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連載小説《Nagaki code》第9話─加茂少年との再会

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 職場の電話が鳴ったのは、アルバイト開始時刻の3時を過ぎた時だった。照内さんが電話を取る。
「……うん、うん。まず気をつけて来てください」
 そう言って電話を切る照内さん。
「もうひとりのバイトの子、遅れてくるみたい」
 照内さんは自分の机に戻りながら言った。もうひとりのバイトの子って、もしかして……

「はーい、もうひとりの高校生アルバイトですよー」
「加茂綾聖です! 遅れてすみません!」
 ……やっぱり加茂君だった。
「学校の補習の後、バスに乗り遅れちゃって……。やばいと思ってすぐ電話しました!」
「電話があったからよかった。心配したよ。でも、仕事をするにあたって、遅刻は厳禁だ。次からは気をつけるように」
 優しく、だけど確実に諭すように照内さんが言った。

「あっ、また会ったなにーちゃん!」
 加茂君は僕を見つけると声をかけてきた。
「初日からやっちまったよ、とほほ」
 頭を掻きながら、加茂君は舌を出した。
「ドンマイ。次、頑張ればいいよ」
 そんな言葉を加茂君にかける。ろくな慰めでもないのに、それでも加茂君は「ありがと、にーちゃん」と笑った。
 
 区分けの作業をしていると、時間の経つのは早かった。黙々と単純作業をしているのは、僕に向いていたようだ。わかりやすいし、すごく楽しい。はがきの住所を見ながら、住所ごとに分かれた棚に仕分けていく作業、机に座りながら、はがきに書かれた住所と相手の名前を見て、住所ごとに番号の振られたカードと照らし合わせ、その番号の振ってある台にはがきを分ける作業が楽しい。あっという間に終業時間。
「お疲れ様でした」
 僕と靖歩ちゃんは職場の人達に挨拶をして、職場を出て玄関に向かった。加茂君は遅れてきた分、残業をするらしい。
「結構、楽しい仕事でしたね」
 靖歩ちゃんが話しかけてきた。
「うん、そうだね」
「これなら、ズボラな私でも続けられそー」
 靖歩ちゃんは大きな伸びをした。
「あ、そうだ。あのさ……」
 『ネコ』の事を聞こうとした時、玄関の扉が開いた。
「ああ、アルバイトの子達だな? 今仕事終わりだべ?」
 そこには、雪をかぶったすごくかっこいい男の人が立っていた。郵便事業局の制服を着たその人は、美しい顔立ちに似つかず、言葉はきつく訛っていた。
「あ、オレは山崎朱実。『アケミ』だげど、女でねぇど」
 靴を脱ぎながら山崎さんが言った。
「楽しがったが? 仕事」
「はい、わかりやすいし楽しかったです」
 急に固まった靖歩ちゃんの代わりに僕が答えた。
「そっか、いがった。明日もよろしぐな」
 山崎さんは靴を履き替え、職場へ向かった。
「……長岐さん」
「ん?」
「私、この仕事頑張れそうです」
「あ、うん……」
 それは山崎さんがいるからだよね、とは敢えて言わなかった。

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