『困ったら、やめる。迷ったら、離れる。 「自分の軸」がある生き方のヒント』 玉置 妙憂
筆者は、看護師で僧侶という異色の経歴を持つ。筆者がなぜそのような人生を歩むに到ったのかは本編に譲るとして、同書は仏教の教えを元に、我々が日常生活で遭遇する様々な悩みやストレスとどのように向き合っていけばよいか、一つひとつの事項に対して、具体的な指標を与えてくれる。全体を通して一貫して伝えていることは、両極端に走るのを避け、「中道」を歩んでいくこと。そのために「自分軸」をしっかりと確立させていくことの大切さを説いている。
特に、心に残ったのは、人間関係を「三つの箱」に振り分けることや、「社会人モード」と「自由人モード」を使い分けるということ。その発想はなかったので、これらの考えに触れたとき、「なるほど!そう来たか」と思ってしまった。そして、大切なのは、この人間関係の「三つの箱」も、「社会人モード」と「自由人モード」も、決して固定的なものではなく、時や場合によって、流動的に変化するということ。そこに、変化することを前提とし、常に世の中の流れに柔軟に対応して生き残ってきた仏教というものの根本を見いだすことができる。要するに、「黒か白か」という二元論的な結論ではなく、黒と白を上手に配合していくことの大切さを同書は教えてくれる。年を取ればとるほど、「明らかにしなくてよいことは、明らかにしなくても良い」という気持ちが強くなっていくと思うが、それは決して、「有耶無耶にする」とか、「なあなあにする」ということではなくて、「もっと物事の本質的なこと;真剣に向き合わなければならないことにフォーカスするために大切なことであるのでは?」ということに気がつかされる。「自分軸」というものを、木に譬えて話を展開しているところも興味深くて、わかりやすい。「〈自分軸〉を持つことの大切さ」については、様々な場面で、これまでもいろいろな人によって説かれている処ではあるが、「じゃあ、どうやって〈自分軸〉を持てばいいのさ。育んでいけばいいのさ」ということを、仏教的な教えを軸に、非常にわかりやすく説いてくれる。
難解な仏教用語や小難しい法話に触れることなく、生きることについて、「ほっ」と肩を撫で下ろさせてくれるような、そんな優しい考え方が、本書の随所にみられる良書だ。