見出し画像

Anneke van Giersbergen / The Darkest Skies Are The Brightest

Anneke van Giersbergen(アネク・ヴァン・ギアスベルゲン)は1973年生まれのオランダのシンガーソングライターです。1994年にオランダのゴシックメタルバンド「TheGathering」のリードシンガーソングライターとして世界的に知られるようになりました。Arjen Anthony Lucassen(エイルオン)のパートナーとしても知られており、彼のアルバム(長尺のコンセプトアルバムが多い)で何度か主役(リードシンガー)も務めています。プログ・メタル界の人ですね。2012年からソロ活動を行っており、本作はソロ名義での4作目、アコースティック主体の音像ながらいわゆる「ペイガンフォーク」とは違い、ゴシック、プログレ的な曲構成を持ちながらアコースティック、といった趣です。古くはルネッサンスや、ラナ・レーンあたりにも近いかな。歌唱力、作曲能力は折り紙付きで、プログレ、ゴシック界隈の客演も多い。先日、レバノン特集で取り上げたAmadeus Awadのソロアルバムにも参加しています。

本作はそんな彼女のスキルが遺憾なく発揮された佳作です。後半やや息切れしますが、前半の流れは見事。1曲ぐらいインスト部分が充実した長尺曲があればなぁ、という印象。インサイドアウトからのリリースで、インサイドアウトらしいダークな抒情性とややひねりのある編曲が楽しめます。

2021リリース

★ つまらない
★★ 可もなく不可もなく
★★★ 悪くない
★★★★ 好き
★★★★★ 年間ベスト候補

1 Agape 4:10
アルペジオとハミングからスタート、美しいメロディ
ハープのようにも聞こえる静謐なアルペジオ
1番のヴァースが終わり弦楽器が入ってくる
やや遅れてリズムも入ってくる、フォークミュージック的な穏やかな音像
ただ、緊迫感と悲哀はある、伸びがあって美しい声
音のバランスが良い、歌メロ自体はシンフォニックメタル的
★★★★☆

2 Hurricane 3:58
蠢くような、足を踏み鳴らし、手を叩くややトライバルなリズム
暗黒性はそこまで強くない、力強さがある、ボーカルはささやくような声
リズムが途中から強くなる、ハーモニーが入る、ギターの代わりが声、といった構成
「新しい民族音楽」といった試み
ただ、本当のワールドミュージック、伝統音楽に比べるとやはりゴシックメタル、シンフォニックメタル的な歌メロ
完全に音像はアコースティックながら、メタル的な構築美がある
★★★★

3 My Promise 4:28
民俗的なメロディ、この人はどこの人だったけなぁ、オランダかな
レバノンのプログレアーティストの作品にも参加していた気がする
そういう中東的なメロディ感も、この曲の楽器隊にはある
良い音楽の手触り、心地よいがBGMではなく、引っ掛かりが強い
震えるような高まりからボーカルだけが残り、弦楽器が立ち上がってまた歌メロへ
これは面白いな、作曲手法やメロディ、語法(ブレイクの仕方とか)は完全にメタルの知見
それをアコースティック楽器で置き換えている
★★★★☆

4 I Saw A Car 3:39
ザッザッとした行進的な、足を踏み鳴らすリズム
曲は「車を見た」という歌いだし
何だろうこれ、戦車だろうか、どこか緊迫感と哀切さがある
マイケルジャクソンにこういう曲合ったなぁ、HIStoryにはいった新曲で
ヴァースだけリズミカルで、ブリッジからコーラスはメロディアスに舞い踊る
緊迫感が高いブラックモアズナイトというか、ルネサンスというか
音数で空間を埋める感じではなく、シンプルで隙間もあるのだが編曲自体は凝っている
さまざまな音やメロディが絡み合っている
リフもしっかりある、ギターリフ
★★★★☆

5 The Soul Knows 3:53
落ち着いた、穏やかな音像で始まる曲
どの曲もシンプルながらビートが利いている、このビートが利いている感じがいいんだな
歪みはほとんど音の成分にない
ただ、漂白された感じもない、演奏されているアコースティック楽器にはどこか土臭さがある
ボーカルも洗練されているものの引っ掛かりがある
途中からメロディが展開する、言葉数が早くなり、自由にコードの中を踊る
ふたたび着地してコーラスが続く
これは音楽の楽しみが伝わるいい作品だなぁ
ポップスファンにもメタルファンにも訴求できる気がする
★★★★☆

6 The End 4:20
静かなアルペジオからボーカルが入ってくる
羽ばたくような、囀るようなボーカル
ビートがなくなった、この曲はバラードで静かに進んでいく
アルバムの中間か、美しい、光が差し込むような感覚が強い曲
祈りのような、泡のように浮かんでは消えるメロディ
ただ、儚さよりは力強さ、土着感がある
土臭さといってもアメリカ的なフォーク、ブルースではなくヨーロピアン
バイオリンの響きが美しい
★★★☆

7 Keep It Simple 3:57
アコースティックギターの絡み合いから、つま弾くアルペジオ
ややリズムは跳ねていて、親指ピアノのようだ
アコースティックギターとボーカルの絡み合いに、何かを叩くような、カホンのような響き
木箱を叩いているのかな、バイキング、船乗り的、波のリズム
★★★★

8 Lo And Behold 2:51
歩くようなリズム、けっこうビートが利いている
押しては引く、プログレ的な音像
そういえばこれインサイドアウトからのリリースだったかな
最近のプログレを踏まえた音像
全体的な音数は少なくシンプル
装飾音はけっこう入ってくるが、アコースティックセット的
歌メロがしっかり展開する、ヴァース、コーラス、展開するブリッジ、ヴァース、といったように
メロディが凝っている
ただ、アレンジがやや単調に思えてきたか、どの曲も表情はある程度似ている
アルバムを通して浸れる、という点では良質だが、もうちょっと歪みというか引っ掛かりがあってもいいかも
一定の緊迫感、テンションはあるが、緩急や盛り上がりは少ない
★★★☆

9 Losing You 3:41
ギターとボーカル、弾き語り的、バラード
途中から軽いリズムが入ってくる、シンプルなセット
コーラスも入る、メロディが上昇していく
★★★☆

10 Survive 3:47
リズムが強い曲、ダンサブルな感じ(あくまでアコースティックだが)
高揚感がある、ところどころフラメンコ的な隠し味もある
シンプルながら力強い、もう少し盛り上がりがドラマティックだと尚よい
★★★★☆

11 Love You Like I Love You 3:13
穏やかな音像、アルペジオと歌声
★★★

全体評価
★★★★
良質なメロディと演奏が詰まった佳作
どの曲も心地よいし、好きな感じ
アコースティックでシンプルな構成ながら決して退屈なわけではなく、音の密度もそこそこ高い
とはいえちょっとリラックスムードというか、「耳を奪われる盛り上がり」がないので
どこかにそういうパートがあればもっと良かった。
音の密度が均質で、ずっと心地よく聞いていられる感じ
夜、リラックスしたい時に流すにはとても合いそうな一枚

ヒアリング環境
夜・家・ヘッドホン

いいなと思ったら応援しよう!