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ちょこっと木版画の中へ『赤とんぼ』

暑かった夏が過ぎ、秋になったけれど仕事中は半袖の時もある11月の東京都下です。
ちなみに東京都下と聞いてどの辺りだと思いますか?
先日、偶然ネットで昭和世代でないと知らない!?ような書き込みを読んだのですが…

東京都下とは東京都心の23区を除いた地域のことを指す呼び名です。
私が住んでいる所も山あり川あり緑がいっぱいの東京都下です。
さらに木版画の工房ではせせらぎも聞こえてきます。
たまにサワガニさん🦀が部屋で動かなくなっている時も…

そんな東京都下からお届けする本日の木版画は秋らしく『赤とんぼ』

1年くらい前につぶやきで数枚の順序摺りを載せていたのですが、そのままになっていたので一気にお見せしたいと思います。

お時間よろしければ少しだけ、B5サイズよりひとまわり小さいサイズの木版画の世界へ一緒に行きませんか?
もし昆虫が苦手だったら…
凝視しないことをおすすめします。

ではどうぞ秋のひとときを一緒にお過ごし下さいませ。

本日の題名は

『赤とんぼ』
絵師 喜多川歌麿



題名の赤とんぼ、よく見てみると木版画の中にある書にも記されているのがわかります。

題名、見つかりましたか?
漢字で「赤蜻蛉」


濃すぎない墨を使った絵と輪郭と書、そこにはとんぼが竹垣に止まっています。そして緑色で縁取られた草花がひっそりと描かれています。

いち早く竹垣に色を入れたあとは、やはり主人公のとんぼに色を入れてあげましょう♪

赤を摺ってみると…

とんぼの体に赤が入ると、まさに『赤とんぼ』ですね(笑)

方向けて見ると
自分の方に飛んできそうです

竹垣の側にある草花もそのままでは味気ないので…

緑を入れてみました

縁取りと同じ色を水で薄めて摺っています。
では、とんぼの羽にも色を加えてみますね。

薄いので変化がちょっと
分かりづらいかも…

薄〜い墨で羽の透明感を、そして胴体の赤にも模様が付きました。
とんぼさん、段々と生きてきましたか?

ではもう少し手を加えてみますね。羽に更に色を重ねます。
薄くですよ、薄〜く。

スクロールして違いを見てみて下さい

うっすらと青を重ねてみました。
とんぼの羽らしくなりましたか?

せっかくなので背景にも色を入れてみたいと思います。

背景の色と竹垣の色は濃さが違うだけで、同じ絵の具を使っています。
更に同じ絵の具を使って背景の下に「ぼかし」グラデーションを重ねて摺りたいと思います。


うっすらとした「ぼかし」

背景が入ると秋らしく見えますか?

では!ここからは鉱物を使って摺りたいと思います。
まずは銀雲母。名前の通り銀色です。摺る場所はわかりますか?

とんぼで銀といったら…

羽の部分に銀雲母を乗せます

はい!羽ですね♪
先に薄い墨と薄い青を重ねて摺っているので、ブルーグレーのキラキラする羽を見ることが出来ます。

この銀雲母を扱う時にはマスクは必需品。かなり細かいので吸い込み防止が必要です。
そして、ただ筆で乗せてもくっつかないので「のり」の役目をする「膠(にかわ)」を先に摺っておきます。
ちょっと手のかかる作業だけど…
美しくなるから頑張ろう!
おまけにもっと美しくする為に砂子(すなご)も重ねます。砂子とは金箔を細かくしたものです✨

