響くバスドラ
リズムは控えめになっている、ハーモニー、キーボード、シンセかクワイアか
頭の中にある音をそのまま表現しようとした感じ
マルーン5みたいな歌メロ、フックがあるが、間奏の引っ張り方が自由
好き放題やっている、歌メロの美味しさが際立つ
音の気持ちよさ、を極力追求したアルバムなのだろうか
ルーツミュージックやクリシェを、少なくとも音色ではあまり意識していない曲が多い
かといってテクニックで押すわけでもなく、本当に頭の中にある音がそのまま移し替えられているような
編集で過度に密度を濃くしていない
3分にまとめられる曲を7分に伸ばしている、この曲は7分半
ただ、それは間延びしているわけではなく、7分半使ってドラマを作っている
3分のポップスに耐えるメロディを7分半で表現するというのは違う感慨、情感がある
希薄化による退屈さもあるが、余白を自由に使って描きたいものを描いている心地よさもある
★★★★
13.The Ascension
電子音にささやきかけるようなボーカル、宇宙人が歌っているのか
歌メロはポップ、なんだろう、懐かしさと新しさ
懐かしさということは過去聞いた何かに似ているということだ、なんだろう
エンターシカリとかかな、あるいはミューズか
歌メロはロック的ダイナミズムがあるけれど、音はあくまで静謐
シガーロスか
歌メロは美しい、弾き語りで歌ってみる、体を通すことを想像するといいメロディ
極端な音階の飛躍もなく、自然につながっているがフックがある
そのメロディをどこかドリーミーでつかみどころのない、宇宙遊泳のような電子音のバッキングにまかせている
勿体ないような、好き放題やっていてクリエイティブなような
ブルーノマーズのような王道のポップス感もある
ブルーノマーズということはハワイアンポップスを軽快にして展開を早くした感じか
たしかにリゾート的な、影のない明るさもある
最後はクワイア、ハレルヤコーラス的な、空から何かが照らしている
★★★★
14.America
直球のタイトル「アメリカ」、ややシリアスなリズム
ヘヴィブルースのリズムを電子音、ひいてはかえすパルス
ボーカルは訴えかけるようだが感情はクール、ちょっとマイナー調でこぶしがある節回しだがビブラート皆無
透明感のある歌い方、メロディはペンタトニックで距離が近い
ノスタルジアより、近くにいる感じ、身近、突きつけられる
圧迫感はないが、耳を引かれる
不快ではない、押しつけがましくない緊迫感
僕はこう思うけれど君はどう思うだろう
そういう問いかけだろうか
紳士的な友人の意見に耳を傾けざるを得ないというか
12分30秒ある大曲
間奏、青春を思い出すようなピアノ、音楽室で響くような
バスケットボール、体育館、リバーブ、学校そのもの、チャイム
コード展開、ベースが入ってくる、成長していく
Growing Up、ビルが伸びるのか
女声クワイアが入ってくる、少し歪んだ、割れた鏡に映っているのだろうか
途中でひび割れていく、風化していく、別のシーンが出てくる
色々なことが思い出されては消えていく
打ち鳴らすリズムと下降音階のループが一巡して再びクワイア
声がクリアになっている
一度メロディが去り、どこかに移動するような、あるいは終わりの情景
ドローン、アンビエント音だけが響く、不協和音、リズムがない、2001年宇宙の旅
不協和音と和音がそれぞれ出てきては消える、銀河系か
キラキラしたフレーズ、昇天か天の川か
★★★★
全体評価
★★★★
突出した一曲がなかったが、どの曲もレベルが高い
何度も聞くとそれぞれのうまみが出てくるフレーズの多様さ
途中、中だるみもあるが、アルバム全体が80分と長い
その時間をフルに使って描きたいことを無理なく、自由に描いた印象
もともとアコースティックな人なので、電子音の使い方がややピュアで、客観性に欠ける部分があるのがマイナス要素
ただ、次のステップにつながるチャレンジだと思う
音楽は時間の芸術なので、大きなキャンバスに自由に描いてみた心地よさがある作品
リスニング環境
夜・家・ヘッドホン