連載小説《Nagaki code》第7話─始まりの扉が開く
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12月25日、午後2時45分。大粒の雪が降り続ける中、僕は薬師岱郵便事業局の玄関前に立っていた。
『年末年始のアルバイトだよ。年賀状をひたすら区分けするだけ』
あの郵便配達員……照内さんにそう言われ、渡された案内を見た。そこには、仕事の内容と応募の方法が書かれていた。
とりあえず、残り1枚になっていた机の上の履歴書を引っ張り出し、書き上げ、封をして、薬師岱郵便事業局の大元の会社、華執郵便事業局本部に郵送した。
結果は3日後に来た。採用だ。ただのアルバイトかもしれないけど、なんだか嬉しくなった。
20日には、華執郵便事業局本部で、事前講習会があった。郵便物を隠したり、捨てたり、勝手に封を開けたりなどしたら犯罪だよと言う説明があり、名前を呼ばれ、勤務表が渡される。
僕の配属先は薬師岱郵便事業局。そう、照内さんのいる所だ。他に僕と同じく働くバイトさんは何人かと思い、名前の書いてある所を見る。
「ん?」
すると、聞き覚えのある名前があった。
「かも……りょう、せい……?」
確かに、そこに書かれている僕の名前の下には『加茂綾聖』と書いてあった。
「あの子……」
無邪気な少年の顔が頭をよぎる。
この事前講習会は、午前は一般の人達、午後は高校生と分かれているので、彼に会う事は出来なかった。加茂君の名前の下に書かれていた『須川靖歩』と言う人は、加茂君と同じく高校生だろうか。この講習会では名前を呼ばれていなかったからきっとそうだ。女の子かな?
「えー、それではみなさん、12月25日からの勤務よろしくお願いします」
担当の人から挨拶があり、事前講習会は終わった。僕は、初めての郵便のアルバイトに、期待と不安を半分ずつ抱いていた。でも、照内さんという知っている人がいるから少し安心できたし、楽しみでもあった。
〒
(このインターホンを押せばいいのかな……?)
僕の人差し指は、インターホン付近で彷徨っていた。ちょっと震えてるのは、きっと寒さのせいだけではない。
「ああ、長岐君」
インターホンを押そうと前傾姿勢で指を差していた僕は、ビクッとして声の方に向いた。郵便の搬入口から照内さんが顔を出していた。
「あの、僕採用されたんですけど……」
「うん、聞いてるよ。今玄関の戸開けるから待ってて」
そう言うと照内さんは顔を引っ込めた。ちょっと待つと、照内さんが玄関の扉を開けた。
「ようこそ、薬師岱郵便事業局へ」
そして僕は照内さんの職場──薬師岱郵便事業局に足を踏み入れた。