見出し画像

black midi / Cavalcade

1曲目、最初のイントロで「かっこいい!」と思えたらそのままの完成度で最後まで突っ走る良盤。勢いだけでなく抒情性もあります。2017年デビューの若手バンドで、Black Midiというバンド名は日本発のジャンル名。大量の音符で人間には弾けそうにない曲群のことを指します。Black Midiの例(このバンドの音源ではなく、音楽ジャンルの例です)。「ブラック MIDI」という用語は、各曲に非常に多くの音符があるため、従来の楽譜ではスコアがほぼ黒に見える (または本当に黒に見える) ことに由来しています。

こうしたジャンルからバンド名を取ったそう。デビュー作は全英アルバムチャートの50位に入り、2019年のマーキュリープライズにもノミネートされました(受賞はできず)。UKロック新世代を感じるバンド。

出身国:UK
ジャンル:Experimental rock、math rock、progressive rock、noise rock、post-punk
活動期間:2017-現在
メンバー:
 Geordie Greep – vocals, guitar
 Matt Kwasniewski-Kelvin – vocals, guitar (活動休止中)
 Cameron Picton – vocals, bass, synths, samples
 Morgan Simpson – drums

画像1

1.John L 05:13 ★★★★☆

オルガンとギター音、EL&Pを思い出させるような、70年代プログレ的な生々しい混沌の音。ボーカルが入ってくる、やや自由で語るような声。NYのバンド、TV on The Radioも思い出すな、いろいろな音楽を取り混ぜながら全体としてはややファンキーで跳ねるようなロック音楽。混沌をリフにして、生演奏ながらサンプリングのように反復し、その上にスポークンワード的なボーカルが乗る。ヒップホップほど韻を踏んでいない。スポークンワードやスピーチ的。演奏は反復が主体。ちょっとCANを思い出す。ベースはけっこうブリブリしていてファンクメタル(初期のレッチリとか)感もある。少しづつテンポが速まったり、ズレたり、リズムの遊びがある。これは奇想天外なおもちゃ箱感。後半、高速のギターフレーズが反復される箇所は90年代以降のKing Crimson感もある。これは確かにプログレだ。音楽手法としても精神性としても。


2.Marlene Dietrich 02:53 ★★★★

急に落ち着いた音像に、アコースティックな音像の上で歌い上げるボーカル。やけに朗々とした歌い方、いかにもUK的なメロディ。途中から音が重なってきて、だんだんと音の輪郭が丸くなっていく、リバーブがかかって夢見がちな、ドリームポップ的な音像に変わっていく。1曲目の熱を冷ますような小曲。

3.Chondromalacia Patella 04:49 ★★★★☆

ギターのカッティングから、またリズムの分解と実験的な曲。ギターのカッティングとドラムの音、ベースの音、軋むような悲鳴のようなSE。さまざまな音が重なってリズムが変わるが一つ一つは人の手で出している、Phishのような、ジャムバンド的な音の温かみもある。まぁ、あれはアメリカのバンドなので違う湿り気があるけれど。けっこうファンキーなリズム、ただ、UK的なファンクで、Talking Heads的な、やや小刻みで理性的なファンク。歌メロというよりフレーズ単位で耳に残る。反復とズレ、ポリリズムの快楽性を追求していく。ボーカルはやはりスピーチ的。


4.Slow 05:37 ★★★★

雰囲気が変わり、もう少し全体がまとまった感覚が出てくる。細かいパーツの反復というよりはもう少し長尺のメロディや展開。だけれど、それらも細かく分割されてポリリズムを作っている。アヴァンギャルドだがジャズ感は少なく、ロックの範疇。一定のグルーヴが維持されている。ノリそのものが大きく変わることは無い。タイト、あるいは心持前ノリでロックのリズム。2020年代でも刺激を感じるやや性急なテンポ。この辺りの勢い、娯楽性、肉体性がロックとしての輪郭を作っている。頭でっかちではなく、肉体に響いてくる音楽。この曲はボーカルが控えめ。ずっとつぶやき気味というか、メロディアスなアンビエントとしての役に徹している。少しづつ熱を帯びていって終曲。


