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hodíla ízba/Ходуном

総合評価 ★★★★★

ロシア発、11人組(4人の女性ボーカル)を擁するビッグバンド。ミクスチャーで祝祭感がある音像。グローバルポップの中でこうした音像のバンドはいくつかあるけれど完成度が高い。「ロシアならでは」の特異性があり、演奏技術も高く、作編曲能力も高い。4人もいる女性ボーカルのポリフォニーが迫力があるし、サックスソロやギターリフ、「いかにもロシア(というか旧共産圏)」な電子音、展開も盛り込まれていて他にはない独特な音楽体験。これがデビュー作ということでベテランの醸し出す「だんだんと盛り上がっていく熱狂感」みたいなカリスマ性までは身につけていないが、フレッシュな感性と確立されたしっかりとした個性が聴き処。これは掘り出し物の素晴らしいアルバム。

こうした音楽が好きな方はこちらの記事で紹介したアーティストも好きかも。

各メンバー情報など


1 Кривошейка ★★★★☆

独唱からスタート、節回しが独特、コーラスが入ってくる。民族音楽的なスタートからオズの魔法使いのSEのような音が入り、クールジャズのような響きの音が入ってくる。パットメセニーグループとか。そこからトライバルなリズムに変わる。面白い音像。ジャジーで洗練された音響を持っているが声の力強さ、混声によるポリフォニーがあり、東欧のポリフォニーにも近いというか同ルーツなのだろう。ロシア語なので節回しがよりエキゾチック。祝祭感と洗練が同居する新世代のグローバルミュージック。

2 Шел Я Яром ★★★★☆

コーラス、ポリフォニー、言葉数が多くなる。ラップというか、インドの口ドラム的な言葉数の多いボーカルに。途中からブラスバンドが入ってくる。インド的な感じも強いな。オリエンタルビート、ミクスチャーロックだけれどボーカルが多く、勢いがある。落ち着いてじっくり聞くというよりテンションがあがる感じ。ちょっとスカのような性急さもあるな。そこまで低音が強調されているわけではないがロシア的なビート(ロシアンハードテクノとか)も感じる。

3 Под Лесом ★★★★★

合唱からスタートし、メロウなスムーズジャズへ。サックスがじっくりとメロディを奏でる。そこからボーカルの独唱~合唱へ。ゆらゆらと揺れるような、静かに青い炎を見つめるような曲。揺らぐ焚火のそばで輪唱するような、どこかアットホームな親密さがある。電子音も入ってきて祝祭感が増す。キャンプファイヤー。炎を囲んでゆったりとした円舞と合唱が続く。郷愁を感じる。

4 Дождь ★★★★

反復するコーラス、民族的なフレーズ、どこか屋台的、チンドン屋というかお囃子感もあるバルカンブラス。タイトルの意味は「雨」らしい。グルグルと回る、酩酊するような曲。短いフレーズが反復されて繰り返される。呪術的。

5 Дунюшка ★★★★★

歯切れのよいコーラス、このボーカルとコーラスは心地よいなぁ。陶酔感がある。ちょっとロックなテイストが強めな曲。それほど早いビートではないがダンサブルで体が動く。カッコいいミクスチャーロック。ベースがあくまでもロシアの音楽でルーツがしっかりしている。余談だがДを見ると「ゴルァ」に見えて仕方がない。

6 Гуляла ★★★★☆

ちょっとレゲエっぽいリズム。あくまで「ロシア的解釈のレゲエ」だけれど。すっちゃかすっちゃかというリズムに乗ってボーカルが進む。日本の「○○節」との共通項もある。ゆらゆらと揺れるようなビート。この辺りは日本のバンドのセンスにも近いものがある、、、と思ったら途中からデジタルビートに、ロシアならではのビート、ロシアンハードベース。加速していく。やけくそ感、ロシアンパンク。いいねぇ、こういう旧共産圏の破れかぶれ感はなかなか西欧諸国には出せない。

7 Подружка ★★★☆

アカペラで進む曲。アカペラコーラス。独特の音程感。低音部分がややテンションがかかったような進行だが不協和音感はない。讃美歌的な響き。

8 Параня ★★★★☆

いきなり電子音に。やっぱりロシアの電子音、シンセ音って独特なものがある。時代遅れ、というのとも違うんだよなぁ。なんというか旧共産圏の独特な響きがある。メーカーとか部品が違うのかなぁ。流通ルートや出回っているメーカーが全然違うからね。本格的な旧共産圏はモンゴルぐらいしか言った記憶がないが、流通しているメーカーがロシアや東欧のものが多かった。ぜんぜん違う文化圏、経済圏なんだなぁと思った記憶がある。ベースの原理は同じでも、実装の過程でどこかで違う技術体系があるのだろう。そういうのがシンセサイザーの音とかスタジオ機材とかに出てくるのかもしれない。ノリが良いデジタル音頭(ロシア編)。お、コールアンドレスポンス。

9 Во Светлице ★★★★☆

ゆるやかなボーカルからスタート、スロウブルースというかクラシックハードロック的なギターリフが入ってくる。曲構成としてはややデザートロック感もあるが、女性コーラスが湿り気があるので乾いた感じはない。でもこれはストーナー的だな、酩酊感がある。適度な電子音が入ってくるのもスペーシー。このあたりのミックス感覚が独特でいい味を出している。

10 На Крыле ★★★★

シンプルなビート、音響的なギターの上でコーラスが展開する。アカペラではないけれどボーカル主導の曲。バッキングはアンビエント的。ややチルい感じ。

11 Ходуном ★★★★★

揺らめくような、小人たちのささやき声のようなコーラスが立ち上がってくる。だんだんと話し声が大きくなりアジテーションというかシュプレヒコールのようになる。そこから軽快な男女ボーカルの掛け合いに、寸劇的。ギターソロが入り、ファンクというかじゃがたらのような「黒人では(でき)ないファンク」に。満足感のある終幕。


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