相沢沙呼『小説の神様』を読んで
小説を書いてみようと思い、少しづつアイデアを出し、プロットを書き始めている。そんな時、書店で「小説の神様」という文庫本(講談社タイガ)を見つけた。著者のことは知らなかった。
表紙はラノベ風で、教室での二人の男女の高校生たちの絵がきれいだ。中身をチラ見してみると、小説への取り組み方についての会話文が面白かった。全部読んでみたくなり、買って家に帰った。
この話は、売れない男子高校生作家・千谷一也(ちたに いちや)と、売れっ子の女子高生作家・小余綾詩凪(こゆるぎ しいな)が共作をするというものだ。女の子が話のプロットを作り、男の子がそれを文章にする。二人が傷つけあい、助け合いながら作品を完成させる。
読み始めてすぐにつまずいたのは、ヒロインの小余綾詩凪の読み方が全然覚えらなかったことだ。最初は名前にルビが振ってあったが、こんな名前だったら最初の数十ページは名前にルビを振ってほしい。名前を忘れていちいち戻ってルビを見直すのが面倒くさかった。
主人公の男の子の性格が暗すぎ、ヒロインの性格がキツすぎることが読んでいてつらかった。なかなか気持ちが乗らないのだ。でも、主人公の売れない小説家の苦しみがとてもリアルの描かれていて、その切実さが伝わり、もう少し読んでみようかと思わせてくれた。
私は高校生の時、小説家になることに憧れた。そんな私は未だに作家ではないし、将来もなれるかどうかはわからない。でも、未来の自分にもこういった苦しみが訪れるかもしれないと思うと、次第にこの話に引き込まれていった。
この本は小説の書き方のハウツー本としても面白く、勉強になった。具体的な書き方の書いてある本とは違い、主人公とヒロインの共作をしている過程のやりとりが、まさに今自分が直面している物語を生み出す苦しみと重なり合う。こんな風に小説を書いていくのかといった職業小説的な味わいがあり、私にはそこがツボにはまった。
二人の小説に対する深い思い、これは著者が抱いている思いと同じなのだろう。他の登場人物たちの小説に対する思いなども良かった。もし私がこんな仲間と共に青春を過ごすことができたらどんなに幸せだったか。これは著者の理想だったのかもしれない。
私は今まで漫画のように分業で小説を書くということを考えたことがなかった。でも、これからはこういった執筆スタイルが多くなっていくのかもしれない。チームで作り上げていく創作物は漫画に限らず、映画や音楽などたくさんあるのだから。
話の前半が暗い雰囲気に包まれながら進んできたが、後半になり明るく開けてくる。ここにたどり着くまで長いので、振り落とされる人は少なくないかもしれない。しかし最後まで読み通せば、全ての小説家が抱いている思い・願い・祈りを知ることができるはずだ。そして小説や作家がとても尊いものだと感じてもらえるはずだと思う。
古いブログを読み返していたら1年前にプロットを一つ書き上げて喜んでいた文章があった。その日から1年がたち、私は未だに小説を書き上げていない。執筆中の小説は4本に増えた。行き詰っているわけではないのだが、時間がなかったり、気持ちが乗らなかったりしてなかなか書けない。才能のない人間の典型だ。
小説を書き上げたいとの思いが強くなっている。不満ばかり言って筆を進めない奴は小説の神様には愛されない。涙を流して、血を吐きながらペン先を進め、小説を書き上げる人なら小説の神様は愛してくれるだろう。