5.Diamond Stuff 06:20 ★★★☆

琴? ハープ? のような音。つま弾いている。静かな音色で、少な目の音数がゆるやかに展開していく。音に余白は大きいが張り詰めた緊迫感はある。つぶやくようなボーカル。こうしてスロウになると、どういう音を次に置くのか、研ぎ澄まされた感覚が伝わる。先の展開が予測できる反復もあるが(反復は基本4回繰り返しで一単位、とか)、予想を外す和音や展開も多い。音数が増えてきた、ドラムはジャズ・ロック的に。

6.Dethroned 05:02 ★★★★☆

管楽器、サックスかな。からのジャジーなドラムロール。反復するベースフレーズ。2曲目と同じく朗々と歌うボーカル。これ、複数人がリードボーカルを取るのかな。メンバーもVocalsとしかないし、複数の声質が出てくる。分散リズム。複雑ながら聞いた感じはただカッコいい。だんだんと熱量が上がっていく作り。ベースのグルーブとフレーズがかっこいいんだな。ベースリフとドラムが曲の土台を作る。その上を飛び回るギターとボーカル。後半は混沌へ。つぶれた音の塊が次々と落ちてくる。

7.Hogwash and Balderdash 02:32 ★★★★

カラカラと、金属を引っ張るような、あるいはインドネシアのガムランのような。慌ただしくシーンが変わっていく。反復するバンドアンサンブルに急を告げるような、緊迫感のあるスピーチ。現代化されて迫力を増したFrank Zappaという趣の曲。ベースがかなりブリブリ言っている。オケヒットも出てくる。大仰。

8.Ascending Forth 09:53 ★★★★☆

アコースティックギターのアルペジオ反復、静かに歌うボーカル。弾き語り的な音像。コード進行やメロディはややクラシカルで上品。約2分間そのパートが続き、ベースが入ってくる。ミュージカル、演劇、オペラ的な展開(曲調はオペラティックだが歌い方は大衆歌劇)。その展開に合わせてベース、ドラムが入ってきてダイナミズムを補強する。かなりじわじわと展開する。最後の長尺曲だからめくるめく展開かと思ったらむしろじっくりと展開していく楽曲。曲名は「前方へ上昇する」。確かに、そういった感覚のある音像だが、速度は遅めで雄大。UKジャズ、マイク・ウェストブルックの「Metropolis」辺りのじっくりとした展開も感じる。むやみとシーンを変えるのではなく一つのシーン、長尺のドラマを組み立てていく。曲の終わり方も洒落ている。大団円。

総合評価 ★★★★☆

面白い、さまざまな音楽を混交しているが、全体としてこのバンドならではの語法が確立されているようにも思う。大きく言えば2つ。比較的短めで耳に残るフレーズの反復(ベースラインかギターがそれを担う)、そこにジャズ・ロック的なドラムパターンを組み合わせ、それぞれの反復サイクルを少しずらすことで生み出される緊迫感、音像はややファンキーで例えばTalking Heads的。1や3や7。もう一つはミュージカル、クラシカルな雰囲気を持った朗々と歌い上げるボーカル曲で、そこにプログレやUKジャズ的な「ジワジワと盛り上げる手法」が入ってくる。2や5や8。あとはそれを1曲の中で組み合わせる手法。4と6。このバンドならではの個性であり、プログレバンドたちがそれぞれ自分なりのサウンドを生み出していった(プログレとはジャンルではなく、一定の手法ではあるものの本質的には精神性であり、「新しい音像=自分たちなりの新奇なシグネチャーサウンド」を持ちえた、発明し続けたバンド群の総称だと思っている)ことを思い出す。いろいろな音像を組み合わせる、奇妙な音像を作り上げるバンドはそこそこいるが、その中では完成度が高い。個人的にはもうちょっと破綻してくれた方が好みではあるが。

ふと、以前レビューしたSchizoid Lloydを思い出した。一般知名度をほとんど得られなかったようだが(活動が安定しなかった?)、突然変異的な奇妙さと独自語法の完成度という点では通じるものがある。ただ、Schizoid Lloydはもっとロック寄りでリズムが跳ねていない。後、もうちょっと雑食性が激烈寄り(もっとギターも歪んでいるし、メタル的な音像も出てくる)。リズムに跳ねている感じがあるのがblack midiの特長か。やはりグルーヴは大事。black midiの方が娯楽度が高く普遍性を感じる。


いいなと思ったら応援しよう!