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心理学を学びたい人へ 書籍紹介等

心理学を学びたい人へ、院に進める程度の知識を一応得ているものとして、どこから心理学に取り掛かればいいのかを解説したいと思います。

そもそも心理学に興味を持たれたきっかけは何でしょうか?

カウンセリングに興味があるということでしょうか? 人の心に興味があるということでしょうか? あるいは心の病に興味があるということでしょうか。

残念ながら、心理学は歴史の浅い学問です。ゆえに、基礎研究を知らなければ、応用(臨床)についても知ることはできません。

なので、まずは基礎心理学を学ぶことからお勧めします。

とりあえず、大学4年分の基礎心理学は以下の書籍で十分身につきます。

僕が読んだ本はこれより昔の版でしたが、感想としてはとにかく難しい。
心理学初学者には、まず理解できないでしょう。

他にも応用(臨床)心理学の、精神疾患についての本とか、精神分析の本とか、いろいろ読みましたが、断片的な知識でしかありません。

一番いいのは大学に入って体系立てて学ぶことでしょう。放送大学も学費が安い割には十分心理学が身につきます。最近は公認心理師の学部要件にも対応し、試験を経て実習を受ければ要件を満たすこともできます。

とはいえ、

「大学に行くのはお金がかかるしそこまで労力を割きたくない!」

という人も多いでしょう。

そういう方向けの独学法を伝授します。

まず、心理学の歴史から始めてください。ヴントとかジェームズとか、あるいは精神物理学とかの心理学の誕生のころからの歴史を学んでください。

そのための書籍として以下の書籍を紹介します。

「教育と心理の巨人たち」というこの本は、教育学や心理学の歴史を作ってきた超有名人を学んでいきます(この本を読んで初めて心理学が教育学の一部として発達してきたのだと知りました)。

ヴントとかジェームズ、ヴィゴツキーとか、多分、心理士以外でカウンセリングしてる人は知らないのではないかと思うような人もたくさん出てきます。

絶版になって価格が値上がりしているのかもしれませんが、心理学の有名人を集めた本ならほかにもいろいろあると思います。心理学を作ってきた人、そして心理学の歴史を、まず、学んでください。

そうすると最終的に、おおざっぱな流れが理解できてきます。そしてその古い心理学も、現代の心理学に使われていることも理解できます。

例えば、精神物理学というものが心理学の初期にありました。今はさほど研究されていないかもしれませんが、人間の感覚と刺激の関係性の学問です。何グラム以上の負荷をかけるとどう感じるか、人間は重さと重さの違いは何グラムまでなら調べられるか(弁別の閾値はどこかということです)。

そんな一見、今の時代の心理学に生きていなさそうな学問ですが、しかしこれがしっかり生きているんです。

よく病院で「痛みは10のうちどれくらい?」などと聞かれることはないでしょうか? これは精神物理学のマグニチュード推定法と同じ発想です(看護学と心理学のどちらが先なのかは知りませんが)。心理学は歴史が浅い学問なので、古典的な方法は今でも使われていることがあります。

さて、他にも「泣くから悲しいのか、悲しいから泣くのか」とか、言語発達の仮説とか、本当に様々なものが議論されてきました。そしてたどり着くのです。

「人間の心はわからない」

ということに。

つまり、人間の心はブラックボックスで、理解できるのは行動だけだ、という行動主義の誕生です(かなり端折りましたが)

パブロフの犬とか、スキナー箱などは有名です。不随意運動、条件付けなど、有名な考え方や技法が出来てきます。

その後コンピューターが誕生し、認知主義が生まれます。人間の心、あるいは脳をコンピューターの類推として考えるというものです。人間の心の仕組みを理解する取り組みがコンピューター研究、認知科学、認知神経科学としてみるみる発展していきます。

