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「食べる」のしんどい#14 鶏舎のレバニラ炒め 

年末。クリスマスも終わって、完全に世間はラストスパート状態。
クリスマスでつけた勢いのまま、今年のゴールに雪崩れ込もうという魂胆が見え見えの浮ついた空気の街をわたしは歩く。
帰省やら何やらのために、PCR検査を受けて、国の優遇制度を使うべき時に使えるようにしておこうと思ったからである。
使う予定はいまのところない。
検査所では唾液をいっぱい出して、提出しろと言われて、ブースに通されたのだが、目の前には梅干しとレモンの絵が貼ってあった。
AIが絵を描くとか会話する時代だが、「梅を望んで乾きを止る」という曹操の時代と変わらないことをやっているのはどうなんだろう。
変わらない良さがあるよね。とはあまり思わない。むしろ馬鹿にされているんじゃないだろうか、と思った。

ともかく、唾を欲しいという国の輩たちに唾をくれてやったわたしは、朝というわけでもなく、昼というわけでもない時間に渋谷の真ん中に放り出された。路上には昨夜の思い出のごとく、ゴミやタバコの吸い殻がちらほらと落ちている。汚ねえ街だな、と思いながら、もう少しきれい目なところに行こうと、中目黒を目指した。ギャル以外の女子は中目黒を目指すものだ。わたしはギャルでも女子でもないおっさんだが、心は中目黒を目指す女子に近いのだろう。
その時は、どこかで何かを食べるか程度しか考えていなかったが、道玄坂をぐいぐい登って、坂の一番上まで来た時に、素晴らしいアイデアが浮かんだ。
そうだ。鶏舎に行こう、と。

鶏舎とかいて「ちいしゃ」と読む。なぜだかは知らない。
中目黒と渋谷のクロスファイアポイントである池尻大橋にある町中華の有名店である。夏限定の冷やし葱そばが名物で、一度食べたがびっくりするくらい美味しかった。比較的簡単に再現できそうなメニューなので、コンビニ各社は早くコラボメニュー出せよと思っている。
店のメニューなら何でも美味いと評判で、全メニュー制覇目論む客もいるくらいだ。
わたしも冷やし葱そば以外だと、鶏そばと餃子を食べたことがある。鶏そばは美味かったが餃子は普通だと思った。人生で一番美味いと思った餃子は梅田にある「げん気」というお好み焼き屋の餃子である。
店の美魔女のママさんにどうやって作っているのかと尋ねると、熊本から取り寄せていると言っていた。お取り寄せだ! 一番美味いのは熊本のお取り寄せの餃子だ。

何でも美味いというのは誇張かもしれないが、美味いのは美味いし、有名店なのと、営業時間が短いので中々入れない。まだ未開拓のメニューがあるので行ってみたいのだが、行く機会、入れるタイミングを得ることが難しい。
だが、今日はある。まだ昼になる前なので、まあ、入れるだろうとわたしは算段した。

行ってみると、すでに店は満員で店内には待ち客がいた。
まだ店の外に行列は出来てないので、これなら待てる。わたしは外で待った。店に来る道中からレバニラにしようか炒飯にしようか迷っていた心を整理する。ややレバニラが優勢だった。
ほどなく店の中に通される。
店の中に入ったら、メニューを渡されて、注文を決めろとぐいぐい来るので、注文は店の外で決めておいた方がいい、というのが鶏舎のルールだ。暗黙のルール。朝のコンビニで税金の支払いをしてはいけないというくらいの暗黙なルールだ。
というわけで、レバニラ炒めと店員に答えて、メニューを返す。
ワイの作法、完璧でっしゃろ、と内心ほくそ笑んだ。店員はわたしのことなど見ていなかったが。その頃には店の外に行列が出来かかっていた。いいタイミングだった。

席について、しばらく待って、レバニラ炒めと別注文で頼んだご飯とそれについてくるスープときゅうりの漬物が出てくる。このきゅうりの漬物うまいやつだな、と長年の勘でわかった。

山盛りのレバニラ炒め。


スープを飲んで、レバニラ炒めに手をつける。熱い。美味いけど、美味いと熱いがせめぎ合って、熱いが勝っていた。そして美味いとは言っても、レバニラ炒めを専門としているわたしからすれば、まあ、中レベルの味である。特に大きな驚きはなかった。そしてきゅうりの漬物が予想通りバリうまだった。米がすぐに滅びた。おそらく自家製だと思うので、これは鶏舎の勝利なのではないか。もし取り寄せだったら、どこの店でも取り寄せているものは美味いということだ。
行列のできる有名店で、美味い不味いをああだこうだしながら、飯を食べるべきではない。こういうところでは、サッと食って、サッと出るのがルールだ。たまにだらだら居座る人やおしゃべりしている人見かけるが、そんな人たちは来世は虫になってしまうんじゃないか、と思っている。お釈迦さまはそういうところも見ているぞ。

今回の勝者。きゅうりの漬物。

店を出ると、長い行列が出来ていた。こんなに並ぶの? と思うほどだ。
店の外で客たちはメニューを見てあれこれ言い合っている。店に入る頃には注文は決めておけよ、とわたしはパイセン面して、彼らの列に逆らうように歩いていく。
わたしの注文は決まっている。
次は炒飯だ。
ただ、エビ炒飯にしようか、決めかねている。


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