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第二子を授かって

 こんな時期に突如訪れてくれた女の子は私のお腹の中で日に日にあばれるくんとなり、なんだか楽しそうにしている気がする。
 長女よりかなりよく動くのか、2回目だから胎動を感じやすいのかよくわからないが、今のところ彼女は既に「あばれるくん」である。
 音楽の在り方やなんだと記事を書いて来たが、この時期の妊婦さんは大変である。

 不要不急の外出はもちろん、外来もやんわりと止められるので、あんなに混んでいた産科には検診待ちの数人の妊婦さんしかいない。 
 毎回「また2時間待ちか〜。ひえ〜。」と覚悟して、つわりで目を回しながら岩井志麻子の短編本を何冊も持って待って待合にぎゅうぎゅう座っていた頃が懐かしい。
 それに、日々条件は少しづつ変わるものの、今は立ち合いや産後の面会もできない。
 長女の時、私はなぜか真剣に「ひとりで産みたい。」と思っており陣痛が始まっても家で2時間以上様子を見て、今だ!と言う瞬間に病院へ行った。
 そして無事に分娩台へ上がると、個室の分娩室に誰か入ってくるのが無性に嫌だった。
 結構意味不明である。
 でも仕方がないので、そう助産師さんに伝えると、さすが百戦錬磨である。このくらいのことを言う人は珍しくないのだろうか。「ごめんね〜」とか言いながら顔色一つ変えずに産後の入院中のお膳の希望みたいなどうでもいい書類を書かせ、
 「じゃあ静かにしとくね。照明落としとく?なんかあったらナースコール押して。また様子見にくるから。」 
 そう言うと、スッと照明が落ちて、部屋から彼女は出ていき私はなんとも言えない体験をした。
 目に見える人は誰もいないが、今出てこようと無言ながら強烈な圧を掛けてくる人と2人で謎の時間を過ごしているのだ。そう言えば助産師さんから、体力消耗を防ぐ為だろうが、「もったいないから声我慢。」と言われたことを思い出し、ひとりになると変に冷静になるもので、
 「声ってもったいないのか…。」なんて思いながら空を仰いでいた。
 それから数時間後には呼んでもいないのにうまいことワラワラとお医者さんが、すでに胎児と赤ちゃんの狭間にいる娘の心拍数と私の心拍数を測るのにぺたぺたコードのついたシールを貼ったり、怖いのでよく見ていなかったが色々なことをし、私は途中「ちょと痛いんで、もう止めます。」と言ったりしても、助産師さんからずーっとずーっと褒められながらうまいこと胎児から赤ちゃんとなった娘を産んだ。 
 急に涙が出たりはしなかった。 
 ただ、娘を立派だなあ、と思い、ああもう別の人なんだなあともぼんやり思った。
 しかしボケっとした不安は達成感を覚える前にすぐに形のある不安に変わり、数時間休んで再び連れられて来た娘は、立派に見えたはずなのにしょぼしょぼに小さく、質感はほとんど水だった。主に窓を探して光を見ていた。
 「もうシャワーかなんか浴びさせてくれたんですか?」と看護師さんに聞くと、笑い「沐浴はまだいいよ。」と答えた。 
 そう言えば出てきた瞬間から娘はシャワーでも浴びてきたように綺麗だった。なんでだったんだろう。もうすでに幻のようである。 
 それからは、私が予習不足でボケボケしているだけなのかなんなのか、すっごくボケボケしていて、ずっと縮こまって他のお母さん達の堂々とした姿に見惚れていた。
 「人によって違う」と言うことを根本的に理解していなかった衝撃があった。
 私の考えている事は見透かされているし、このくらいでいいや、の「このくらい」がわからないし、哺乳瓶のゴムを上手くはめられないのも自分だけだと思い込んだ。今思えば、産後うつの前兆は産んで直ぐに出ていたと思う。
 幸いと、入院中直ぐに担当医の院長が私の異変に気付き、産院付きの心療内科へカウンセリングを受け、精神的には小康状態を保ちながら娘が1歳になる頃には、
「少し変わっているけどこれは私の平常運転だな」程度の元の自分に戻っていた。本当に助かった。

 油断はならないが、二度目は多分大丈夫である。
 でも、この状況が初産だったらと思うと、涙が出る。
 ひとりにしてくれ、と言って産むのと面会すら禁止の緊急事態下で産むのとでは違う。
 別に母だからと言って強くない。特に産後は強くない。
 でも、緒で繋がっている限りはまだ完全に別人ではない不思議な感覚が今は嬉しい。 

 初めてお産をする人には、見通しの立たないこれからのことではなく、「今自分の周りから誰がいなくなっても絶対に一人ではない。」と言う事の歓喜にだけ身を委ね、なんとか乗り切って頂きたい。 

 気楽に乗り切ると言うことは、性格によってはとても難しい事だけど、妊娠期間は短くも永遠に直ぐ引き出せる貴重な記憶の引き出しとなる。

 綺麗事ではなく、1分でもいいからマタニティーライフを多く楽しんだ方がお得なのだと思う。はっきり言ってひとり目の時、私は結構損したなあと感じるから言うのである。

 皆様の健康、また妊娠中の方の安産。
 並びに精神の健康。
 何より願わずにはいられない。

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