さて、それらの融合した、応用心理学が、認知行動療法です。

つまり、行動療法が先にあって、そこに認知主義的な考え方が加わって、認知行動療法が出来上がった、というわけです。

言い換えれば、行動療法も、派生というか、さらなる発展をしていっています。応用行動分析などがその例でしょう。行動主義の条件付け理論をもとに、心理支援を行います。

そうなると、認知行動慮法はこういった行動主義と認知主義の歴史を丸々飲み込んだ一つの集合でしかないということがわかります。決して認知行動療法という特定の治療法があるわけではないのです。極端に言えば、認知主義、行動主義の理論を踏まえていれば、それは認知行動療法なのです。

さて、ここまで見てきて、心理学の歴史や、基礎心理学が応用心理学、臨床心理学にいかに役立っているかがわかるでしょう。(認知行動療法という言葉はご存じだという上でお話ししています)

おそらくこの歴史を理解しないと、「認知行動療法って結局何?」ってなっていると思います(当初の僕もそうでした)。

基礎心理学がいかに重要か、そして基礎心理学がいかに使われているか、ということを知らなければ、カウンセリング理論を習っただけでは浅いカウンセリングしかできないでしょう。

歴史を知ったら、知識を固めるために、より網羅的に学ぶべきです。

そのためには「心理学概論」がおすすめです。

心理学概論 という名前のまま講義の科目になっていたり、そのままの名前の書籍が様々に売られています。

これは学習者のレベル、読解力に合ったものを選ぶといいでしょう。心理学概論の書籍のリンクを貼っておきます。放送大学出版のものは読みやすいですよ。

放送大学ではこの講義だけはなくなりそうな気配がないので、改訂されながらも「心理学概論」の名前で書籍が出版され続けると思います。

これで網羅的に学んだら、次は人格心理学です。これも大学では必修とされています。

人格心理学も放送大学出版のものは分かりやすいです(なんだか放送大学の回し者みたいですが、読みやすさと十分な内容を兼ね備えている放送大学出版の書籍はなかなかのものです)

このあたりから人間をロボットのように感じていた人は、人間らしさを学ぶような感覚になるかもしれません。機械として理解していた歴史から、「人格」というものが登場するのですから。

次は認知心理学かなと思います。理論が難しくてそれだけを研究し続ける人もいるくらいで結構大変ですが、まずは認知心理学です。頑張ってください。

更に認知神経科学、あるいは生理心理学などが続きます。人間の脳内はどうなっているのか、などです。大脳、小脳、脳梁、偏桃体、帯状回といった脳部位、あるいはウェルニッケ野がどうとか、脳のマッピングの仕方も学ぶでしょう。「○○疾患になると前頭前野の血流量が低下する」の意味も分かってくると思います。血流量が低下しているというのはfMRIで非侵襲で輪切りに写真を撮ればわかるが、それが何を意味しているのかは仮説でしかないということです。

人間の脳の何が調べれて、何が調べられないか。例えば、血流量は調べられる。脳波も調べられる。PETを使って放射線同位体を血液中に入れて、糖の吸収は調べられる。などなど。一方、細かいシナプス間隙の化学物質の移動などは確かめられていないということもわかります(つまり、うつ病でセロトニンが不足しているという理論は、抗うつ薬の作用機序をもとに作られた仮説に過ぎない、誰もシナプスの間で抗うつ剤によるセロトニンの再取り込み阻害作用を確認したわけではないということもわかります)。

ちなみに、人間の考える速度って無限に早いと思っていませんか? 神経の伝達速度を考えたり、ニューラルネットワークと呼ばれるシナプスによる処理システムを考えたりしてくると、どうやってその速さが実現されているか、あるいはどこまでが限界なのかがわかってきます。

リベットの0.5秒なんて話も聞いたことがある人もいるかもしれません。

認知神経科学、あるいは生理心理学はいくらでも書籍があふれかえっていると思います。手に取ってわかりやすいものを探せないくらいです。

ただ、ここまで読んでくださっている読者の方は、そろそろ心理学の本の調べ方のコツがわかっているのではないでしょうか?

