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カルマの行方

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サラリーマン丸井和彦は平和な街"高槻市"に億劫としていた。 その丸井の前に現れた日雇い労働者宇賀はある仕事を持ちかける。                          ➖「あ…
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#昭和町

第十五話 茶道と水割りは紙一重

第十五話 茶道と水割りは紙一重

 「ペルセウスビル」の3階に目的の店があった。
 安っぽい扉の上には「赤い狐火」の表札がある。
 丸井は大きく2回深呼吸してから重たい扉を開けた。
 向かって左手側にカウンター、右手側にボックス席が2つ。客は誰もおらず、カウンターの中にポツンと1人女性がいた。
 女性は携帯電話を触る手を止め、こちらを見た。
 大きく見開いた目のクマは遠目でもすぐに確認できる。背負った悲しみが形となって現れたように

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第十四話 それでもコスモスは凛と咲く

第十四話 それでもコスモスは凛と咲く

 その日の夜、丸井は御堂筋線昭和町駅に居た。
 地上に上がり、松虫通りとあびこ筋が丁度交わる交差点に立った。
 ガードレールの端に小さなコスモスの花壇があった。
 「昭和町抗争」で治安悪化が進み、白昼堂々と衝突することもしばしばあった事から地元住民の1人がコスモスの花壇を設置した。
 コスモスの花言葉は「調和」。その花はたとえ散ったとしてもまた新しい苗が植えられ、数年間に渡りこの交差点で"願い"と

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第十三話 西成暴動が産んだ怪物

第十三話 西成暴動が産んだ怪物

 昭和町はあべのハルカスのお膝元に位置する阿倍野区の下町だ。
 かつては大阪市内南部きっての飲み屋街として発展し、大阪府内でも比較的安心して暮らしていける数少ない町だった。
 しかし、時代の波というべき"西成暴動"が昭和町を怪物へと変貌させる。
 西成暴動とは大阪府警の巡査がドヤ街にある銭湯"大関"にて、日雇い労働者と缶ビールを巡った口論に発展し、「お前ら独房ぶち込むぞ」と発言した事が後日、西成区

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