『口に関するアンケート』(背筋)の感想 文
背筋さんの短編『口に関するアンケート』を読んだ。書籍『近畿地方のある場所について』が評判で、でもその本は怖そうだから積読してる。だから著者の本を初めて読んだ。
60ページくらいの短い物語だけど、大学生たちは何をしたのか、それぞれの回顧もしくは自供から見えてくる真相にめっちゃ戦慄した。月並みな言葉で、月並みな状態だけれど 鳥肌が立って止まらなく怖気が主体の全身の駆け巡る作品だった。
それこそ、ぶあああって感覚で、
叙述トリック
短い中に 連続して
これからは、ほぼネタバレ、もはや解説になるけど
この小説は、これを小説と呼ぶのかよく分からないけれど、最後に数問のアンケートが付いている。その最後の質問で答え合わせのように、物語の顛末が分かるシステムになっていた。すごい。
その最後の問いの文章を読んで、驚いた。自殺した杏以外のそれぞれの大学生は全員集まって死んだらしい。
アンケートの直前、物語としての最後の一文、
赤い文字で「じゃあ、死にますね」
という一文は、結果的に杏に死の呪いをかけてしまった翔太のセリフだから、その贖罪のために翔太は死んだ、と思っていた。
その段階でもう鳥肌が立っていたのに、最後に死んだ人数は、杏を除いて一人だと思っていたが5人全員らしい。
このアンケートの最後の質問が、自分はすでに鳥肌を立てて戦慄して満足していたのに、大きな謎を残していって小説は終わってしまった。
謎を謎のままにしておく訳にはいかないので、
なんでだろうと読み返すと、恐くて真実を知りたくない気持ちとは裏腹に、だんだん意味が浮かび上がろうとしてくる。
翔太は赤い文字で「じゃあ、死にますね」と話して、死ぬ。それなら、とページを何枚も何回もめくって、赤い文字の段落の回数を数えると、これまで、4回、登場人物の最後のセリフは赤い文字で締めくくっていた。翔太は最後の5人目。いつのまにか5人の死のフラグが成立していたらしい。
音声ファイルの時間を見てみると、深夜の肝試しにぴったりな、23時10分からはじまっていた。それから約一時間、それぞれの独白ののち、それぞれロープで首を括って死んだ。
翔太、杏、竜也、美玲との4人グループと、健と颯斗のオカルト研究部の2人で、登場人物は合計6人だった。話す順番が入り組んでいたから、ちょっと登場人物たちの関係性が、ぐちゃぐちゃになってしまった。健と颯斗って2人で霊園に行ってるってこと?翔太たちとは別の時間軸の存在?って。
それもあって、最後のアンケートで告げられた5人が死んだことに疑問を持った。5人も!?
贖罪だとしても、翔太と竜也と美玲の3人だけじゃないの!?
じゃあ、あと2人はオカ研の2人は何で?って考えると
絶命寸前の杏を目撃していたんだと思い出す。なんて重大な出来事を忘れていたんだろうと思った。他のインパクトが強すぎて忘れていたけど、オカ研の2人は杏の口から発せられたセミの、呪いの、怒りの、爆音の、辞世の絶唱を聞いていた。
物語の中でも書かれていたけど、呪いの本質は祈りだから。だから杏は、全員殺してやる、と恨んで祈ったんだと思う。
「呪い」は「のろい」と「まじない」の2つの意味を持っていて、どちらも願い、お祈りであることに変わりない。っていう。おしゃれ過ぎる。好きな言葉の小話。
自分も大好きな、カネコアヤノの『カーステレオ』って曲でも
「君の不安を取り除くにはお祈り 呪術か魔法」ってある。
呪術と魔法の対立は、善と悪みたいな視点がちだけど、それらの本質はお祈りなんだなと、毎回毎回、考えてしまう。この本とはまったく関係ないんだけど、めっちゃ良い曲。
でも、なんで5人は集まって死んだのか、その理由が論理的に分からなかった。杏の祈りは、オカ研の2人が聞いたようなセミの声じゃなくても伝わるのか。
杏は、セミのように死ねという翔太の呪いを間違って受けて死んだ。
オカ研の2人は、杏のなにかしらの呪いを受けて死んだ。
じゃあ他の3人の呪いは、どうやって伝わったのか?
呪いを受けた時間は3人と2人とで違う。おそらく肝試しの日と杏が自殺した日。何日後に死ぬ、とか呪いの設定時間は無いってことかな。そんな5人が同じ時間、同じ場所に集まることの理由が分からない。
”””この私の声を聞いた奴は、全員、この霊園の大木の下でロープを首にかけた状態で、あの日のことを語り合い、自分が話し終えて許されたと思ったら、ひとりずつ台を蹴って自ら命を絶て!!!”””
って祈ったのかな。なんて注文の多い願い事なんだろう。絶対に違うし。
もう1回読めば分かるのかな?読みたくないな、こわい。
なんにしても、セミの一生のように、地中から木に登り求愛?祈り?の絶叫ののちに野垂れ死んだ(予想だけど)杏の最後は、ぞっとする。
アンケート形式で終わるって、改めてすごい小説だなと思う。それに、もはやアンケートというより答え合わせになっていて、読書が苦手な自分にはめっっちゃありがたい。
答え合わせで間違えたからこそ、読書が苦手だったのが幸いして?、2回も三回も、ページを巻き戻して真相に一歩づつ迫るごとに戦慄して、ミステリホラーの真髄を体験した気分。
読み終えて、なんとなく部屋を見回したときに、物干し竿にかかった数枚のTシャツが目に入って、なにかを思い出して、吐き気がした。
もうすこし自分が幼かったらトラウマになってた。危ないところだった。
60ページ強の物語とは思えないほどの満足感があってほんとうによかった。『近畿地方の~』はどうしようかな。もっと怖そうだから積読したままにしてよう。