連載小説《Nagaki code》第19話─桜の木の下での追憶
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ライトアップされた夜桜の下、花見は楽しく進む。僕はワンカップを飲み終え、2つ目のワンカップに手を伸ばした。
その時。
(ん、誰だ……?)
僕らが座っている所から石段を上がった所にある、開けたスペース。そこは神社になっていて、桜の木も並んでいる。そこに、人影を見た。遠目からだからよくわからないけど、髪が長い。女の人か。
「長岐君も見つけちゃった?」
突然、隣の椿さんが耳元で囁いた。
「へっ?」
僕は突然の囁きに驚き、椿さんの方を向いた。
「あっちの人影よ」
椿さんは、さっき僕が見ていた方向を指差す。
「あの人、私の知ってる人に似てるの」
「知ってる人?」
「ちょっとついてきて!」
椿さんは僕の右腕を取ると靴を履いた。「どうしたの?」と首を傾げ尋ねてくる清家さんに、「ちょっと酔い醒ましに散歩してくる!」と返す椿さん。憧れの人に腕を取られドギマギしている僕の心など露知らず、椿さんはそのまま僕の腕を引いて、人影の見える神社前に続く石段を登り始めた。
「晃乃っ」
石段を登った所にある神社の前の、大きな桜の木。その下にいたのは、ウェイヴがかった長い黒髪の、眼鏡をかけた女の人。おっとりとした雰囲気のあるその人は桜の木を見上げている。椿さんが発したその名前は、この女の人のものだと察した。
「あ……恵理紗」
女の人──晃乃さんはこちらに気づき、振り向く。
「そちらの方は?」
「この子は長岐洋介君。郵便事業局の新入社員よ」
「こ、こんばんは」
椿さんに紹介され、僕は慌ててお辞儀をする。「こんばんは」と晃乃さんが微笑んだ。
「私達、会社のみんなで夜のお花見中。貴女もお花見?」
「あはは、簡単に言えばそうかな」
そう言って晃乃さんは笑う。どこか憂いを帯びた笑み。
「お姉ちゃんに会いに来たの」
「お姉ちゃん、って……」
椿さんがハッとした表情になる。
「この8年間、春にはいつもここに来るの。そうすると、お姉ちゃんに会えると思って。もう、私、お姉ちゃんと同じ歳になっちゃったよ」
「晃乃、貴女……」
「ここに来れば、お姉ちゃんがそばにいてくれるような気がして、ホッとするの」
晃乃さんは再び桜の木を見上げる。それと同時に、夜風が桜の花びらを揺らした。