シャーロック・ホームズシリーズ「バスカヴィル家の犬」
深夜、銀幕のような濃霧のたちこめた西部イングランドの荒野に、忽然と姿を現わした怪物。らんらんと光る双眼、火を吐く口、全身を青い炎で燃やす伝説にまつわる魔の犬は、名家バスカヴィル家の当主ヘンリ卿を目がけて、矢のように走る――。きわだった叙景によって舞台となる特殊地帯を一種の密室のように仕上げ、息づまるばかりの緊張を生む、ホームズ物語中最大の長編。
奇妙な殺人事件と、風変わりな登場人物たち、そして非現実的な怪物。シャーロック・ホームズシリーズの作品の一つ「バスカヴィル家の犬」は一冊読み切りの長編小説である。
舞台は西部イングランドの荒野。そこに伝わる巨大で獰猛な、まるで神話にでも出てきそうな犬にまつわる伝説がこの物語の大きな鍵を握る。
この物語の面白いところは(シャーロック・ホームズシリーズはどれもそうだが)先が全く読めないと言うことである。そしてそれを「知りたい」と思わせてくれる緊張感がある。
今作の、普段の物語と大きく違うことは基本的に現場にはワトスンがいて、手紙を通してホームズに様子を伝えていることである。ワトスンが現場の様子を事細かに説明、捜索して考察を述べている。今作のワトソンは仕事量が半端ではないと言える。終盤、やっとホームズが登場した時のワトソンの安心感もよく伝わってくるし、彼があんなに嬉しがっていると読んでいるこちらも嬉しくなってしまう。ワトソンの手紙を元にしたホームズの推理は全て的を射ている。
いくら不可解なことが起きてもホームズは冷静に受け止め、解決する。読書の秋、この作品を手にとってファンタジーを現実的に解き明かしてみるのもいいのではないでしょうか。