つまり、「心理学概論」とか、「認知神経科学」とか、「人格心理学」とか、そういう堅苦しいタイトルで、開いてみると読みやすいものが一番いいということです。

つまり、元も子もないですが、書店へ行って手に取って確かめてください。

ですが話は続きます。

認知神経科学、が終わったら、というより並行した方がいいかもしれません、発達心理学、乳幼児心理学、比較認知科学などなども調べる必要があります。

もっとも、「錯覚の科学」という講義が放送大学在籍中にあったのですが、「要らないだろうな」と思いつつ読んでみると仮現運動のことが書いてあり、それがのちに公認心理師試験の模試に出てきてびっくりしたことがあります。

とはいえだいたい基本的なところは押さえられているので、あとは周辺をかじっていればいいです。

ふと、一番最初の東京大学出版会の「心理学」を振返ってみてください。きっと半分くらいは理解できるようになっているはずです。

「あれ、臨床心理学は?」

という声が聞こえてきそうです。

そうです。まだ心理臨床というものがあります。ですがこれは基礎心理学を学んでいる後半ぐらいから取り掛かってください。先述したように、基礎を生かしているものもあるからです。

あるいは、精神分析は認知行動療法の方からは科学的ではないといわれています。反証可能性がないからです。しかし治療のための知の体系として、非常に有用です。個人的には精神分析の方は治療ができても認知行動療法は浅いことしかできないのではないか、と思っています。

心理臨床に取り掛かるとき、まずは基礎心理学と臨床心理学は心理学の二本立ての別物、と思ってください。相互に関連はしますが、関連しないものも多くあります。

心理臨床の概論のような本があればまず読んでみてください。雰囲気をつかみ、心理臨床独特の”コトバ”を理解してください。

また放送大学出版になりますが、時々振り返ることがあるのでそれなりの良書だと思っています。

治療枠とは何ぞや、構造とは、セッションとは、様々な心理療法について……かなり網羅的に書かれています。心理臨床に迷ったら、振返ってみるのにもお勧めします。

心理臨床は実際のところ、実習を伴いながら出ないと身につきません。少なくともロールプレイをしながら、カウンセリングの練習をしたり、アセスメントの練習をしたり、ケースフォーミュレーションのやり方を習ったりというかなり実践を伴う学問です。

なので、放送大学でもおまけ程度にしか学べず、あとは独学で調べ続けていました。

あと、大学によるかもしれませんが、大学の流派が臨床心理学の授業に影響があるかもしれません。認知行動療法の強い大学だと来談者中心療法+認知行動療法。放送大学は当時ユング心理学が強かったので、ユング心理学や分析的な勉強をさわりだけしました。(技法を学びながら「絶対にやってはいけません」と先生に言われるというちょっと笑えない講義でした)

大学4年間の心理学はそんな感じです。多少カウンセリングの基本的態度程度のことは習いますし実習もしますが、大して行いません。

続き(臨床)は大学院で、という感じの尻切れトンボが大学の心理学です。

それなら最初から6年制にしてくれよ、と思うのですが……

ただ、僕は精神分析に興味があったので、精神分析についてひたすら調べました。それはまた別の記事で書ければいいなと思います。

この記事までも尻切れトンボな感じですが、大学だってそうなのだから、こんな記事になるのはしかたないかなと思っています。

ただ、基礎心理学だけは十分学べるのでご安心を!

というところで、ざっくり心理学の独学法を書いてきましたが、はっきり言って、放送大学に入る方が安くつきます。読みやすい書籍にあたるまで買い漁らなければならないコスパの悪さことを考えると、放送大学で科目履修生とかで授業をとっていったほうが、ずっと安いです。

紹介してきた本も放送大学のものばかりですし、放送大学は心理に力を入れているので、質もそれなりにあります。

ですので結論としては、放送大学の科目履修生という選択肢が独学のベストではないかと思います。

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