どこに重ねるか?
羽ではないので安心して下さいね。背景にハラハラと加えてみますね。
金箔をくっつける為に先に膠を摺ってから、ハラハラハラ〜っと撒きます。

砂子キラキラ
銀雲母の羽とキラキラとした金箔


では!ここからは版元の木版館の英語サイトでの紹介文(翻訳)からより詳しく紹介したいと思います。
原文の英語は和訳の後に載せてあります。

ちょっと長いのですが…

この版画は、歌麿が1788年から1790年にかけて制作した狂歌と自然の風景を組み合わせた挿絵入りの3巻のうちの最初のものです。最初の本のテーマは昆虫、2冊目は貝殻、3冊目は鳥類です。これらの本は非常に珍しく、もちろん小さくて繊細な本を適切に展示するのは困難なので、彼の最高傑作のいくつかはこのように隠され、一般の人々に知られていません。この版画の背景は砂金(砕いた金箔)で飾られ、トンボの羽に​​は雲母(粉末雲母)が使用されています。それは本当に美しい効果を生み出します。最初の試し刷りを見たとき、トンボがページから飛び立ちそうになるほど、とてもリアルに見えました。この種の「きらきらした」ものを使いすぎることには複雑な気持ちがあります。それは版画を「安っぽく」見せてしまう傾向があると思います。 しかし、古い摺物版画の多くは、金、銀、真鍮、銅などの金属粉を使用しており、それは単に慎重さの問題であるように思われます。やりすぎではなく、適切な場所に適切なタッチが適切であるだけです...。元の本では、各昆虫に詩が対になって描かれており、この版画の昆虫の1つは、歌麿と深い関係のある詩人、明良寛子によるもので、彼の詩は他の2冊の自然本にも収録されています。「赤とんぼ」(赤トンボ)と題されたこの恋の詩は、声のないトンボのように自分の愛を表現することができない「恋煩い」の作家との比較をしているようです。江戸時代中期にこのシリーズの本を最初に購入した人たちは、もちろんそのような詩の愛好家であり、言葉と絵を同等に重要視していたでしょう。 しかし、異なる文化の中で暮らす私たちにとって、詩の中の微妙なニュアンスや言及のほとんどは時が経つにつれて消えていき、詩は単なる視覚的なオブジェクト、つまり全体のイメージそのものの一部となるのです。

引用「木版館」

This print is from the first of three illustratedrnvolumes combining kyoka poetry and scenes from nature that Utamarornproduced in the period from 1788 to 1790. Insects are the theme ofrnthe first book, sea-shells are featured in the second, and bird lifernin the third. These books are exceedingly rare, and of course a smallrnand delicate book is a difficult thing to exhibit properly, so somernof his finest work thus remains hidden from view and unknown to therngeneral public. The background of this print is embellished with scattered sunagorn(crushed gold leaf), and ummo (powdered mica) is used onrnthe wings of the dragonfly. It really makes a beautiful effect; whenrnI saw the first proof print I almost expected him to fly off thernpage, he looked so realistic! I have mixed feelings about using toornmuch of this sort of 'glittery' stuff; it can tend to make the printrnlook 'cheap' I think. But many of the old surimono prints usedrnpowdered metals such as gold, silver, brass, or copper, and it seemsrnthat it is simply a matter of discretion - not too much, but just thernright touch in the right place ... Each insect in the original book is paired with a poem, and thernone on this print is by Akera Kanko, a poet with a strong connectionrnwith Utamaro; his poems are also included in the two other naturernbooks. Entitled 'Red Dragonfly' (Aka Tombo) it is a lovernpoem that seems to be drawing a comparison between the 'lovesick'rnwriter, who, like the dragonfly without a voice, is unable to expressrnhis love. The original purchasers of the books in this series back inrnthe mid-Edo era were of course connoisseurs of such poetry, and wouldrnsee the words and images as being of equal importance. For us though,rnliving in a different culture, one in which most of the subtlernnuances and references in the poetry have faded away with the passingrnof time, the poem becomes simply a visual object, part of the overallrnimage itself.rn

cited from 「Mokuhankan」


みなさま長文にお付き合いいただきましてありがとうございます。
お疲れさまでした。

ひととき木版画の世界への旅はいかがでしたか?
ほんの少しですが江戸時代を感じていただけたら幸いです。


秋も深まり寒くなるこの時期です。
お風邪をひかないように、どうぞ暖かくお過ごし下さいませ。


2024/11/1 fri


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