Blue Oyster Cult / The Symbol Remains
USハードロック、メタルレジェンドBOCの2020年大復活作、ブランクを感じさせない、いやむしろクリエイティビティの大幅な向上を感じる素晴らしい作品でした。イタリアの誇るメロハーの殿堂フロンティアレコードからのリリースで、適度にメロハー感が追加されたのもプラスに働いています。もちろん、昔から(たとえばBurning for Youとか)メロディアスな側面があったバンドなので付け焼刃感はなく、ポップな曲はその方向に振り切ることで曲調のバラエティが豊富になり、各曲のキャラクターが立っています。フロンティア感が加えられた曲をどうぞ。分厚いコーラスがサビを支えています。(メンバーの中では)若手のギターRichie Castellanoがボーカルを担当した曲。
BOCについて詳しくはこちらの記事もどうぞ。
2020年リリース
★ つまらない
★★ 可もなく不可もなく
★★★ 悪くない
★★★★ 好き
★★★★★ 年間ベスト候補
1.That was Me
勢いのあるリフからスタート、若々しい
Space Truckin'を勢いよくしたようなリフ
歌メロはBOCらしく、少し抒情性がある
このバンドはいろいろな表情があって、アンダーグラウンドな攻撃性(初期)や
シンプルなロックンロール、冷めたポップ(死神など)があるが、ロックンロール色が強い曲
間奏の後のキメがこのバンドらしさが出ている
ロートル感がないいいオープニング
★★★★
2.Box in My Head
軽快なアップテンポなナンバー、少しアップテンポながら落ち着いた理性を感じるこのバンドらしい歌メロ
醒めた高揚感というか、クールな感じ
ボーカルにはさすがにやや年齢を感じるが、そもそも熱唱型でもないので許容範囲
ドゥワップ的ハーモニーが入ってくる
ちょっと夏の感じ、Ain't Summer of Loveだったか、夏をテーマにした曲があったな
ドライブで聴いたら気持ちよさそう、少し枯れた味わいはあるけれど軽快さを失っていない
そのバランスがかえって郷愁を誘う
★★★★☆
3.Tainted Blood
メロディアスなギターリフ、抒情的なフレーズ
ここまでメロディがどの曲も素晴らしい
メイデンと同じサンクチュアリがマネジメントだったはず
あと、今回のアルバムのリリースはメロハーの総本山の一つ、フロンティアレコードからようだ
確かにこのバンドらしさにメロハーらしさが加わっている
編曲や作曲面でフロンティアレコードの人脈も活かしたのだろう
この曲は過去のBOCにはない抒情性とポップさがあるが、もともとこういう要素は持っていたから付け焼刃感はない
ツボを押さえたフレージング、歌メロ
★★★★☆
4.Nightmare Epiphany
ロックンロールピアノ、生々しいドラム
ニューヨーク感のある少しジャジーな空気感もあるロックンロールサウンド
途中の歌メロはBOC的、少しDon't Fear The Reaper=死神を連想させるコーラス
過去のレガシーを活かしながら娯楽性を増してコンパクトに楽曲をまとめている
ところどころテケテケ的なエレキサウンドが入る、クルアンビンはじめ、こういう音がリバイバルしているのだろうか
リズムや曲調だけで歌い方や歌メロは共通点は少ないが、ビリージョエル的でもある
70年代、80年代、90年代、00年代、10年代の流れを踏まえた曲で音楽の流行サイクルとこのバンドのキャリアを感じる
昨年のナザレスの新譜もフレッシュで驚いたが、こちらはフレッシュな上に楽曲の完成度が高い
★★★★☆
5.Edge of the World
どこか懐かしいというか、王道感のあるメロディ
初めて聞くのに耳馴染みが良い、「何かの曲っぽい」というわけではないのだが
少しスレイブスアンドマスターズ期のDPっぽさがある
何年ぶりのアルバムだっただろうか、10年以上ぶりだった気がする
それだけ寝かしただけの完成度がある
このポップさはフロンティアレコードらしいと言えば「らしい」のかもしれない
★★★★
6.The Machine
iphoneの呼び出し音からスタート
マシーン、というのはスマホのことか、あるいは日常にあふれる様々な機械のことか
ハードドライビンなギターリフ、70年代ハードロック的だがギターソロの軽快さは80年代的か
プロダクションはそれなりにゴージャスだが過剰なリバーブや電子音はなくイマドキっぽい生々しさもある
ZZ Topあたりのノリの良さがある、あそこまでリズムがタイトではないが
もっとメロディが主張している
これもドライブ、バイクで走る感じか
50代、60代のハーレー乗りを思い浮かべる、老いてなおバイクを走らせ続ける
若い時とはまた違うかっこよさと、脂の抜けた軽快さがある
★★★★
7.Train True(Lennie's Song)
ロックンロール色が強いハードロック
