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2024年以降の「農と食」は昭和を忘れること【八百屋から見た“食”no.63】

最初につけたタイトルは【今後の「農と食」は昭和を“捨てる”こと】だったのですが、ちょっと語気強いかなと思って直しました(忘れるでも強いのか)

◇売場の“昭和”◇

スーパーに代表されるように、生鮮食品売場が従来のまま(今までの仕入・陳列・販売方法・お客さんの買いかた)ではどんどん廃れるだけです。ここ30年-40年、キャッシュレスとレジ袋有料化以外、惰性の流通(仕入/販売も購入/消費も)を続けた結果、生鮮売場/農産物売場の面積は年々狭くなり、すぐ食べれる惣菜/弁当/寿司/揚げ物/パンのコーナーに変わっています。野菜売場も店によっては冷蔵ケースにカット野菜の袋詰めがびっしり。売場6坪の当店の方がスーパーの売場よりバラエティ豊富にある場合も見受けられるようになりました。“すぐ食べれればいい・口に入って満たさされればいい・調理がめんどくさい”という消費者ニーズを長年熱心に受け入れ続けた結果、青果売場は何も提案しない“置場”(旬/季節感すらない)へと変わり、年々縮小しています。八百屋/肉屋/魚屋/米屋といった個人の小規模商店も廃業もしくは惣菜店へ変わって久しいです。“量と安さと安定”がいつもあるという前提の流通はコロナ禍と毎年の天候不順を経た今、完全に詰み。青果売場は今後も縮小を続け、需要なければ売場ごと消えるのかもしれません。

◇買い物・消費者行動の“昭和”◇

売場にいけば買えるという思い込み。惰性。単なる在庫切れを大きく取り上げて騒ぎになった先日の米騒動(?)も記憶に新しいところ。
1カ月単位でみれば騒動でもなんでもなく、品切れの米棚を映しただけの報道と、毎日朝昼晩とテレビつけっぱなしで見て危機と感じて売場に走った視聴者の自作自演です。

現に、普段あまりテレビ(とくにワイドショーと朝夕の長時間ニュース)を見ないお客さんとの会話は「なんで(在庫に余裕があるであろう)お米を買い溜めしようとしているのか意味がわからない。新米もうすぐでしょ?」とおっしゃる方が大半でした。その通りです。

テレビを見続けている層ほど煽られている現実。コメの買い溜めに走った人が増えたとしたら、テレビは正しい報道&情報拡散に失敗したと言えます。野菜が高い・コメが無い報道に視聴者は食いつくだろうという昭和の固定観念の持ち主がGOを出したのでしょう。古いです。

私達は古い価値観の報道に振り回されないことが大切です。
8月9月はコメ在庫が切れがちになることを今回覚えたはず。
9月10月はトマトブロッコリー&レタスをはじめ多くの野菜が育ちにくいはざかい期。「元々少ない・元から高い時期がある」と思えば不安にもなりません。

◇生産現場の“昭和”◇

このnoteでも散々話している通り、コメであれ野菜であれ生産コスト爆上がり。人手も足りません。販売価格が上がりにくい割にコストがかかる以上、代替わりして継がせてまで農業続けようと思っている現役世代は多くありません。「いつまで農業できるか」は農業者共通の話題です。

今はまだマシです。団塊世代のおじいちゃん(我々の親)たちが農業ではまだ現役。主力ではないにしろ、貴重な人手・作業パートナーとして働いています。跡継ぎがいれば農園を継ぎますが、熟練の作業員たるご両親が働けなくなると経営面積も減ります。

なお、家庭菜園(10㎡~50㎡前後)は農業とは言いません。実家(非農家)で両親が自家消費用の野菜を作っていますが、父75歳・母69歳。どんなに畑作業出来てもあと10年でしょう。年を追うごとに育てられなくなり、メシを作らなくなり、食べ物を噛めなくなる。食事量も減る。最も人口ボリューム多い層がこの流れに突入します。

コメも野菜も果物も。
販売用の農産物・自家用の農産物も。

豊富で安定した農業生産や食品流通は【昭和の遺産・昭和の惰性】でなんとか続いていただけ。今後は(農地が減る以上に)働く人が減り続けるという大問題が農業生産にも襲い掛かってきます。農産物供給がタイトになる瞬間であり、今年8月9月に店頭からコメが消えて大騒ぎした内容そのまま、いろんな時期にいろんな品目で騒動になってしまうのかもしれません。

◇まとめ◇

いつでも生鮮食材が隙間なく売場に並び、いつでも買えるなんて思わないでください。農産物/生鮮食材/コメ/食品/惣菜に安さを求めないでください。
欠品機会も増えるでしょう。すでに通販では割と頻繁に欠品しています。それでも豊作で出来たときは自然と陳列も増え、価格が下がります。その時こそぜひ活用してください。不作や供給がタイトな時期には一定の高価格帯になります。

無理に安く手に入れた代償は、提供者の将来を奪うことと強く覚えていてください。1軒の米農家が精米機やトラクターを数百万~数千万で買って、野菜農家がアルバイトや社員を雇い燃料費を払って、ダンボールや資材を払い、物流経費を払って、白米1㎏600円(5㎏3000円)・ほうれん草1袋198円・人参1袋100円・いちご1パック398円で将来やっていけると思いますか?大規模化や経営合理化も進みますが廃業も増えます。生産現場だけでなく小売現場も同様。個人商店(食品製造&小売)も減ります。細々とでも店が続けられるのは素晴らしいことと実感しています。

2024年。昭和99年です。
働き手がたくさんいた昭和は忘れてください。
買い手がたくさんいた昭和は忘れてください。
人口が増え続け、どれだけ作っても買い手がいた昭和は忘れてください。
人口が増え続け、たくさん作って安くできた昭和は忘れてください。
人口が増え続け、たくさん運べていつでも届いた昭和は忘れてください。

2024年以降は「誰かのために作る・売る」が優先されます。
売場も物流も変わります。買い物も変わります。すでに変わり始めています。売場や店の縮小・廃業・消滅も含めて。

安いコメがないと騒ぐのではなく、
毎日トマト食べたいのに高いと騒ぐのではなく、
新米を楽しみに待つ余裕を、季節ごとに出る野菜で料理する余裕をぜひ。
そして、今までもこれからも続けようとしている生産者・販売者をぜひ応援していただけたら幸いです。


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