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連載小説《Nagaki code》第12話─照内千里という男
前話はこちらから↓
「長岐くーん」
「はい」
「申し訳ないけど、コーヒー入れてもらってもいい? 今ちょっと手が離せないんだ」
これからどこかへ電話をかけるのだろう。照内さんは受話器を持ってダイヤルを押しながらそう言った。
「わかりました」
僕は区分けの作業を一旦中断し、給湯室へ向かうため作業場を後にした。
作業場のドアを後ろ手で閉めると、僕は小さく身体を震わせた。もう4月になるというのに、給湯室に続く廊下はひんやりと寒い。
彼が照内千里(てるうち せんり)さん。32歳の職場責任者。トレードマークは黒縁眼鏡。眼鏡が黒なら、髪も、乗っている車も黒。黒がとことん似合う男性だ。でも持っている携帯電話は白だし、コーヒーはブラックが嫌い。僕より頭1個分くらい背が低く、小柄で華奢なのに、戦いとなるととても強い。
去年のあの冬の日、照内さんは僕のリュックをひったくった男に向かって強烈な蹴りをかました。僕は驚いてしまって、しばらく唖然としていた。
「あの時はびっくりした?」
初出勤してきた僕への、照内さんの第一声がそれだった。僕がためらいがちに「……はい」と答えると、照内さんは「やっぱりね」と笑った。
「職場のみんなにもよく言われるよ。『ギャップが激しすぎる』ってさ」
「はぁ……」
その時は、何と返したらいいかわからなかった。
それと、照内さんはとても呑気な人だ。照内さんが僕を助けてくれた時もそう。蹴り倒した相手に向かって「これはお前宛ての郵便物じゃない」なんて、間の抜けた声で言ってのけた。あと、車で配達に行けばどこかに停車させて居眠りしているし。
そう言えば、勤務2日目。職場の人に言われて、配達から帰ってこない照内さんを探しに行くと、薬師岱公園の隅の駐車場に郵便車が停まっていた。まさかと思ってそーっと中を覗くと、僕は、見てしまった。窮屈な運転席に座ったまま、上を向き、腕組みをして爆睡している照内さんを……
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