70年代ハードロック、ブルースハープも入る
途中からアップテンポに、ブルーグラス的なリズム
リズム展開があるがアメリカンルーツミュージックに忠実、ジルバか
曲作りや歌メロに無理がない、その分緊張感にはやや欠けるが曲は工夫が凝らされていて娯楽性が高い
平温のままで圧があがっていく、というのがこのバンドの特長の一つ、クールさというところ
その気質をうまく保っている、「冷たい狂気」とも表現されたが、狂気までは感じないが「冷たい熱狂」というところか
音楽をしっかりコントロールしている感が強い
★★★★
8.The Return of St. Cecilia
ハードロックなギターからスタート、ジョンロード的なハモンドオルガンの音
とはいえパープルっぽさはあまり感じない、70年代のアメリカンハードロックか
リフやリズムの絡み合い、パートの展開が上手い
刻みはハイウェイスター的だがボーカルの感じがもっとアーシー
最初のころ感じていたボーカルの年齢はあまり感じなくなってきた
歌い方、言葉の紡ぎ方がカッコいい
★★★★☆
9.Stand and Fight
ベースが主導してスタート、ちょっとドゥームっぽい感じ
ギターも心なしかヘヴィ
呪術的な曲、こういう曲もこのバンドの持ち味だった
それほどヘヴィなわけではなく、目新しさはないが陳腐さやこけおどし感がなくダークでホラーな感じを受ける
スーパーヘヴィでシリアスなバンドと違い、どこか見世物小屋的な怖さと楽しさ
そのあたりはオリジネイターの凄味なのだろう
何しろサバスと並びヘヴィメタルの始祖と言われるバンドの一つなのだ
★★★★☆
10.Florida Man
少し死神を思わせるアルペジオからブルージーな歌メロ
カントリーか、ルーツミュージック的でアコースティックな音
なんなのだろう、ギターソロのフレージングや音がとにかく心地よい
60年代、70年代の魔術、ジムモリソンのドアーズとか、ああいう雰囲気がある
もちろん魔術はもう解けてしまっているし、プロダクションはもっとクリアなのだけれど
残滓を感じるというか、音楽の美しさがある
★★★★☆
11.The Alchemist
まさかのヘヴィなリフ、前曲から落差が強い
少しサタニックで演劇的なボーカル、装飾音のピアノ
シアトリカルでドラマティックな曲
しかしここまで平温できたのにかなりドラマティックでライブ的、音に緊迫感がある
間奏ではまさかの疾走感あるツインリード、別バンドじゃないだろうか
いや、もちろんBOCらしさは十分あるし、他のバンドにはない個性があるのだけれど
ここまで勢いと緊迫感を出せるとはうれしい誤算
中盤、軽快さと枯れた感じを出していたのはタメだったのか
★★★★★
12.Secret Road
落ち着きを取り戻しクールなテンポに
まだ演奏はやや熱を帯びているように感じるのは気のせいか、心持ちベースが強くなったような気もする
余韻が残るような、ゆらめく炎のようなメロディ
熱は感じるが熱さはない、アンノウンオリジンあたりの時代の雰囲気を感じる
ギターリフというか、バッキングと絡み合うアルペジオの味わいが深い
サビの「Secret Road~♪」がそのまま同じ音程で消えていくあたりが余韻というか、このバンドらしいメロディ
バンドアンサンブルとコーラス、ボーカルのハーモニーの作り方が上手い
★★★★
13.There's a Crime
少しガレージっぽい、パンキッシュなロックンロール
やや音が引っ込んだ、プロダクションの熱は冷えた感じがする
ドラムの手数は多く、すべての楽器隊、ボーカルにも若々しさはある
ギターの速弾きからソロへ、ギターはけっこう速いフレーズもあるがテクニカルな感じより曲に溶け込んだ感じが強い
途中でベースが歩き出す、リズムを刻む、ダックウォーク
ライブハウス感、アングラ感がある、地下室感というべきか
★★★★
14.Fight
雰囲気ががらりと変わってギターのアルペジオ的な反復フレーズからスタート
印象的な歌メロ、透明感のあるメロディ
少し言葉の詰め込み方にThin Lizzy的な感じもある
アルペジオというか、ギターのフレージングにはオリジナリティを感じる
歌メロが本当にThin Lizzyっぽいな、いい曲ではある
★★★★
全体評価
★★★★☆
BOCらしさを活かしながらも今のプロダクションで仕上げた良作
というか、BOCのベスト盤に劣らない楽曲の出来
Reaperクラスの突出した名曲はなかったが、別の側面の魅力を十分打ち出している
新規性という点ではやや弱いが、今のこのバンドでなければ作れない音楽だと思う
半世紀にわたるキャリアを俯瞰して総括しつつも新しい要素を入れた意欲作
サバスの「13」に並ぶ、このバンドならではの名盤
歴史的名盤と呼ばれるかどうかはさておき、多くの人の愛聴盤にはなるだろう
よくこのアルバムを出してくれた
リスニング環境
夜・家・スピーカー